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消費経済レビュー Vol.24
購買行動のリアルとネットとの融合

 本稿では、食品と家電製品を例に、ネットの影響の浸透によって購買行動プロセスにどのような変化が生まれつつあるのか、購買行動のリアルとネットとの融合の行方を考察した。
 今回の調査から明らかになったこととして、食品ではリアルチャネルの影響力が強いが、家電製品でネットチャネルの存在感が際立っている。食品では店頭主導型が半分を占めるのに対し、家電製品では実店舗一貫型とWEB一貫型が約4分の1ずつである。下の世代や低収入・低資産層ではネットチャネル重視、上の世代や高収入・高資産層ではリアルチャネル重視、の購買行動が目立っている。ネットの介在の影響の濃淡のほか、関与度や情報リテラシー、時間のゆとりや機会費用などが、購買行動の違いをもたらしている。特に、ネットの介在により情報収集時間は長期化する一方、買い物時間は長短双方に分離する傾向がみられる。情報収集意欲の強さと選択眼への自信がネットチャネル重視の購買行動を支えている一方で、店頭での迅速な意思決定による買い物がリアルチャネル重視の購買行動の特徴となっている。
 購買行動プロセスへのネットの影響の仕方として、本稿は、ネットとリアルが共存しつつ消費者のニーズに応じて変化していく中で、ネットの影響が徐々に浸透しながらネットとリアルが融合していく、という考え方に立っている。状況に応じてネット優位またはリアル優位の状態が現れたりしながら、購買行動プロセスの分解・再構成が進んでいく。その結果、リアルとネットとの相対的な影響度の濃淡に応じ多様な購買行動パターンが生み出されるが、これらは最終的にいずれが生き残るかといった択一的なものではなく、消費者のニーズに応じて複数のパターンが併存するとみた方がよい。
 以上に述べた立場・考え方を前提にすると、リアルとネットの融合が進展した先に見えてくる購買行動プロセスの未来像は、次のようなものとして理解・評価できる。ネット化の進展は、消費者の認知や行動にかかわる三つの制約を緩和していく。具体的には、時間制約の緩和、アクセス制約の緩和、行動制約の緩和の三つである。三つの制約の緩和を通じて、購買行動のリアルとネットの融合はますます進み、顧客との接点の捉え方も加法的な接点の理解から乗数的な接点の理解へと変質していき、その結果として新たに見出される接点の数も累積的に増えていく。リアルとネットの融合の先に見えてくる購買行動のスタイルの変化としては、次の三つが考えられる。変化のひとつ目は購買行動のショート化であり、その結果として出てくるのが、ひとつは「店頭での衝動買い」であり、もうひとつが「ネット購入」による買い物の効率化である。変化のふたつ目は購買行動のルーチン化であり、その結果として出てくるのが「反復購買行動」である。変化の三つ目は購買行動のロング化であり、その結果として出てくるのが、ひとつは沢山の情報を積極的に入手しながら自分にとってベストな商品を絞り込む「ネットメイン」の購買であり、もうひとつはニッチ商品などの購入を中心とする「テールメイン」の購買である。こうした消費者購買行動の多様化、多元化が進むことで、市場のテール化はますます進んでいく。
 企業側の対応が現状のまま、この先、市場のテール化が進んでいけば、顧客接点の「数」の不足と「質的」なミスマッチはますます拡大していく。リアルとネットの融合によってもたらされる、こうした新たなマーケティング課題に応えていくためにも、顧客接点のリ・デザインが必要とされている。

 インターネットの普及・浸透の下で、購入先としてのネットチャネルの存在感が高まるとともに、マーケティング・ツールとしてのネットに対する期待感も強まっている。だが、ネット化の進展がもたらしつつあるものは、ネットかリアルかといったチャネルの覇権争いや、マーケティング・ツールの高度化の帰結としてのネット万能論などのような、部分的ないし表層的な現象レベルのものにはとどまらない。むしろ、それらの現象の深層にある、認知に始まり評価、態度、購入に至る購買行動プロセス全般にかかわる質的かつ構造的な変化であることを、見落としてはならない。
 本稿では、ネット化の進展が消費者の購買行動に及ぼす影響を吟味する狙いの下、食品と家電製品を例に、現状における認知、情報収集、購入の各経路におけるネットの影響度を把握するとともに、ネットの影響の浸透によって購買行動プロセスにどのような変化が生まれつつあるのか、購買行動のリアルとネットとの融合の行方を考察する。


(2014.07)


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