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公開日:2025年03月24日

高収入層がけん引するアメリカ消費 - 日本はどうなのか
消費分析チーム

 2025年の日本の消費は堅調である。但し、家計調査では、実質賃金が減少し、消費は減少している。しかし、マクロなSNA統計の名目では微増傾向である。消費に関しては、バブル崩壊以降の不安消費は、若い世代から脱出しつつあることは確実だ。しかし、誰が牽引しているかはわかり難い。

 ひとつの有力な仮説は、都内の高層マンションに住んで、ドライバー付きで白のロールスロイスで移動し、高級ジムでボクササイズをしているような人達ではないかと想定される。土地や株で儲けたり、会社の上場やスタートアップで会社を売却したりして稼いだ人達だ。都内には、現金化しにくく、継続性のない資産ではなく、年収が1億円を超える層が約1万人いて増えつづけている。

 そこでこれを検証してみた。

 The Wall Street Journal「米経済の富裕層頼み、異常なレベルに」掲載の、ムーディーズ・アナリティックスの分析によると、年収約25万ドル以上の上位10%の所得層による消費支出は、米国全体の消費支出の49.7%を占めている。上位10%の所得層の消費支出の割合は、30年前の約36%から上昇を続け、今や過去最高の水準に至っている(図表1)。

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 この事実から、「米国の経済成長が富裕層の継続的な支出に異常なほど依存している」というのが、The Wall Street Journalの同記事での見解である。

 まさに、消費を高収入層が牽引していることを論証する記事だ。データを再現してみても同様のファインディングが得られる。

 他方、日本ではどうか。

 日本での収入階層別の消費支出シェアについては今回、総務省「家計調査」の年間収入十分位階級別のデータを用い、1990年から2024年までのシェアを試算した(図表2)。家計調査には「統計的なクセ」があることが知られているが、日本ではまずはおさえておくべき数字だ。

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 各階級のシェアの推移をみると、アメリカと同じ収入階級上位10%層のシェアは16%前後の水準で推移しほぼ横ばいである。米国とは異なり、「富裕層への支出の依存」は家計調査データからは観察されない。

 中間層にあたる階級をみても、60~70%層で10%前後、50~60%層で9%台後半、40~50%層では9%台前半での推移が続いており、中間層での支出シェアの縮小もほとんどみられない。

 下層にあたる四つの階級ではそれぞれシェアの上昇の傾向が一見みられるが、その幅は調査上の誤差の範囲と言わざるを得ないほどの、きわめてわずかなものでしかない。

 アメリカの好景気を牽引する消費、さらにその牽引層は高収入層である。しかし、日本では高収入層の影響は大きくなく、収入の格差が消費支出の格差には関連していない。

 これはなぜなのか。

 経済学における消費関数の議論では、「収入が増えると収入に占める消費支出の割合(平均消費性向)は低下する」ことが知られている。

 これまでの米国の消費支出シェアの推移をみると、収入に占める消費支出の割合はむしろ上昇している。その理由として、理論的にも、日本でみられるような、「消費の効用の低減傾向」では説明できない、何らかの理由があるということだ。

 想定できるのは、米国の消費者自身の欲望の強さ(greed)や他者の消費行動を介した消費の外部性の影響などによって、消費に対する効用が逓減しにくくなり、消費の成長の頭打ちも回避されている。

 現在の米国の消費は、かつてソースティン・ヴェブレンが描いていた、20世紀のフィッツジェラルドの描いた「ギャツビー時代」の「有閑階級」時代の「見せびらかし消費」(conspicuous consumption)の再来というべきものかもしれない。これが崩壊することは歴史が証明している。

 日本ではこれまで、異なる収入階層間で、消費支出シェアにほとんど変化がみられない状況が続いてきた。その理由として、「失われた30年」とすらいわれた経済の長期低迷が続くなか、日本の消費者の多くが中長期的なゼロ成長期待の下で生涯所得が変化しないまま、概ね生涯所得の一定割合を消費するという合理的な支出行動が定着した可能性がある。これは、不確実な将来の見方に大きく依存する。

 しかし、この既定化した行動も変化している。日本では、収入格差と消費支出の格差はみられない。今後、さらに収入格差が拡大すれば、高収入層の消費比率はあがる可能性がある。しかし、寧ろ日本では、価値観と消費支出との関連が強くなっている(「消費社会白書2025」)。実際に、現在よりも将来に重点をおく価値観から離脱した「先進感覚」などの価値ライフ層が消費を拡大している。この違いは、日米の文化差であるが、物質的でみせびらかしの豊かさよりも、自分の価値観を大事にして現在の生活を楽しむスタイルが消費を牽引しはじめていることを示すものである。


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