悪戦苦闘する大手小売業をしり目にドン・キホーテが快進撃を続けている。1988年の1号店の開店からわずか8年で売上高100億円を超え、98年6月期には売上高245億円、経常利益15億円、99年6月期には売上高430億円(前期比75.6%増)、経常利益31億円(同107.1%増)を達成する見込みだ。東証2部上場の同社の株価は1999年3月中旬に2万円を超え、4月に入ってからは2万5,000円前後を続けている。
不況下の好調企業として紹介されることが多い同社だが、改めてその好調の秘密を探ってみたい。
![図表](./dkh_1a.gif)
ドン・キホーテは、家電製品、日用雑貨、食品、時計・ファッション用品、スポーツ・レジャー用品など生鮮三品以外のほとんどのアイテムを網羅し、すべての商品を激安価格で、深夜まで販売しているところから、コンビニエンス・ディスカウントストアと呼ばれる。従来、ファミリーを対象としていたディスカウントストアに対して、深夜営業することによって、若者層を取り込んだ新しいタイプのディスカウントストアを作り上げたわけだ。
現在(1999年4月末時点)、13店舗あるドン・キホーテの平均的な営業時間は午前10時から深夜2時までだが、最も営業時間の長い新宿店に至っては朝6時までの営業である。まさに深夜ビジネスを追究した営業であり、どの店も好調だ。最も時間のある夜間に営業することで、消費者の多くが持っている、時間をかけて買い物を楽しみたいという潜在欲求を引き出すことに成功したケースである。
その原点は、安田社長が1978年に西荻窪で開いた「泥棒市場」という日用雑貨を扱うディスカウント店である。開店はしたものの店の経営など何も知らない。客が来ないから仕入れが減る、仕入れが減るからますます客が来ないという悪循環が続く。たまたま近くに住んでいるため知っていたのだが、品揃えも悪く、本当にやっていけるの、という思いで見たことを記憶している。その店がドン・キホーテの前身だったとは最近知ったことであるが。
倉庫もなく、アルバイトも雇えないから、商品の入れ替えや陳列は夜中にやるしかなく、シャッターを開けたまま商品を整理していると、営業中と勘違いした客が入ってくる。なじみの客もつき、営業時間を深夜零時まで延長するようになって、夜の売上の方が大きくなる。こうした「泥棒市場」の成功が深夜マーケット開拓の原点である。
その後、「泥棒市場」の仕入れを通じて安田社長は次第に仕入れの妙味にはまっていき、いつしか卸売問屋に転身し、会社はディスカウント向け卸問屋として関東一円の規模となる。しかし、「もう一度店をやりたい」という思いから、1988年、東京・府中に深夜営業のドン・キホーテ1号店をオープンした。深夜零時までの営業、深夜客の衝動買いを誘う売場づくりはいずれも泥棒市場での体験が生きている。
ドン・キホーテの事業コンセプトは「CV+D+A」である。コンビニエンス、ディスカウントに加えてアミューズメントであり、夜来るお客様に夜祭り的なあるいは夜市的な楽しみを持っていただくことが目的だという(会社案内より)。
その「アミューズメント」を演出しているのが、同社独自の「立体圧縮陳列」である。ドン・キホーテの売場に一歩踏み入れると、多種多様な商品が積み上げられ、通路にはみ出し、天井からもつるされている様に驚かされる。売り場はまさに迷路であり、一度迷い込むと時には出口さえわからなくなってしまう。同社ではこの方法を「熱帯雨林方式」と呼び、店を「ジャングル店舗」と呼ぶ。お客様にとって「見にくく、買いにくい、わかりにくい」売り場づくりで、何が出てくるかわからないおもしろさ、探検気分で買い物ができる、そんな店づくりである。
新宿、職安通りにある新宿店は場所柄アジアンエスニックな品揃えも豊富にあり、ピアノにCD、家電からカー用品、雑貨に食品と何でもある。無造作に並んだペンや消しゴムの間に、ドイツ製高級万年筆「モンブラン」が顔を出だし、他の店なら3万円台はする商品が17,500円の超目玉で売られている、そんな売り場だ。
店内レイアウトは常に変わる。新宿、職安通りにある新宿店は、既存店全店が前年比売上を2ケ増と伸ばしている中でも群を抜く伸び率を示している店だが、300坪の売り場は1997年10月の開店時の面影はまるでない。全部門、全商品が常に移動し、変化し続けている。もちろん、これは新宿店に限らない。
また、店内は壁面も柱もときには天井空間まで商品で埋められている。売り場には本当に空白がない。他品種少量に徹しているため、扱いアイテム数は300坪で4万5,000品(新宿店の場合)、1坪あたり150品というすさまじさである。
売られている商品についていえば、ドン・キホーテの売場の40%がただ同然で仕入れられる廃棄商品やサンプル商品で構成される。後にも先にもない商品なので売れれば商品は入れ替わる。いつ行っても何かしら商品があり、新しい価格がつけられ、新しい陳列がなされるということになる。
変化する売り場、変化する商品、狭い売り場で所狭しと客に迫る商品の数々、それがドン・キホーテに行けば何か楽しい、おもしろい商品が発見できる、次も行こうという気持ちを引き起こす。
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