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消費経済レビュー Vol.26
格差消費-再階層化社会の下での消費の姿

 本稿では、格差を巡る議論の中で関心を寄せられてこなかった「消費の格差」に着目し、家計レベルでのマクロの消費水準に止まらず、個別具体的な支出項目レベルでの支出水準に関する格差を評価するとともに、そうした消費の格差が収入や資産の格差とどう関連しているのかを、検討した。
 格差を測るための指標として「上位10%にあたる人達への集中度」という概念を採用し、各商品・サービスへの支出の「上位10%面積割合(%)」を計算すると、消費の格差は大小幅広いものとなっている。同様の手続きで測った労働収入額や資産残高および資産収入額の「上位10%面積割合(%)」と比較すると、一部の商品・サービスでは、支出の格差は収入や資産の格差を上回っていた。
 労働収入、リスク資産運用収益、不動産運用収益という3種の収入源を合計したものを総収入額と定義し、各層の構成比が10%前後となることを目安に総収入額を八つに再区分した総収入額クラスによって、階層の違いがうまく捉えられる。総収入額クラスは、家計の雇用・収入構造によって顕著に異なる。地域格差を考慮すると、総収入額クラスは地域により頂点の位置の異なる分布が合わさった複峰型の分布と理解できる。
 総収入額クラス別に各商品・サービス項目での支出水準の違いをみると、支出水準は、上の階層で高く、下の階層では低い傾向がみられる。奢侈財の場合には、女性の上の階層で、支出水準の顕著な高さが認められ、旅行・レジャーなどのサービスでは、男女の上の階層で支出水準の顕著に高い。チャネル選択パターンにも、階層による違いが顕著にみられる。トレーディングアップ(ダウン)の傾向は上の(下)の階層で強く、女性の上の階層でトレーディングアップの傾向は際立つ一方、男性の下の階層では、トレーディングダウンの傾向が際立つ。支出の量的水準の面でも、消費行動の質的な側面でも、性差も加味した総収入額クラスによって、消費のパターンが大きく異なっている。
 階層の上下(具体的には、収入水準の高低)だけでは単純に説明がつかない部分を生み出している要因を探る手がかりとして、総収入額各クラスの人的特徴や意識面での違いに着目すると、支出行動や支出意欲、価値観や生活意識なども、階層差が鮮明である。
 支出関連の一部の項目で、収入や資産の格差以上に、消費の格差の方が大きくなっていることは、格差を巡る議論の中で、殆ど注目されてこなかった事実である。消費の格差を生み出している要因として、消費の格差が収入や資産といった富の大小では捉えきれない社会的ステイタスの高低を表すシグナルとして働いている可能性、格の違いを他人にみせつけるための「みせびらかし」の手段として消費の格差が用いられる可能性、他者への嫉妬や妬みなどを原動力とした相手との対抗心のせめぎ合いから互いの消費水準の拡大がエスカレートしていく可能性、などが考えられる。
 消費の格差のうち、収入や資産の格差の影響が強く働くケースであれば、厚生経済学の第二定理に依拠した初期値の配分の調整という考え方が、格差是正の是非を見極める有力な導き手となる。だが、消費の格差には、収入や資産の格差だけでは拾いきれない、自身の選好やその背景にある意識の問題が絡んでいる。消費の格差に「消費の『外部性』」が強く影響している場合には、厚生経済学上の判断はより厄介なものとなる。


(2015.04)


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