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消費者期待を越えるものづくり
合田 英了
構 成

  1. 製造業のものづくり復活
  2. 消費者視点のものづくり
  3. サイコエコノミクスによるものづくり基準の見直し
  4. 液晶テレビの実証分析
  5. 認知の歪みを利用するものづくり基準の明確化



1.製造業のものづくり復活

(1)ものづくりリードによる収益回復

 自動車産業と並び情報家電、中でも「新三種の神器」と称される、薄型テレビ、DVDレコーダー、デジタルカメラ等のデジタル家電の領域で強い、シャープ、松下電器産業(以下、松下電器)、キヤノン等の企業の収益が大幅に回復しています。

 収益回復の背景にあるのが、特定市場における、圧倒的なものづくり優位です。代表的な例が、液晶テレビ市場のシャープ、DVDレコーダー市場の松下電器です(図表1)。

トップメーカー 占有率 ソニーとの差
液晶テレビ シャープ 55% +43%
DVDレコーダー 松下電器 36% +14%
 シャープの液晶は、1973年に電卓にディスプレイとして搭載されたのが始まりです。その後改良を通じて1988年頃から3~4インチの液晶の量産に着手し「液晶ビューカム」「ザウルス」等のヒットを生み出しました。1990年には10インチクラスの量産工場(奈良県天理市)を建設し、パソコンに用途を広げ、さらに2000年にはテレビ用液晶ディスプレイを睨んだ大型液晶工場(三重県多気町、第四世代ライン)を稼働させ量産体制を築きました。2001年には液晶カラーテレビ「AQUOS」を25機種市場導入し、営業との連携によって店頭で一気に販売展開し新たな市場を創造しました。2002年にはこれまで液晶では不利と言われてきた30型以上のサイズを越える37型を導入し、需要の垂直的な立ち上げに成功しました。受容サイズの大型化が進むにつれ、第四世代のラインでは37型が1枚、30型が2枚しかとれず、能力不足であったため、2004年には大型サイズに有利なマザーガラスサイズの量産が可能な工場を三重県亀山市で稼働し(第六世代)、世界初となる液晶パネルから液晶カラーテレビまでの一貫生産体制を整え、45型の導入へと至っています。30年に渡って蓄積された他社には真似のできない製造技術、品種の幅、次々とイノベーションを連続するスピードが他社の追随を許さないリード力の源泉になっています。
 一方、松下電器は1970年から今日のDVD-RAMの基礎となる記録技術と記録材料の開発に着手し、1975年からドライブ開発を、1991年からは光ディスクの開発を始める等、メディアとハードを一緒に開発してきた歴史があります。各分野の専門的な知識を持つ人の連携によって、最も困難であると言われたメディアとハード間のインターフェイス技術の開発に成功しました。最近ではデータ転送の画質と処理速度を飛躍的に向上させたLAN機能搭載のDVDレコーダーの開発やHDDの容量や機能開発等、次々とバージョンアップを図り、他社が容易には追随できない技術によって市場をリードしています。

図表1.主要製造業の回復とシャープ・松下のものづくりリード
主要製造業の回復とシャープ・松下のものづくりリード


(2)ものづくり優位を生み出した戦略

 こうした「ものづくり」が優位を持つのは、イノベーションを通じて生み出された製品が、他社には真似できない製造技術という要素資源を占有し、差別化され、市場の独占・寡占状態を作り出しているからです。このことによって、市場支配力を生み出し、価格をコントロールでき、超過利潤を上げられるからです。
 シャープ、松下電器が、こうした優位を構築できた背景には、ものづくりリード力を組織的に作り出し、持続させる、固有な戦略がベースになっています。
  1. 他社にはない能力を蓄積した人による摺り合わせやチームワークをベースに、多様で高度な技術を組み合わせ、真似のできないイノベーションを生み出したこと
  2. パソコンに特長的な部品の標準化やモジュール型のものづくりではなく、飽くなき製品イノベーションによって大型の新製品開発に成功し、それを連続していること
  3. 付加価値の高い製品領域に資源を集中し、同質製品による価格低下競争から脱却し、より付加価値の高い垂直的な品質競争へと転換していること
  4. 知的財産の保護により基幹技術をブラックボックス化し、技術優位を延命させることによって優位を維持していること
です。シャープ、松下電器が主戦場とする情報家電市場(AV・情報通信機器、及び関連サービス)は、1990年代、パソコンの急成長とPCベースの製品ネットワーク化の進行によって、部品・仕様が標準化されたモジュール型産業に一気に支配されました。結果、市場は、開発や改良余地が少なく自由度のない、つまり、従来の日本企業の強みを活かしにくい市場に様変わりしました。パソコンの成長があまりに急だったために他のメーカーやサプライヤーも同一アーキテクチャに追随せざるを得ず、CPU(インテル)やOS(マイクロソフト)に大きな利益をもたらしました。このような状況下、不採算事業からの撤退・成長市場への集中政策や、ものづくりへのこだわりを捨て、生産の中国シフト、モジュール型産業への転換等が提案されました。しかし、両社は、それとは異なる戦略によって復活を遂げました。成功のモデルとなったのは日本のものづくりの強みの強化、拡張を通じて競争優位を構築する戦略メカニズムでした。

2.消費者視点のものづくり

(1)ものづくり復活の鍵

 このように復活の要因を戦略面から整理すると、製造業の復活の、ひとつの道筋は「ものづくり復活を通じて競争優位を再構築する」ことにあると言えます。ものづくり復活の鍵は「真似のできない製造技術をベースに、飽くなきものづくりへのこだわりによって、市場を独占・寡占すること」にあります。その典型例が、シャープの液晶テレビ、中でも今年の8月に発売された「45インチ・デジタルハイビジョン液晶テレビ」です。
 この商品は、量産での最高画面で、地上波デジタル放送に対応したフルハイビジョンの美しい画面を実現した戦略商品で、液晶市場におけるシャープの独走を決定づけた商品です。店頭在庫がないくらい売れる大ヒットとなりました。成功のポイントは三つあります。
 ひとつは、液晶で45型が実現できたことです。シャープが37型を出す前までは、30型以下は液晶、それ以上はプラズマテレビ(PDP)もしくはプロジェクションテレビと言われていました。その根拠は、液晶は技術的に大型化はコストアップになり、反対にPDPは小型化が苦手といった対照的な性格を持つためです。にもかかわらず2002年に37型が導入されてからわずか2年で45型が量産化されました。最近では65型液晶テレビの開発に成功し、来年には50型が商品化される予定です。イノベーションスピードの速さは、開発、研究所、液晶パネル・液晶テレビ一貫生産工場や周辺産業との間の近接性と摺り合わせによる優位がベースになっていると言えます。
 ふたつは、標準価格が997,500円と100万円を切り、実勢価格74万円前後で発売されたことです。この価格はひと世代前の37型の価格とほぼ同等の価格水準でした。サイズが37から45型に拡大されたにもかかわらず、最上位機種の価格はほとんど変わらなかったということです。対する韓国サムスン電子が46型で実勢価格99万円であったことからも、シャープの生産効率の高さがうかがえます。
 三つは、高画質を実現したことです。独自の高輝度、広視野角のASV方式液晶の技術に加え、デジタルハイビジョン信号フォーマットをそのまま表現できる622万ドットのフルスペックハイビジョンを採用したことにより画質が飛躍的に向上し、大画面市場においてPDPに対する画質の優位性を獲得したことです。

(2)消費者視点のものづくりの必要性

 消費者の期待を上回る数々の製品イノベーションにより、シャープは店頭において、「デジタルハイビジョン対応=美しい画面」に惹かれ、値頃感のある価格に後押しされて購入する人を増やすことに成功しました。PDPとの差は歴然です(図表2)。
 シャープの液晶テレビを始め、松下電器のDVDレコーダー、iPod mini等の大ヒット商品に共通する成功要因は、消費者の期待を越える製品と品質水準を提供したことにあります。消費者の期待を越える製品と品質水準を生み出したのは、異常なほどの「ものづくり」に対する組織的なこだわりです。「人とチームワーク」の強み、さらに得意技である「実装技術」の強みによって、日本人が伝統的に抱く「もの」へのある種の崇高性を体現し、差別的な品質水準をベストタイミングで市場導入したことです。つまり単なるシーズ発想の「物づくり」ではない、消費者視点の「ものづくり」が復活の本当の背景になっているということです。

図表2.液晶テレビの購入理由
液晶テレビの購入理由

(2004.11)
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