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消費経済レビュー
III.設備投資競争の経済分析

 シャープとサムスンによる液晶パネル工場の設備投資競争は、まだまだ止む気配を見せない。両者による競争の次元は、取り扱い可能なマザー・ガラスの世代の高低に始まり、生産可能なマザー・ガラスの枚数の大小、追加・増強投資も含めた設備投資の金額の多寡にまで及んでいる。
 世間の注目を集めている液晶パネル・液晶テレビ業界ではあるが、この業界の先行きに対する議論は、旧来の「過剰設備論」の域を出ない。また経済学の分野においても、液晶パネル・液晶テレビ業界に関する理論・実証研究は、今のところ目だったものはないようである。
 本稿では、寡占モデルを用いて液晶パネル・液晶テレビ業界の分析を行った。液晶パネル工場の設備投資競争は、はじめに設備投資を行って最大生産量を決定し、その後で価格競争を行うというモデルとよく合致する。モデル分析より、次のような結果が得られる。技術水準などの理由により先発企業・後発企業があるとする。市場が急成長しているときには、先発企業による参入阻止はメリットが少なく、後発企業にも活躍の余地が残される。しかし、市場の成長速度がゆるやかになると、先発企業は、設備投資額を大きく設定することで、後発企業の参入を阻止しようとする。その結果、後発企業は非常に不利な立場に追いこまれてしまう。以上の結果を踏まえると、液晶パネルメーカーが採るべき戦略とは、市場が急成長しているうちに優位を築き上げ、成長が鈍ったタイミングで一挙に設備投資をして後続を駆逐する、というものである。
 現在、シャープとサムスンの間で展開されている設備投資競争がエンドレスなものとなっている理由は、市場の成長性が十分に高く、市場規模の天井がまだ見えていないことにある、と考えられる。アグレッシブな設備投資によって一時的に優位を確保できたとしても、市場の成長率が高い状況では、競合企業を市場から退出させる決定打とはならないのである。
 現在の液晶テレビ市場の中心は、日・米・EUの先進経済地域であるが、世界経済にまだまだ残されている成長余力を意識するならば、液晶パネル市場が需要の天井に到達するのは、まだまだずっと先の話と思われてくる。「液晶パネルメーカー各社の設備投資水準は、現状では余りにも過剰である」との論調があり、生産調整ひいては設備投資水準の調整を薦める向きもあるが、市場成長の天井が見えない限り、シャープもサムスンもお互いに、引くに引けない状況で設備投資競争を続けるほかないのである。

(2006.08)


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