プロダクトアウト(product out、product oriented)とは、企業が商品開発や生産を行う上で、作り手の理論や計画を優先させる方法のことです。買い手(顧客)のニーズよりも、「作り手がいいと思うものを作る」「作ったものを売る」という考え方です。
一方、マーケットイン(market in、market oriented)とは、ニーズを優先し、顧客の声や視点を重視して商品の企画・開発を行い、提供していくことです。プロダクトアウトの対義語であり、「顧客が望むものを作る」「売れるものだけを作り、提供する」という考え方です。
日本では1950年代半ばから1970年代前半の高度経済成長期にかけて、「良いものを作れば売れる」という時代が続きました。いわゆる「大量生産-大量消費」の時代です。しかし1973年の第一次オイルショックを契機として、1974年に実質経済成長率がマイナスに転じます。1970年代半ば以降、市場の成熟化・飽和化と技術の高度化(製品の長寿化など)によって、さまざまな業界で供給過剰に陥ります。
転機はバブル経済が崩壊した1990年代の平成不況期です。供給過剰で「良いものでも売れない」事態が深刻化する中、顧客の視点やニーズを重視しようとするマーケットインの発想が広がっていきます。
こうした時代の流れを踏まえると、プロダクトアウトは古い概念で、商品開発としては顧客のニーズや視点を取り込んだマーケットインが優れているのではないかと思われがちです。確かに、市場の声を把握し、顧客思考に立つことは、企業のモノづくりの前提となっています。しかしそうでしょうか。ここでそれぞれの考え方のメリットとデメリットを踏まえなければなりません。
マーケットインのメリットは、顧客のニーズへの適合を優先する為に、一定の需要の確保が期待できます。つまり「失敗しない」商品展開の可能性が高いといえます。一方、デメリットとして、顧客が望むものだけを作るため、画期的なものが生まれにくくなる点が挙げられます。多くの企業がこの考え方に囚われると、製品やサービスの同質化が進みます。つまり市場がコモディティ化し、価格競争が激化して低収益化が進むという悪循環に陥る可能性があるということです。
プロダクトアウトのメリットは、自社の強みや技術戦略がうまく商品開発と結びつき、画期的な製品やサービスによって独占的な市場を作り出すことができる点で、非常に高い収益を得られる可能性があります。一方、デメリットとして、顧客に対して新しい製品やサービスの価値を伝えて購買まで結びつける必要があるため、マーケティングのコスト負担が大きくなります。
こうしたことからも、一概にプロダクトアウトが古くてダメな概念で、マーケットインが新しく良い概念であるとはいえないことがわかります。21世紀になってアップル社が技術力や研究の積み重ねによって「iPod」や「iPhone」を大ヒットさせたケースからも、生活者のすべてが明確に欲しいものを理解しているわけではない、という現実がうかがえます。やはり、企業が市場に存在しない新しい価値を持つ商品やサービスを生活者に提案していく必要があります。プロダクトアウトとマーケットイン、どちらか一方に偏るのではなく、両方を意識した戦略を考えていくことが重要です。
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