季刊 消費経済レビュー |
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III. 特集:Cool Japanの表層と深層 ―日本のアニメ制作業界の分析 |
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今や国際共通語となりつつある「ANIME」。世間的な知名度の多寡を問わず、数多くの日本のアニメ作品が世界で高い評価を得てきた。日本のアニメ作品は、「時を越え、海を越え、文化を越えていく」浸透力の強さを誇っている。 世界的に見て高い評価を浴している日本のアニメ作品も、コンテンツ産業全体からみれば、ごく一握りの存在でしかない。アニメ制作業は、売上面ならびに収益面の双方を見ても、"つつましやかな職人気質のマニュファクチャー"である。政府関係機関の力を頼らず、世界的に見て安価でクオリティが高くかつ国境を越えた市場浸透力を兼ね備えたアニメ作品の作り手として、アニメ制作業は競争力のある産業の萌芽を潜在的に内包しつつあった。だが、アニメ制作会社自身を含めた業界関係者の大多数が、目先の収支に拘泥し、業界の更なる飛躍の可能性を見落としてきた。 業界の成り立ち以来、アニメ制作業界は収支面で恒常的赤字体質を抱え、"アニメ絶望工場"ともいうべき状態が続いてきた。その原因は、制作開始時点で赤字を背負うことを運命付けられるような額しか制作費をもらえない状況が、常態化していたことにある。採算割れでのスタートを強いられたアニメ制作業界は、市場の洗礼をいち早く受けて何とか儲けをださないとどうにもならないことを認識してきた。アニメ制作会社が置かれてきた不条理の背景には、アニメ制作会社が買い手たるテレビ局・広告代理店・映画配給会社に頭が上がらず、なおかつ、テレビ局・広告代理店・映画配給会社がスポンサーの言い値を唯々諾々と呑んであとは知らん顔を決め込んでいることがある。 アニメ制作業がコンテンツ産業への脱皮・転換するためには、赤字を前提にスタートする事業構造を打開し、ハイ・クオリティのアニメ作品の継続的な生産を可能にする技術革新・技術蓄積・人材育成のシステムを維持していく必要がある。転換への足かせとなっている三つの問題を整理すると、第一の問題点は、アニメ作品供給における従来型マス・メディアへの依存体質である。第二の問題点は、アニメの制作環境の閉塞化状況の進行である。第三の問題点は、新作の寿命短期化傾向である。これら三つの問題を解決し、コンテンツ産業への脱皮・転換に向け推進していくべき課題は次の三つである。第一は、ネットを含むチャネル多様化を推進し、従来型マス・メディアへの依存体質と決別することである。第二に、グローバル展開に向け、制作環境のオープン化を進めることである。第三に、アニメ制作会社としてストックしてきた過去のアニメ作品の収益性を、より一層向上させることである。 日本のアニメ作品は、時代や世代、国境を越えて愛されつづける"ロングセラー商品"であり、かつ、ハリウッド映画と伍していくだけの競争力を備えた数少ないコンテンツでもある。経済のソフト化が進む中で、コンテンツとしての日本アニメは今後より一層の注目を集めることが期待されている。他方、日本のアニメ制作会社がこれまで、赤字を前提に作品を作らざるを得ない状況に追い込まれてきたことは、不条理極まりない。アニメ作品の生産という一事業に関する収益性や生産性の高低などを評価する対象として、アニメ制作会社が取り扱われるようになって初めて、アニメ制作業界はコンテンツ産業への脱皮・転換を果たせる。 (2005.05)
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