半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

消費経済レビュー
III.地域間価格差別化の経済分析


 本稿は、マクドナルドが先鞭をつけた地域間価格差別化につき、経済学の観点から分析・検証を試みるものである。特に注目すべきは、地域差を切り口とした価格差別化の有効性が、高まっていることである。こうした地域差の存在は、企業に対し、新たな収益機会を提供するものとなりつつある。
 地域間価格差別化の成立を支える条件は、「都市部と地方との間での購買力格差」「都市部と地方との間での市場規模格差」「都市部と地方との間での嗜好の差別性の差異」の三つである。これらの格差や差異の背景にある地域間格差の拡大は、価格差別化の成立を促す方向に作用している。
 地域間価格差別化の成立条件が充たされている場合、企業の側には価格差別化のメリットが必ず存在することになる。更に、上記条件がより強く成立していればいるほど、価格差別化戦略を採用したときに得られる利潤は、ますます大きなものとなる。地域間格差の拡大によって、価格差別化の成立条件が充たされやすくなるとともに、企業にとって価格差別化戦略を採ることで得られるメリットは、より一層大きなものとなる。拡大する地域格差は、企業に対し、新たな収益機会を提供するものとなりつつある。
 他方、消費者の側から見ると、地域間価格差別化は都市部の消費者には不利に、地方の消費者には有利に作用することになり、消費者全体で見た場合には不利な結果がもたらされる。社会全体の観点から見ると、生産者が得られるメリットの増加分よりも消費者が被るデメリットの増加分の方が上回るとともに、地域間価格差別化によって生じる社会全体での損失の大きさは、地域間価格差別化の成立を支える前提条件の3要因が強固に成立していればいるほど、より一層大きなものとなる。地域間格差の拡大傾向が不可避のものである限り、地域間価格差別化の普及・浸透は、社会全体の観点から見た場合に望ましいものとは言い難い。
 地域間格差の拡大が、地域間価格差別化そのもの有効性を高めると同時に、社会的デメリットの拡大ももたらしている。ただ、ここで注意すべきは、消費者全体で甘受せざるを得ないデメリットを、都市部の消費者がもっぱら被っている、ということである。地域間格差の拡大により、購買力、市場規模のいずれも都市部の消費者の方が有利な立場にあるにもかかわらず、これらの前提条件3要因はいずれも、地域間価格差別化によって都市部の消費者がより不利益を被る形になっている。地域間格差の拡大の下、経済力の面では明らかに優位な立場にある都市部の方が、地域間価格差別化により、消費者としては弱い立場に立たされるのである。
 地域間格差の拡大により購買力、市場規模、嗜好の差別性などの格差や差異がますます広がる中で、市場で独占的地位にある企業は、地域間価格差別化戦略を採用することで、単一価格戦略の場合よりも必ず利潤を増やすことができる。地域間価格差別化は、企業の独占力を最も効率よく利益に変換する仕組みに他ならない。
 企業にとって新たな福音となりうる地域間価格差別化も、価格差を強制できるだけの独占力の存在抜きには成立し得ない。価格差別化戦略の実践にあたっては、この独占力を維持できるかどうかにつき、冷静な判断が求められる。「傘下の店舗であれば全国どこへ行っても同じ商品ならば同じ条件で買える」ということは、マクドナルドのようなフランチャイズのメリットとして無視できない。だが、地域間価格差別化はこうしたフランチャイズのメリットを減殺し、独占力そのものを損なう恐れもはらんでいる点には、注意を要する。

(2007.10)


消費経済レビューの本文は、プレミアム会員をご利用ください。
消費経済レビューは、プレミアム会員限定コンテンツとなっています。
プレミアム会員は、当社メンバーシップサービスの全てのコンテンツに加えて、
「情報家電産業のリバイバル戦略 -エンド価値志向の多層化戦略-」ほか、
当社のオリジナル研究レポートのご利用が可能なプレミアムサービスです。
この機会に是非プレミアム会員へのご入会をご検討ください。

お知らせ

2025.03.06

クレジットカード決済に関する重要なお知らせ

新着記事

2025.05.07

なぜ井上尚弥選手はダウンしたのか

2025.05.07

企業活動分析 アサヒグループHDの24年12月期はプレミアム化の進展や価格改定効果などで増収増益に

2025.04.25

成長市場を探せ 少子化ものともせず、拡大する学習塾市場(2025年)

 

2025.04.24

25年2月の「広告売上高」は、10ヶ月連続のプラス

2025.04.23

25年3月の「コンビニエンスストア売上高」は2ヶ月ぶりのプラスに

2025.04.22

トランプ関税の正義、賢愚、そして帰結 - ポストグロ-バル経済と自由貿易体制(上編)

 

2025.04.22

25年2月の「旅行業者取扱高」は19年比で78%に

2025.04.21

ポートフォリオ戦略からダイナミック・ポートフォリオ分析で統合経営へ

2025.04.21

企業活動分析 2024年12月期のアルファベット(Google)は、検索、AIとも2桁増で過去最高更新

2025.04.18

消費者調査データ カップめん(2025年4月版)別次元の強さ「カップヌードル」、2位争いは和風麺

2025.04.17

25年2月の「商業動態統計調査」は11ヶ月連続のプラス

2025.04.16

25年3月の「景気の現状判断」は13ヶ月連続で50ポイント割れに

2025.04.16

25年3月の「景気の先行き判断」は7ヶ月連続の50ポイント割れに

2025.04.15

25年2月の「消費支出」は4ヶ月ぶりのマイナスに

週間アクセスランキング

1位 2024.05.10

消費者調査データ エナジードリンク(2024年5月版)首位は「モンエナ」、2位争いは三つ巴、再購入意向上位にPBがランクイン

2位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

3位 2025.04.11

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター チョコレートの今後購入意向は80%以上! 意外にも男性20~30代と管理職が市場を牽引

4位 2024.10.24

MNEXT 日本を揺るがす「雪崩現象」―「岩盤保守」の正体

5位 2024.11.06

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場  背景にある簡便化志向や節約志向

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area