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公開日:2025年06月16日

なぜそのブランドを選ぶのか
- 性格で読み解くブランド選好の心理


 なぜ人はラグジュアリーブランドを求めるのか。高価格で手に入りにくいにもかかわらず、特定のブランドが選好されるのはなぜなのか。それも、誰にとっても同じではなく、ある人はエルメスのバーキンを「手に入らないからこそ欲しい」と語り、またある人はシャネルのNo.5に「母から娘へ続く価値」を見出す。高価で入手困難であっても、ブランドは人の「内面」と深く結びついているようだ。本稿では、その問いに対し、それぞれの消費者ごとに異なる「性格」によって選好するブランドが異なるのではないか、という観点からその背景に迫る。


性格とブランドが惹かれ合う仕組み

 まずは性格と選好ブランドとの関連性をみてみる。性格分類結果について、当社の「辛口性格診断」はアメリカの精神学者、ジョン・M・デュセイが考案した性格分析表示法を用いている。人間の性格を五つ(CP、NP、A、FC、AC)※01に分類した精神状態を高中低のパターンにとして測定し、グラフ化するものである。今回の調査手法はインターネット上での自記式質問紙調査により、全国15~69歳の男女を対象とした。有効回答数は2,000サンプルである。

 その結果をみると、性格と選好するラグジュアリーブランドとの間に明確な関連があった。

 ブランド選好の傾向は、次の3タイプに分けられる。

 まず全体の結果をみると、42ブランドのうち、特徴的な結果が表れた三つのなかで、エルメスは30%、シャネルは22%、フェンディは11%に選好されている。

 性格別にみてみると、「全能の開拓者」タイプはエルメスをもっとも好む。彼(彼女)らは全てのエゴグラム要素が高く、ハイテンションでポジティブ、欲望に素直でありながら強い正義感を持つ。彼(彼女)らは、極端なまでの自己実現欲求の象徴としてエルメスを選好しているのではないだろうか。目指すのは「圧倒的な成功者」であり、選ぶのは「入手困難こそ価値」というエルメスのバーキン。これは自己実現の象徴であり、まさに「選ばれし者だけが持てる」ことに価値があるブランドだ。エルメスは、購入リストに載るのに数年かかるといわれる。実際に「バッグを持つことで、他人から選ばれたと思われたい」と語る開拓者タイプの声も多い。バーキンのように店頭に並ぶことがなく、入手困難な商品が多いにもかかわらず、それを求める背景には、このような心理があるといえる。

 次に、「無邪気封印者」タイプは、クラシックで普遍的価値を持つシャネルをもっとも選好する。シャネルの広告は、伝統・美意識・教養といったテーマが多く、規範重視型の心理に訴える構造を持つ。この性格は「~すべき」という強い信念を持つ、いわば超自我型の性格である。彼(彼女)らは社会的規範を重視し、その価値観に見合う象徴としてシャネルを選ぶと考えられる。

 また、「ロジック暴君」タイプは、機能美とアイデンティティが融合するフェンディをもっとも選好する。フェンディのアイコンは、自己表現と匿名性の同居。特に「静かなラグジュアリー」が好きな層に選ばれる。自我が強く、理性的で厳しさを持つタイプである。自分の世界を持ちながらも、過剰な主張はせず、抑制されたなかに独自のラグジュアリーを求める性格がフェンディを選好している。

 このように、それぞれのブランド選好は、単なるデザインや価格といった表面的な要因だけでなく、選好者の性格と密接に結びついていることがわかる。自己実現欲求や社会規範への適合、そして独自性の表現といった価値観が、ブランド選びに強く影響している。

 これらの結果は、99%の統計的に有意な相関があることが明らかになっている。


選好の裏にあるのは、不安と補償欲求

 こうした選好には、性格の背景にある自己防衛機制の違いが関係している。自我が、本能的な欲望や社会的な規範とのあいだで葛藤するなかで生じる不安が、特有の欲望として表れ、それがブランドという象徴的な選択に結びついていると考えられる。

 CPやNPの高い自我型は「人から尊敬され、信頼される理想の大人でありたい」いう強い自己イメージを持っている。結果、完璧であろうとするあまり、燃え尽きてしまうバーンアウトに陥りやすい。Aが高い理性型は、現実不安に敏感である。例えば、状況分析を過剰に行い、先回り型の心配をしがちだ。FCやACといった超自我型は、「自分らしさ」と「他人の期待」の板挟みによる不安を抱えやすい。つまり、自分の気持ちに正直に生きたい。でも、それが誰かの迷惑になるかもしれないといった不安だ。

 「全能の開拓者」は、失敗してはならないという強迫観念を、希少品の所有で払拭しようとする。「無邪気封印者」は、逸脱の不安に対して、正統性の高いブランドで補償する。「ロジック暴君」は、混沌とした世界に対し、自分だけのルールと静かな主張で対抗する。

 つまり、ラグジュアリーブランドの選好には、それぞれの性格が内に秘めた不安が影を落としている。モノの所有は、その不安に一時的な意味づけや補償を与える手段となっている可能性が高いといえる。このように、性格と自我によってそれぞれ異なる不安パターンがあることがうかがえる。そして、投影心理もブランド選好に影響を与えているといえる。

 さらに、ブランドの選好には価値スタイル※02も大きく影響している。性格と価値スタイルの関連性においても、99%の統計的信頼水準を得られる結果となった。エルメスを選ぶ人々は「先進感覚※03」という価値観を持ち、流行の最先端を求める"パリピ"的傾向を持っている。シャネルは「先進感覚」と「品格上質※04」にまたがっており、高品質やプレステージ感を重視する価値観を持つ人々に支持されている。一方、フェンディは「平凡充実※05」に属し、真面目で平凡な日常のなかにも本質的な贅沢を求めるスタイルを体現している。いわゆる一点豪華主義といえるだろう。

 これまでみてきたように、性格とブランド選好には明確な相関があるといえる。ブランド選好は単なる趣味趣向に限らず、自己実現への欲求、社会的な適合性、独自性へのこだわりなど、性格に根差した動機をもっている。


図表


ブランドにも性格がある

 このように、ラグジュアリーブランドは単に高級な消費財ではなく、人々の性格や価値観に根ざした深層心理的選択の結果であるといえる。性格によって選ばれるラグジュアリーブランドが異なる理由については、ブランド自体にも性格が存在し、それが人間の性格との一致・不一致によって選好が左右されているのではないかと推察する(参考:ジェニファー・アーカーのブランド・パーソナリティ理論)。今回取り上げたブランドでいうと、エルメスは支配・崇高・非日常、シャネルは品格・伝統・社会的承認、フェンディは合理・知性・静かな個性である。

 ラグジュアリーブランドに限らず、商品選択には価値と性格が影響していると考えられる。今後は、生活者の性格とブランドの性格の一致がどのように選好行動に影響するのか、調査していく予定だ。


マーケティングへの示唆 性格ベースのアプローチへ

 これまでみてきたことから、性格ごとに合わせた、人的推奨型のアプローチをするマーケティングが必要であることを提言する。従来の「年収」「年齢」「性別」等の属性だけでは把握しきれない選好行動の背後にあるのが性格と価値観だ。今回の分析から得られた示唆は、人的推奨やブランド設計において「性格=深層心理」のマッチングを活用すべきという点にある。


 最後に、今回当社で人気を博している「辛口性格診断」のリニューアルを告知する。デザイン面のみではなく新たな切り口での性格分析も盛り込んでいる。ぜひリニューアル後も引き続きご愛顧いただければ幸いだ。

 当社の提供するデータが、皆様のより良い選択の一助となることを願っている。


【注】
※01  CP 批判的な親(Critical Parent )/正義感、批判的
NP 養育的な親(Nurturing Parent)/思いやり、寛容
A   理性的な大人(Adult)理性的、冷静
FC 自由な子供(Free Child)/直感的、無邪気
AC 従順な子供(Adapted Child)/感情抑制、いい子
※02  価値スタイル
当社の提唱する六つの価値スタイル。
  • 保守的で伝統を重んじる「品格上質」
  • 感覚的で好奇心旺盛「先進感覚」
  • まじめで平凡に暮らす「平凡充実」
  • 協調性を大切にし古き良き伝統の考え方を持つ「質素悠々」
  • ソロ志向、自由気ままな生活を望む「ひとり満喫」
  • 贅沢を望まず現実逃避気味「脱力系」
※03 先進感覚
「いろいろなものに興味を示す」「感覚的でセルフブランディングがうまい」といった価値観を持つ
※04 品格上質
「保守的な感情を持ち、伝統的な考えを尊重」「余裕と品格のあるワンランク上の生活を好む」といった価値観を持つ
※05 平凡充実
「働き盛り、真面目で平凡な生活をしている」「今を大事にしながら理想や夢をもちたい」といった価値観を持つ


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