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消費経済レビュー Vol.9
II.家計のリスク資産へのシフトはなぜ進まないのか-運用動機のクラスター・セグメント

 1990年代後半より始まった金融ビッグバンの下、間接金融偏重から直接金融重視へのスタンスが打ち出され、金融業界規制の大幅緩和がなされると同時に、家計のリスク資産のウェイトを高めるべく、リスク資産投資の敷居を下げる試みも進められてきた。
 2003年以降、株式市況の好調さも追い風にして、家計のリスク資産比率は2006年ごろまでは上昇トレンドを描いてきたものの、日本の家計における安全資産偏重の体質はいまだ根強く、遅々としながらも進展してきたリスク資産へのシフトにもややブレーキがかかりつつある。
 日本の家計のリスク資産比率が伸び悩んでいる要因としては、2007年後半より顕在化した株価の下落に加え、リスク資産への投資家層自体の伸び悩みが挙げられる。市場参加者が固定的で頭数と資金量の両面で層の薄い市場では市況変動がより増幅されやすく、価格変動リスクの高まりは潜在投資家層の参加意欲を減退させると同時に、リスク資産投資のメリットを低下させ既存投資家層の市場からの撤退を促す誘因となる。
 家計におけるリスク資産運用への関心は高まりつつあるにもかかわらず、取組意欲は全体として低調である。リスク資産運用への取組意欲の差は、資産選択に大きな違いをもたらしており、リスク資産比率の決定で最も重要な要因となっている。段階的購買行動モデルをベースにリスク資産比率の決定要因を抽出整理すると、リスク資産比率の決定において核となるのは、「リスク資産運用取組・非取組動機」から「リスク資産運用取組意欲」を経て、「リスク資産比率」に至るプロセスである。
 リスク資産比率決定の起点として重要な、リスク資産運用への取組動機及び非取組動機を、数量化Ⅲ類により類型化した。リスク資産運用への取組動機は八つに分類でき、その主なものとしては、資金増殖動機、将来不安動機、計画的分散投資動機などがある。他方、リスク資産運用への非取組動機は六つに分類でき、その主なものとしては、リスク資産への不安・不信動機、資金制約動機、資産防衛動機などがある。
 家計のリスク資産シフトを妨げている悪循環のメカニズムの起点にあるのは、「リスク資産市場への不安・不信」と「リスク資産運用の負担感の増大」という、家計のリスク資産へのシフトのブレーキ要因となる2動機である。これらはともに、リスク資産運用意欲の低下をもたらすことでリスク資産投資からの撤退を促し、リスク資産投資家層、並びに、リスク資産への資金流入は縮小し、家計のリスク資産比率は低下していく。頭数と資金量の両面で市場参加者の層が薄くなりリスク資産市場の不安定化が進むと、リスク資産市場への不安・不信は高まるとともに、リスク資産運用の負担感はさらに増大する。こうした悪循環のメカニズムから脱却して好循環のメカニズムへと逆転させるための起点となるのは、「リスク資産市場への信頼感上昇」と「リスク資産運用の負担感の軽減」である。これらとともに、リスク資産運用意欲の上昇をもたらす経路として「将来不安への自力解決姿勢」という、家計のリスク資産へのシフトのアクセル要因も重要である。
 家計のリスク資産シフトの実現に向けてこれまで進められてきた一連の施策は主に、「リスク資産運用の負担感の軽減」と「将来不安への自力解決姿勢の促進」に焦点を当てたものであった。他方、リスク資産への投資に後ろ向きな層や全く忌避している層に対してはリスク資産市場への信頼感を高めることが重要であるが、金融ビッグバン後の対応を見る限り、リスク資産市場への信頼感上昇に寄与するような法の制定・運用といった施策は若干後手に回った観がある。
 リスク資産市場への信頼感上昇に寄与する施策の狙いは、あらゆる投資の可能性が開かれている下で、自らの知識とリスク許容度に応じ、服すべき取引ルールと投資対象を選択できるという、機会の平等性と結果の多様性に支えられた投資家保護にある。家計のリスク資産シフトを促すのに必要なのは、投資入門層から専門的投資家層まで受容可能な、リスク資産市場の多様性であり、その実現には、様々な知識レベルとリスク許容度をかかえる投資家たちが不安なく市場に参加し続けられるような取引ルールを設計する行政の側の知恵と、投資家層の違いに応じて投資対象を組成または提示できる金融機関の側の才覚が、同時に求められる。金融機関の側においてはとりわけ、長期投資に向いた金融商品の開発や投資情報サービスの充実化など、投資入門層により重点を置いたマーケティング対応が重要となろう。
(2008.06)


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