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(2010.10)
月例消費レポート 2010年10月号
円高と株安がもたらす消費マインド悪化。懸念される消費の腰折れ
菅野 守

1.はじめに
 海外の景況感悪化や円急騰、株安のインパクトが徐々に顕在化しつつある中で、政府・日銀が描いてきた景気回復のシナリオにも、黄色信号が灯り始めているようだ。
 2010年9月10日公表の2010年9月の月例経済報告によると、景気の現状について前月と同様、基調判断は据え置きとしたものの、その文言は前月の「景気は、着実に持ち直してきており、自律的回復への基盤が整いつつある」から「景気は、引き続き持ち直してきており、自律的回復に向けた動きもみられるが、このところ環境の厳しさは増している」へと変更されており、今後の経済動向次第では下方修正も含みとした表現がなされている。先行きについては前月と同様、「当面、雇用情勢に厳しさが残るものの、海外経済の改善や各種の政策効果などを背景に、企業収益の改善が続くなかで、景気が自律的な回復へ向かうことが期待される。」とし、4ヶ月連続で判断を据え置いている。景気の下押しリスクをもたらす要因として、8月時点では「金融資本市場の変動」としていた部分が9月には「為替レート・株価の変動」という、より具体的な文言へと変更された。景気の下押しリスクとして為替レートに言及したのは、2009年2月以来1年7ヶ月ぶりのこととなる。
 個別項目を見ると、設備投資は前月の「下げ止まっている。」から9月は「持ち直している。」へと3ヶ月ぶりに上方修正された。他方、輸出は、前月の「緩やかに増加している。」から9月は「このところ増勢が鈍化している。」へと7ヶ月ぶりに下方修正された。国内企業物価も、前月の「緩やかに上昇している」から9月は「このところ横ばいとなっている」へと下方修正されている。
 海外経済の現状については前月同様「世界経済は失業率が高水準であるなど引き続き深刻な状況にあるが、景気刺激策の効果もあって、景気は緩やかに回復している。」とし、判断を据え置いている。先行きについても同様、「緩やかな回復が続くと見込まれる」との判断を維持している。海外経済の先行きに対するリスク要因についても前月と同様、「ただし、回復のテンポは更に緩やかになる可能性がある。また、信用収縮、高い失業率が継続すること等により、景気回復が停滞するリスクがある。さらに、各国の財政緊縮をはじめ財政政策のスタンスの変化による影響に留意する必要がある。」としている。
 地域別にみると、ヨーロッパ地域に関しては、景気の現状について前月の「失業率が高水準であるなど引き続き深刻な状況にあるが、総じて景気は下げ止まっており、一部では持ち直している。」から9月は「景気は総じて持ち直しているものの、国ごとのばらつきが大きい。」へと2ヶ月連続で上方修正された。先行きについては、前月と同様、「基調としては緩やかな持ち直しに向かうと見込まれる。」とし、判断を据え置いている。今後のリスク要因についても前月とほぼ同様、「ただし、金融システムに対する懸念が完全に払拭されていないこと、高い失業率が継続すること等により、景気が低迷するリスクがある。また、各国の財政緊縮による影響に留意する必要がある。」との言及がなされているが、前月の「景気が低迷を続けるリスクがある」から9月は「景気が低迷するリスク」へと変更されている点は、足許の改善状況を受けてのものといえる。米国は、現状と先行きともに判断はほぼ据え置きとなっているが、今後のリスク要因について、前月の「景況感を示す指標が低下している」から9月は「景況感を示す指標に弱い動きがみられる」へと文言が修正されており、具体的には「財輸出はこのところ弱い動きがみられる。」との言及がなされている。中国とインドは、現状と先行きともに判断は据え置きとなっている。ただし、その他アジア地域に関しては、景気の現状について前月の「総じて景気は回復している。」から9月は「総じて景気は回復しているが、一部でこのところ回復テンポがやや緩やかになっている。」へと下方修正された。先行きについても同様に、前月の「回復傾向が続くと見込まれる。」から9月は「テンポは緩やかになるものの回復傾向が続くと見込まれる。」へと下方修正されている。その他アジア地域に対してはそれまでの堅調さ一辺倒から弱含みのトーンへとスタンスが変わっており、それまでアジア新興国の高成長を背景に堅調な推移を期待してきた輸出にも、シナリオの狂いが生じつつあるようだ。
 更に、政策態度に関する記述として、「このところの円高や海外経済の減速懸念等による景気の下振れリスクに機動的に対応するため、『新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策』を9月10 日に決定した。」との文言が新たに盛り込まれている。このことからも、海外経済の減速懸念や最近の円高基調に伴う輸出の悪化懸念に対する、政府の並々ならぬ警戒姿勢が見て取れる。とりわけ、目下の急激な円高がもたらす景気の下押し圧力に対する危機意識は、鮮明なものとなっているようだ。
 2010年10月15日に開催された日本銀行支店長会議での取りまとめを経て公表された、2010年10月の「地域経済報告(さくらリポート)」によると、「最近の景気情勢については、全地域が基調として『緩やかに回復』または『持ち直し』と判断しているが、3地域(関東甲信越、東海、中国)が政策効果の弱まりと海外経済の減速を主因に、このところ回復ないし持ち直しのペースが鈍化している」との報告がなされている。一部地域で景気判断の下方修正がなされるのは2009年4月以来1年6ヶ月ぶりのこととなる。景気判断を据え置いた地域でも、「持ち直しの動きが広がっている →持ち直している」(東北)や、「地域間のばらつきを残しつつも、緩やかに回復している →雇用・所得面に厳しさを残しつつも、緩やかに回復している」(九州・沖縄)などのように弱含みを意識した形へ文言が修正なされるなど、景気の先行きに対する慎重姿勢をにじませる内容となっている。景気判断の下方修正の背景要因としてクローズアップされているのが、2010年9月のエコカー補助金終了による反動減、海外での景気減速に伴う輸出の鈍化、更に企業の想定為替レートを大きく上回る円急騰の3点セットである。中でも、自動車産業を柱にしている東海地域は、これら3点セットがもたらす内外両面での需要急減のインパクトをまともに被っており、その悪影響が消費にまで波及しつつあるとの報告がなされている。家電産業を背後に抱える近畿地域でも、中国や新興国などのアジアでの景気減速に加え、円高による競争力の低下が企業業績の回復の足かせとなっている、等の声が出ているという。
 政府・日銀ともに、海外の景況感悪化・円急騰・株安の冷や水を立て続けに浴びせられたことで、景気の先行きに対する判断を一転、悲観スタンスへと大きく舵を切りつつあるようだ。

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