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消費経済レビュー Vol.24
消費税増税を節目とした支出意欲の高まり

今回の消費税増税前後での消費の動きとしてまず注目されるのは、前回の増税時(1997年)を上回る、増税前の駆け込み需要の盛り上がりである。低収入層ばかりでなく、経済条件が恵まれている高資産層でも、増税前の駆け込み購入が顕著にみられた。日常生活財21品目でのまとめ買いの分量から、駆け込み需要の反動減の期間は平均3ヶ月、最大でも5ヶ月程度と見込まれる。日常生活財21品目での駆け込み需要発生時の支出規模は月あたり約1.5兆円、ふだんの13%増と見込まれる。日常生活財での駆け込み需要と反動減のプロセスをシミュレーションしてみると、財ごとにその特徴は分かれる。反動減終了後の回復のペースはその後の成長期待に左右され、成長期待が十分に高ければ年度末には前年度に近いレベルまで需要が回復する可能性もある。
 耐久財・奢侈財でも幅広く、消費税増税前の駆け込み需要の盛り上がりはみられた。2013年度末にかけて、駆け込み購入の主力は、住宅やクルマなどの大型耐久財から、情報通信機器や白物家電などのIT・家電へと移っていった。ただし、耐久財・奢侈財では、消費税増税後の需要反動減により、今後の購入意欲の落ち込みが総じて認められる。駆け込み需要が盛り上がりをみせていた財では落ち込みぶりが際立っており、反動減による需要低迷の期間も長期化する恐れがある。
 消費税増税という逆風の中でも、消費者の支出意欲は引き続き堅調さを保っている。低価格志向並びに価格重視姿勢へのシフトの動きは弱まっており、一部の財では品質重視姿勢への転換の動きもみられるなど、支出意欲の面で前向きな動きが出てきている。
 消費税増税の前後で支出意欲をとりまく要因構造に生じた変化を確認すると、同じ節約姿勢の変化であり、同じ物価見通しであるにもかかわらず、実際の支出行動への帰結はいずれも2時点間で正反対のものとなっている。「世帯支出増減」と「節約姿勢の変化」並びに「物価見通し」との関連性を示したクロス集計結果からは、節約姿勢の強まりや物価の上昇見通しなどが支出増加への動きを牽引していることがわかる。物価上昇見通しが定着するとともに、節約姿勢が緩和傾向から強化傾向へと転換し、その後更なる強まりをみせていったことで、支出増加への動きが促されているというのが、調査結果からみえてくる消費税増税前後での消費の変化の姿である。
 物価上昇見通しの定着という点では同じような状況にありながら、実際の支出行動は減少の動きから増加の動きへと全く正反対のものとなるのはなぜなのか。経済学における物価上昇の効果としての「代替効果」と「所得効果」による説明を援用すると、そのメカニズムを最もうまく表現できる。現在観察されている、「節約姿勢の強まりによって、(現在の)支出を更に増やすようになる」といった行動は、代替効果が所得効果を上回る場合における最適反応である。節約姿勢の転換が意味するものは、「所得効果が代替効果を上回る状態」から「代替効果が所得効果を上回る状態」への質的転換である。その究極的な原因でもある、「将来使うことをより優先する」から「いま使うことをより優先する」への消費者の選好の変化が、支出意欲をとりまく要因構造の変化(レジームスイッチ)の本質である。更に、将来における収入見通しの改善の追加的効果が上乗せされることで初めて、現在時点での支出増加の動きと支出の減少意向の相殺・緩和という、消費税増税後に顕在化している消費の動きは説明可能となる。

 2014年4月に消費税増税が実施されてから、既に3ヶ月が過ぎている。消費税増税前の駆け込み需要は前回(1997年)の増税時を上回る大規模なものであったことが知られてはいるが、今回の消費税増税後の反動減の出方は今のところ、駆け込み需要の規模と比べても、また前回(1997年)の増税後の反動減の出方と比べても、比較的軽微なものに収まってはいる。目下、消費税増税後の反動減の影響も想定の範囲内に収まっているとの見方が有力であり、消費税増税前に喧伝されていた増税後の景気の腰折れ不安などの悲観論も、今のところ台頭してはいないようだ。2014年4月の半ば頃から5月の半ば頃にかけてベタ凪で推移してきた株価も、その後は上昇傾向に転じ、6月に入ってからは度々1万5,000円台に乗せるようになり、6月下旬以降は1万5,000円台での推移が続いている。6月24日に閣議決定された2014年度の「骨太方針」と「新成長戦略」が今後の景気と消費に及ぼす影響は未知数ではあるが、マーケットの動きをみる限りでは、景気の先行きに対しては底堅さが期待できそうでもある。
 本稿では、弊社ネットモニターを対象にこれまで継続的に行ってきた調査の結果をもとに、消費税増税前後での消費の動きとして注目できる現象を整理した上で、消費税増税が消費にもたらす影響を考察する。


(2014.07)


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