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ネクスト戦略ワークショップ 質疑・意見交換とフリートーク
政権交代後の市場をどのように捉えるか
どんなマーケティングが必要か
Q1. 「消費が回復しているので新商品を出した方がいい」ということだったが、まったくの新商品を作るよりも、事例のような、元々あったブランドのエクステンションや、コーポレートブランドの活用をする方がいいのか?
A1. 全体的に財布が緩んでいるので、やはり新商品は受け入れやすいとは思います。ただ、やはり既存ブランドの品質アップが一番早く対応できると思います。高価格帯、中価格帯、低価格帯、のブランドを持っている企業では、「中価格帯ブランドの品質アップ」という訴求が一番いいと考えています。そして、中価格帯ブランドを守るために、高価格帯のブランドを保つことが求められます。
 流通業界では、消費税アップを契機にして、もう一段、PB比率を上げてきます。その時に、メーカーは品質で差別化するしかないのです。逆に、低価格で攻めようとすると需要は減ってしまうでしょう。とにかく品質アップが重要なのです。

Q2. 山崎製パンがロングテール化の中でやっている新商品開発の方法では、高額な開発費がかかり、採算性が悪くなってしまうのではないか?
A2. 実のところ、山崎製パンは独占企業で超過利潤があるので、この方法でも利益を出せる仕組みになっています。東京ガスとか東京電力とかと同じ程度のパワーを持っているのです。ただ、超過利潤がない企業で同じことをすれば、確かに利益は出ないかもしれません。
 ただ、山崎製パン工場での採算性の管理は、かなりしっかりしたものになっていて、その上で利益を出しています。パン工場としては特殊ではありますが、工場で営業マンを抱えて、売上がすべて工場に紐付くようになっています。そして、人件費やメンテナンス費なども踏まえて利益が出していけるよう、管理はきちんと行われているのです。同じような管理が出来れば、この新商品開発の方法も可能かもしれません。

Q3. 昨今、新商品開発スパンが短くなってきていると感じているが、そのマーケティング背景について教えて欲しい。
A3. ひとつのブランドでマーケットを捉えていく、というのは非常に難しいことですので、どの分野でも、色々な商品を出して、ロングテール化に対応していくことが求められています。そうなると、新製品を多発していくのが重要になります。新商品を多発するには、今までどおりに開発していると対応できません。例えば、食品の開発は1年と言われていますが、1年では遅いのです。桃ラーが出た時、その7ヶ月後にS&B食品が対抗商品を出しましたが、社内プロジェクトでは半年で作れ、という指示が出ていたようです。このように、現在では、商品開発のスピード力が競争に勝っていく上で重要になっているのです。
 では、商品開発のスピードを上げるにはどうしたらいいかと言うと、ものづくりのプラットフォームを作ってしまうのが手っ取り早いと思います。山崎製パンのランチパックは、社内だけのプラットフォームですので、例えばこれがもっと社外に広がったプラットフォームになると、よりスピードが速くなり、より多様化します。
 ものづくりのプラットフォームを構築して、新商品の仕組みをみんなで作る。一人がホームランを打てるような環境ではなく、連続ヒットをみんなで打つような状況にするのです。具体的にプラットフォームを構築するには、関与者を探して、開発のプラットフォームに乗せる必要があります。そして、関与者は誰なのか、つながりを再発見していく作業が必要です。

Q4. 「マーケティングターゲットは35才以上にシフトした方がいい」とのことだが、34才以下の若者に訴求して、若いうちに商品を根付かせたい、と思っている場合、どうしたらいいか。
A4. 34才以下の消費人口は、今後、量的には減少していきます。また、20年サイクルの世代論から見れば、2025年まで若者の消費がポジティブになるということはありません。 34才以下の中でも、1980年代生まれの嫌消費世代は、バブル崩壊後のネガティブな世界で成長しているため、消費よりも貯蓄、という価値観を持っています。クルマなんていらないと言う世代ですね。その下のゆとり世代や少子化世代に関しても、自己肯定力が強く、年収150万円でもハッピーだと感じる若者が増えています。
 ただ、嫌消費とはいえ、情報やコンテンツなど、彼らが関心を寄せて消費を行うものもあります。34才以下に訴求をするのであれば、彼らに合うものを作る必要があります。彼らは、衣食住など、日常生活や必需品への関心が強い傾向があり、モノを買うよりもシェアしたり、仲間づくりなどの同調価値にはお金を使ったりします。そのような特有のポイントを見極めていくことが攻略の鍵だと思います。
 また、34才以下の人は、日常をいかに充実させるか、ハッピーに過ごすかを重要視している傾向が強いです。コミュニティーを語ることがかっこいい、と感じている人も多いので、商品を通していかにコミュニティーを作るか、というアプローチも有効かもしれません。
 現在では、小売りもシニアシフトをしているし、流通業界でも42.7%のシニア層の需要をとっていくことが課題になっています。ただ、34才以下は消費人口全体としては9%しかいないものの、彼らの特徴を研究することで、消費を刺激するポイントを見つけられる可能性があるのも事実です。

Q5. 七つのプロポーザルの中に、「顧客説得の鍵はネットワークを結ぶブリッジ層の攻略」とあるが、この「ブリッジ層」を詳しく教えてほしい。また、成功した事例はあるか?
A5. 従来のマーケティングの考え方として、情報は、個人それぞれに伝えていくものでした。しかし、塩麹のヒットを事例として研究すると、イノベーターが採用して情報が広がっていくという"イノベーション課程"とは少し違うことがわかってきました。そして、個人個人はネットワークの中に存在していて、情報はそのネットワーク内で共有していること、そして情報共有のためにFacebookやtwitterなどで繋がっているのだとわかりました。
 情報は共有されなければ、広告宣伝の効果が出ないこともあります。そして、複数のネットワークに所属している人が、違うネットワークに情報を普及させており、我々は、この役割をする人のことを「ブリッジ」と呼んでいます。ブリッジの人達は、必ずしもイノベーターである必要はなく、このブリッジの性格を持った人を捕まえて情報を伝達していくのが、最も多くのネットワークに情報を拡散していける方法だろう、と考えています。また、個人を狙ったアプローチではなく、輪でせめていくという方法も必要です。人々は、輪の中で情報を共有しているので、輪をつないでいる人間、ブリッジの役割をしている人を捕まえることが顧客説得の鍵になるのです。
 なお、「家族」は一番異質なネットワークが集まっている集団で、ブリッジが機能している場所です。50代の男性と10代後半の女子高校生が情報共有する場所なんて、そうありません。今は、家族を持つ世帯が減り、単身世帯の数が世帯分類の中で一番多くなっています。そこで、「家族」の補完的な役割をしているのがSNSやネットなのだと思います。
 ブリッジ層が機能した例としては、桃屋のラー油や、ドラマ「家政婦のミタ」です。2つとも、最初に受け入れられた層だけではなく、マルチな層へと広がっていったと言えます。塩麹もそうです。最初はやはり、料理好きな主婦層に人気が出たのだと思いますが、その後、クックパッド利用者や、単身世帯など、異なる層に広がっていきました。また、桃屋のラー油は、最初は食べるラー油をmart読者がブログなどで発信し、「桃屋のものは辛くないので3才でも食べられる」というのが波及し、小さいお子さんがいる家庭でも受け入れられました。その後、マルチな層へと展開し大ヒットしたというのは、どこかでブリッジが役割を果たした結果かもしれません。
 ただ、ブリッジに関しては現在も研究中でして、今後、このブリッジはどういう属性なのか、どのようなアプローチ方法をとるか、どのようにセグメントしていくかなど、さらなる調査を進める予定です。

Q6. 取り上げられた事例では、製品のプラットフォームがすでに確立している上で、製品が多様化されていると感じた。ひとつの基本製品だけではなく、多様化することが日本の社会で生き残る道なのか?
A6. そうですね、戦略経営の観点から、多様化に向けてプラットフォームを作ったところが勝っていくだろうと思います。
マーケティングの重要な考え方のひとつに「ロングテール」というものがあります。死に筋を残していく方が利益を出せるという考えです。様々な業態を見てみても、実際に、ロングテール化しているところが伸びている、という感覚はあります。
 ただし、ひとつの企業の中でやる必要はないと思います。ものづくりのプラットフォームを作り上げればいいのです。企業の枠を越えてプラットフォームを作り上げているのは、GREEやDeNA、Amazonや楽天などですね。状況に応じて、戦略は変えていく必要はあるでしょうが、今の日本では、短期的なものづくりで勝っていくことは難しいので、やはり今後はプラットフォームビジネスを構築していくことが重要だと感じます。

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