半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

公開日:1900年03月14日

高収入層がけん引するアメリカ消費 - 日本はどうなのか
消費分析チーム

 2025年の日本の消費は堅調である。但し、家計調査では、実質賃金が減少し、消費は減少している。しかし、マクロなSNA統計の名目では微増傾向である。消費に関しては、バブル崩壊以降の不安消費は、若い世代から脱出しつつあることは確実だ。しかし、誰が牽引しているかはわかり難い。

 ひとつの有力な仮説は、都内の高層マンションに住んで、ドライバー付きで白のロールスロイスで移動し、高級ジムでボクササイズをしているような人達ではないかと想定される。土地や株で儲けたり、会社の上場やスタートアップで会社を売却したりして稼いだ人達だ。都内には、現金化しにくく、継続性のない資産ではなく、年収が1億円を超える層が約1万人いて増えつづけている。

 そこでこれを検証してみた。

 The Wall Street Journal「米経済の富裕層頼み、異常なレベルに」掲載の、ムーディーズ・アナリティックスの分析によると、年収約25万ドル以上の上位10%の所得層による消費支出は、米国全体の消費支出の49.7%を占めている。上位10%の所得層の消費支出の割合は、30年前の約36%から上昇を続け、今や過去最高の水準に至っている(図表1)。

別画面で拡大画像をみる

 この事実から、「米国の経済成長が富裕層の継続的な支出に異常なほど依存している」というのが、The Wall Street Journalの同記事での見解である。

 まさに、消費を高収入層が牽引していることを論証する記事だ。データを再現してみても同様のファインディングが得られる。

 他方、日本ではどうか。

 日本での収入階層別の消費支出シェアについては今回、総務省「家計調査」の年間収入十分位階級別のデータを用い、1990年から2024年までのシェアを試算した(図表2)。家計調査には「統計的なクセ」があることが知られているが、日本ではまずはおさえておくべき数字だ。

別画面で拡大画像をみる

 各階級のシェアの推移をみると、アメリカと同じ収入階級上位10%層のシェアは16%前後の水準で推移しほぼ横ばいである。米国とは異なり、「富裕層への支出の依存」は家計調査データからは観察されない。

 中間層にあたる階級をみても、60~70%層で10%前後、50~60%層で9%台後半、40~50%層では9%台前半での推移が続いており、中間層での支出シェアの縮小もほとんどみられない。

 下層にあたる四つの階級ではそれぞれシェアの上昇の傾向が一見みられるが、その幅は調査上の誤差の範囲と言わざるを得ないほどの、きわめてわずかなものでしかない。

 アメリカの好景気を牽引する消費、さらにその牽引層は購入層である。しかし、日本では高収入層の影響は大きくなく、収入の格差が消費支出の格差には関連していない。

 これはなぜなのか。

 経済学における消費関数の議論では、「収入が増えると収入に占める消費支出の割合(平均消費性向)は低下する」ことが知られている。

 これまでの米国の消費支出シェアの推移をみると、収入に占める消費支出の割合はむしろ上昇している。その理由として、理論的にも、日本でみられるような、「消費の効用の低減傾向」では説明できない、何らかの理由があるということだ。

 想定できるのは、米国の消費者自身の欲望の強さ(greed)や他者の消費行動を介した消費の外部性の影響などによって、消費に対する効用が逓減しにくくなり、消費の成長の頭打ちも回避されている。

 現在の米国の消費は、かつてソースティン・ヴェブレンが描いていた、19世紀のフィッツジェラルドの描いた「ギャツビー時代」の「有閑階級」時代の「見せびらかし消費」(conspicuous consumption)の再来というべきものかもしれない。これが崩壊することは歴史が証明している。

 日本ではこれまで、異なる収入階層間で、消費支出シェアにほとんど変化がみられない状況が続いてきた。その理由として、「失われた30年」とすらいわれた経済の長期低迷が続くなか、日本の消費者の多くが中長期的なゼロ成長期待の下で生涯所得が変化しないまま、概ね生涯所得の一定割合を消費するという合理的な支出行動が定着した可能性がある。これは、不確実な将来の見方に大きく依存する。

 しかし、この既定化した行動も変化している。日本では、収入格差と消費支出の格差はみられない。今後、さらに収入格差が拡大すれば、高収入層の消費比率はあがる可能性がある。しかし、寧ろ日本では、価値観と消費支出との関連が強くなっている(「消費社会白書2025」)。実際に、現在よりも将来に重点をおく価値観から離脱した「先進感覚」などの価値ライフ層が消費を拡大している。この違いは、日米の文化差であるが、物質的でみせびらかしの豊かさよりも、自分の価値観を大事にして現在の生活を楽しむスタイルが消費を牽引しはじめていることを示すものである。


おすすめ新着記事



J-marketingをもっと活用するために
無料で読める豊富なコンテンツ プレミアム会員サービス 戦略ケースの教科書Online


お知らせ

2025.03.06

クレジットカード決済に関する重要なお知らせ

新着記事

2025.03.18

25年2月の「景気の先行き判断」は6ヶ月連続の50ポイント割れに

2025.03.18

25年2月の「景気の現状判断」は12ヶ月連続で50ポイント割れに

2025.03.17

なぜ、「外国人」社長が大手企業で多くなるのか - コーポレートガバナンスの罠

2025.03.17

企業活動分析 ファーストリテイリング24年8月期は売上・営業利益ともに4期連続で過去最高を達成

2025.03.14

日本のブランド危機と再生戦略 - トライアドマーケティング

2025.03.13

25年1月の「消費支出」は3ヶ月連続のプラスに

2025.03.12

25年1月の「家計収入」は4ヶ月ぶりのマイナス

2025.03.11

25年1月の「現金給与総額」は37ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2025.03.10

値上げ安堵に潜む日本ブランドの危機

2025.03.10

企業活動分析 ソニーグループの24年3月期は主力のゲーム&ネットワークサービスが大幅な増収に寄与するも金融部門の減益が響き増収減益に

2025.03.07

消費者調査データ RTD(2025年3月版) 「氷結」、「ほろよい」の競り合い続く アサヒの新顔は高いリピート意向

2025.03.06

25年1月は「完全失業率」は横ばい、「有効求人倍率」は改善

2025.03.05

25年2月の「乗用車販売台数」は2ヶ月連続のプラス

2025.03.04

関税政策に日本企業はどう対応すべきか

2025.03.04

25年1月の「新設住宅着工戸数」は9ヶ月連続のマイナス

2025.03.03

企業活動分析 NECの24年3月期は国内がけん引し増収増益

2025.02.28

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 清貧・ゆとり世代が消費を牽引!賞与の使い道は?

 

2025.02.28

消費からみた景気指標 24年12月は7項目が改善

2025.02.28

25年1月の「ファミリーレストラン売上高」は35ヶ月連続プラス

 

2025.02.28

25年1月の「ファーストフード売上高」は47ヶ月連続のプラスに

2025.02.27

トランプを支えるネット世論 - 正体は「ルサンチマン」

  

2025.02.27

減税政策は人気とりのバラマキ政策か

2025.02.27

月例消費レポート 2025年2月号 消費は改善の動きが続いている - 物価や金利の上昇ペース次第で消費回復のブレーキとなるおそれも

2025.02.26

25年1月の「全国百貨店売上高」は3ヶ月連続のプラスに

  

週間アクセスランキング

1位 2025.03.04

関税政策に日本企業はどう対応すべきか

2位 2025.02.27

減税政策は人気とりのバラマキ政策か

3位 2013.03.22

MNEXT ビックカメラによるコジマの買収はメーカーを巻き込んだ衰退業界再編の始まり

4位 2025.03.10

値上げ安堵に潜む日本ブランドの危機

5位 2024.05.10

消費者調査データ エナジードリンク(2024年5月版)首位は「モンエナ」、2位争いは三つ巴、再購入意向上位にPBがランクイン

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area