本コンテンツは、2025年11月13日に開催したネクスト戦略ワークショップSession3の講演録です。
●講演録1.高消費時代への戦略経営と価値マーケティング●講演録2.共働きの体制化が変える生活の現実
Session2で明らかになったのは、共働きの大勢化によって生活構造そのものが変わり、時間の使い方、家事の分担、食の在り方、購買行動など、生活のあらゆる場面が再設計されているという事実であった。
だが、この変化の根底には単なるライフスタイルの変化以上のものがある。それは、「自分はどう生きたいのか」「何を大切にしたいのか」という、個々人の価値観の変化である。同じ共働きでも、ある人は効率を最優先に生活を設計し、別の人は家族の時間や心の余裕を重視する。
つまり、私たちがいま直面しているのは、年齢や性別といった属性ではなく、価値観によって社会が動く時代への転換である。
Session3では、この価値観を体系的に捉える概念として「価値スタイル」を提示し、それがどのように生活、消費、ブランド選択、そして売場体験に影響を及ぼしているかを分析していく。
価値スタイルとは、個々の生活者がどのような人生観・世界観・判断軸をもって行動しているかを定義する枠組みである。
「消費社会白書2026」では、価値観、消費、支出、食、耐久財、ブランド、購買行動といった主要分野を横断的に分析し、人々の行動をもっともよく説明する要因を特定したところ、年齢やライフステージよりも価値スタイルの方が明確な差を示すことが明らかになった。
たとえば世帯支出意欲を比較すると、年代や家族構成による差よりも、価値スタイルによる違いの方が顕著である。「先進感覚」層では支出意欲が高く、「質素悠々」や「ひとり満喫」層では支出を抑えたいという傾向が明確に現れている。
また、価値スタイル別の分析では、全149項目中125項目で、価値スタイルの方が属性よりも説明力が高かった。これは、消費行動を理解する上での主軸が、もはや年齢や収入といった外的条件ではなく、「どんな価値観を持っているか」という内的基準へ移行していることを意味している。この結果は、マーケティングの発想を根底から変えるものである。
かつて、企業はターゲットを属性によって定義してきた。たとえば「20代女性」「既婚子あり」「団塊世代男性」などである。しかし、同じ20代女性でも、「新しいことに挑戦したい」と考える人と、「堅実で無理をしたくない」と考える人では、購買動機も行動もまったく異なる。つまり、属性が似ていても価値観が異なれば、同じ行動をとらない。逆に、年齢が離れていても価値観が共通していれば、似た行動をとる。この事実を踏まえると、マーケティングの属性は年齢やライフステージではなく、価値スタイルで捉えるべき時代に入っている。
新しい価値は、ある日突然社会全体に浸透するわけではない。それは、価値観の異なる人々の間で、共感と模倣、そして差異化の欲求が連鎖することで、波のように社会に広がっていく。この波及過程は、五つの段階で構成される。
最初に動くのは、「先進感覚」層である。社会全体の約11%を占めるこの層は、新しい体験や価値を積極的に試す人々であり、流行や文化を生み出す触媒の役割を果たす。
その波を受け止めるのが「ひとり満喫」層である。全体の7%を占めるこの層は、新しい価値を自分の感性で取り込み、自分流に再構成する。彼らは、社会的承認よりも自分の納得を重視し、トレンドを一過性のものから、日常的な習慣へと翻訳する役割を担う。
次に影響力を持つのが「品格上質」層である。約19%を占めるこの層は、社会的信頼の厚い中心的存在であり、品質や信頼性を重んじる。彼らが新しい価値を「自分たちの生活にも合う」と認めることで、その価値は社会的正統性を獲得する。
続いて、「質素悠々」層がこれを受け止める。約20%を占めるこの層は、派手さよりも、堅実で安定した暮らしを重視する。新しい価値を「無理のない選択肢」として受け入れることで、社会のなかに穏やかに定着していく。
そして最後に、「平凡充実」層がその価値を当たり前として受け入れたとき、新しい価値は日常生活のなかに完全に根づく。つまり、価値は「創造」から「実践」「正統化」「共感」「定着」へと段階的に広がるのである。
この波及のリズムを理解することは、マーケティングにおいて極めて重要である。社会を動かすのは、単なる流行ではなく、共感と信頼の連鎖である。たとえば、タピオカブームのように、SNSによって一気に拡散した価値は、本来あるべき共感・正統化・定着のプロセスを飛ばしたために、短命に終わった。順序を踏まえずに広がった価値は根を下ろす前に枯れる。これが、現代の消費社会における価値循環の教訓である。

六つの価値スタイルのなかでも、価値創造の出発点となるのが「先進感覚」層である。全体の約11%を占め、10~20代を中心に構成されるこの層は、社会変動をもっとも直接的に体験した世代でもある。
アベノミクスによる景気の波、コロナ禍による社会制約、SNSによる情報の流動化。こうした激変のなかで育った彼らは、「自分はどう生きるか」「何を大切にするか」という問いを早くから意識している。彼らの価値観のキーワードは、「理想や夢を持って生活したい」「自分らしさにこだわりたい」であり、9割を超える人がこのふたつに共感している。
すなわち、他人の基準よりも自分の納得を優先する生き方を選ぶ層である。この内的自律性こそ、彼らが流行をつくる側に回る理由である。
消費行動においても、彼らは「自分の感性を表現する場」として購買を位置づけている。食では、健康維持よりも楽しさを優先し、加工食品や多品目の食卓を好む。家事では負担を減らす効率化を重視しつつ、最新家電やEVなど新しい技術への関心が高い。美容においても、「見た目は大事」「自分らしい美を追求したい」という意識が強く、口コミや有名人の影響を受けつつも、最終判断は自分自身で下す。
「先進感覚」層は、社会の最前線に立ち、価値の新しい芽を生み出す。彼らの消費行動は、生活者にとっての価値のプロトタイプとなり、時代の空気を変える触媒として機能しているのである。
第4章 「ひとり満喫」層 ― 個の世界を楽しむ新しい自由人
価値の波が社会に広がる第二の段階で登場するのが、「ひとり満喫」層である。彼らは全体の約7%を占め、年齢層は40~50代を中心に構成される。特徴は、他者との関係性よりも、自分自身の世界の充実を重視する点にある。「自分のペースで生きたい」「誰かと合わせるのが煩わしい」という感情が基調にあり、他者承認ではなく自己充足を軸に行動を選ぶ。
この層は、社会に新しいライフスタイルを定着させる重要な役割を担っている。なぜなら、彼らは「先進感覚」層が創り出した価値を、日常生活に翻訳するからである。
たとえば、先進層が提示した「自分らしく生きる」という理念を、「自分の時間を楽しむ」「自分に合うモノを選ぶ」といった具体的な行動に落とし込み、その価値を社会に根づかせる中間層として機能している。
購買行動の特徴としては、「ひとり時間の充実」に投資する傾向が顕著である。食においては、共食よりも個食を好み、「好きな時間に、好きなものを食べる」ことが日常化している。美容や健康への関心も高いが、それは他者のためではなく自分のためである。また、購買の情報源はSNSであるが、他人の評価よりも自分の感性を優先する。
価値の波が社会に定着するためには、「中心の重み」を持つ層の存在が欠かせない。
それが「品格上質」層である。全体の約19%を占め、主に50~60代を中心とした安定的な中間層で構成される。彼らは、社会的信用を重んじ、流行よりも信頼できるもの、確かなものを選ぶ。価値を拡散する「先進感覚」や「ひとり満喫」とは異なり、価値を正統化し、生活の基準に変える役割を担っている。この層の価値観は、誠実・品質・安心という言葉に象徴される。彼らは「流行」ではなく「信頼に裏づけられた進化」を選ぶ。一時的な話題性よりも、長期的に信頼を積み重ねてきたブランドに価値を見出す。
たとえば、食の領域では「手作りできちんと一日三食」「一汁三菜」といった基本を大切にし、健康で安心して食べられることを重視する。また、美容や健康においても、トレンド商品より「自分に合う定番」を重視する傾向がある。H&BC領域では、「見た目は大事」「ありのままの自分でいることも大事」と、外見と内面のバランスを取ろうとする姿勢がみられる。企業や専門家の情報にも信頼を寄せており、「自分の悩みに合った提案をしてもらいたい」「説明が丁寧であることが大切」と感じている。
彼らの行動は、社会なかで価値を定着させる要である。新しい価値が「先進感覚」や「ひとり満喫」によって生まれたとしても、この層がそれを品位ある選択として受け入れたとき、初めて社会に根づく。
つまり、「品格上質」層は、文化的フィルターの役割を果たし、価値を「一過性の流行」から「持続的文化」へと変換する存在である。
価値が社会に広がり、定着していく過程において、欠かすことのできない存在が「質素悠々」層である。この層は全体の約20%を占め、主に50~60代を中心に構成されている。ライフステージとしては、子どもが独立した家庭や独身の社会人が多く、経済的にも精神的にも一定の安定を得ている点が特徴である。彼らは、無理に背伸びをすることなく、身の丈に合った暮らしを大切にしながら、静かに日常を積み重ねていく。
この層の価値観の中核にあるのは、「自分を裏切らない人とだけ付き合いたい」「充実した日々を送りたい」という意識である。人との関係においても、モノの選び方においても、広く浅くではなく、限られた範囲で深くつながることを重んじる。一言で表せば、信頼できる範囲のなかで、心地よく生きることを志向する層である。
消費行動においても、この価値観は明確に表れる。「質素悠々」層は、欲しいものがあっても衝動的に購入することは少なく、「お金を貯めてから買う」という堅実な判断を取る傾向が強い。余暇の過ごし方にも、この層の志向は色濃く反映されている。書籍を読む、散歩をするなど、穏やかで自己と向き合う時間を大切にする。「心の豊かさ」に価値を置くこの姿勢は、消費を通じた自己誇示とは対極にあるものであり、成熟した生活観を示している。
食生活においては、「手作りで家で食事」「一汁三菜型」といった伝統的なスタイルを基本としながら、合理性と安心感を重視している。食は単なる栄養摂取ではなく、日常を整え、暮らしにリズムと満足感をもたらす重要な行為である。派手さや新奇性を求めるのではなく、安心して食べられること、続けられることを大切にし、「食べること」を通じて生活全体を安定させている。家事や耐久財に対する姿勢も一貫している。「質素悠々」層にとって、家事は外部化すべき負担ではなく、暮らしを構成する自然な営みである。「家事は自分でする」という考え方が基本にあり、多少の手間や時間がかかっても、自分の手で整えること自体に価値を見出している。そのため、最新家電や外部サービスを積極的に取り入れる必要性は感じておらず、EVの購入についても「今は必要ない」と考える人が多い。
H&BCの領域においても、派手な投資や過剰な追求はみられない。美容はきちんと行うが、特別な投資はしないという堅実な姿勢が特徴である。基本的なケアを継続しながら、商品選択においては企業の信頼性を重視する。新しさや話題性よりも、「安心できること」が判断基準となっており、ここにもこの層特有の価値観が明確に表れている。
この「質素悠々」層が、新しい価値に共感し、それを日々の暮らしのなかに取り入れ始めたとき、その価値は一過性の流行を超えて社会に定着する。「先進感覚」や「品格上質」といった層が生み出した流れを、自分たちの生活リズムのなかで受け止め、無理なく取り込むことで、価値を「日常」へと育てていく。「質素悠々」層とは、変化を加速させる存在ではない。むしろ、変化を落ち着かせ、社会に根づかせるための静かな中核である。
続いて取り上げるのは、「平凡充実」層である。この層は全体の約42%を占め、価値スタイルの中でももっともボリュームの大きいグループである。30~40代を中心に、子育て世帯や共働き家庭、さらには独身社会人までを含み、社会を動かす中核層として位置づけられる。同時に、新しい価値が市場に定着するかどうかを左右する、消費の最終的な「定着点」を担う存在でもある。
この層の価値観形成には、社会的経験が大きく影響している。東日本大震災や長期にわたる景気低迷を経験してきた世代であり、変化や成長よりも、安定と安心を強く求める傾向がある。価値観の中心には、「理想や夢を持って生活したい」という前向きな意識と同時に、「あたたかな家庭や社会をつくりたい」という現実的な志向が並立している。将来への希望は持ちつつも、派手さや過剰な挑戦を求めるのではなく、堅実で確かな生活を理想とする姿勢が特徴である。
消費行動においても、この現実志向は明確に表れる。「欲しいものはお金を貯めてから買う」「借金やローンはなるべくしない」という考え方が主流であり、収入の範囲内で生活をやりくりしながら、無理なく暮らしを整えていく。
食生活をみると、「加工したものを家で食べる」スタイルが多く、食を楽しみや自己表現の場というよりも、日常を回すための「義務」として捉える傾向が強い。ただし、完全に無関心というわけではない。話題性やちょっとした楽しみには、限定的ではあるが反応を示す。
家事や耐久財に対する姿勢も、現実的である。「家事は自分でする」という意識が基本にあり、負担感や面倒さは感じつつも、それを特別な問題として扱うことは少ない。最新家電や外部サービスの利用には積極的ではなく、EVの購入意向も低い水準にとどまっている。利便性や先進性よりも、現実性と安定性を重視する判断が一貫している。
H&BCの分野でも、同様の傾向がみられる。美容のセルフケアは最低限にとどめ、過度な投資は行わない。企業や口コミなどの情報を参考にしながらも、接客や体験価値に大きな期待を寄せることは少ない。
この「平凡充実」層が新しい価値を受け入れたとき、それは初めて社会の標準となる。「先進感覚」層が火をつけ、「品格上質」層が正統化した価値は、この層によって日常生活のなかに溶け込むことで、「特別な選択」から「当たり前の選択」へと転化される。
その意味で、「平凡充実」層は価値を完成させる存在である。彼らが取り入れたとき、消費は一部の人のものではなくなり、社会全体のスタンダードとして固定される。新しい価値が市場に根づき、持続的なものとなるかどうかは、この最大多数の選択にかかっている。
最後に取り上げるのは、「脱力系」層である。この層は全体の約3%と小規模であり、主に20代、40代を中心に構成されている。独身社会人の比率が高いことが特徴である。収入水準は低く、200万円未満が4割近くを占め、経済的な余裕をほとんど持たない生活を送っている。
この層の背景には、不安定な社会環境の影響が色濃くみられる。金融危機や阪神大震災といった出来事を経験し、将来への見通しを持ちにくい時代の空気のなかで生活を形づくってきた世代が中心である。理想や夢を追求するよりも、「いまをどうやり過ごすか」に意識が向けられ、長期的な計画や目標設定への関心は低い。
「脱力系」層の最大の特徴は、あらゆる事柄への関心の低さにある。消費においても、自己表現や生活の質を高めるといった目的意識はほとんどみられない。食生活では、一日三食をきちんととらない人が多く、単品や軽食で済ませることが常態化している。品数は少なく、栄養バランスや食の質に対する関心も低い。空腹を満たすことが優先され、ジャンクフードが選ばれることも少なくない。
家事や耐久財に対する関心も同様に低い。「家事には興味がない」「新しい家電や外部サービスを使おうと思わない」といった意識が強く、生活を改善しようとする意欲は乏しい。生活を積極的に設計するのではなく、できるだけエネルギーを使わずに日々をやり過ごす、「省エネ的に生きる」姿勢がこの層を特徴づけている。
H&BCの分野でも、美容やセルフケアへの関心は極めて低い。清潔感を保つ最低限のケアは行うものの、自分を磨くことや他者からどうみられるかについては、ほとんど意味を見出していない。
この「脱力系」層は、新しい価値の波に積極的に乗ることができないグループである。ただし、強い否定や反発を示すわけではない。むしろ、「がんばらない」「無理をしない」という姿勢を静かに選び取っている点に特徴がある。
ここでは、価値スタイルごとに、生活者がブランドをどのような視点で選択しているのかを整理する。ブランド選択は一様な判断行為ではなく、どの価値観を軸に生活を組み立てているかによって、その意味合いは大きく異なる。ここでは、ブランド選択に影響を与える四つの因子、「アイデンティティ」「同調志向」「背景重視」「実質重視」を用いて、各価値スタイルの特徴を読み解く。
まず、「先進感覚」層は、ブランド選択においてアイデンティティの影響がもっとも強い層である。スコアは+0.80と突出しており、ブランドを、自分らしさを表現する手段として捉えていることがわかる。同時に、同調志向も+0.68と高く、共感できる仲間やトレンドとの一体感を重視している。
これに対して、「品格上質」層では、ブランド選択の軸は大きく異なる。実質重視が+0.36、背景重視が+0.09と比較的高く、ブランドの歴史、品質、信頼性といった要素が判断基準となっている。流行や話題性よりも、社会的に正統と認められるかどうか、長く安心して使えるかどうかが重視されており、ブランドは自己表現の道具というよりも、「信頼できる選択肢」として評価されている。
「質素悠々」層も、実質重視の傾向が+0.20とやや高いが、アイデンティティは-0.42と低く、ブランドを、自分を表現する手段とは捉えていない。この層にとって重要なのは、価格や性能といった中身の確かさ、そして無理なく使い続けられる安心感である。
「ひとり満喫」層では、実質重視が+0.26と一定程度みられる一方で、同調志向は-0.51と大きく低下している。他人の評価や流行に左右されることなく、自分の感覚を基準に選ぶ独立性の高い層である。
「平凡充実」層は、四つの因子すべてがほぼ平均水準に位置している。ブランドへの感情的な関与は高くなく、特定の価値を強く投影することも少ない。価格や信頼感といった、わかりやすく安心できる要素が購買の軸となり、ブランドは生活を安定して回すための実用的な選択肢として扱われている。
最後に「脱力系」層をみると、すべての因子がマイナスとなっており、特にアイデンティティが-0.79、実質重視が-0.65と低い。この層では、ブランドを選ぶという行為そのものへの関心が極めて薄い。ブランドに意味を見出すことよりも、最小限の関与で日常をやり過ごすことが優先されており、選択は消極的かつ省エネルギー的に行われている。
以上のように、価値スタイルごとにブランドへの向き合い方は大きく異なる。「先進感覚」層は共感と自己表現を、「品格上質」層と「質素悠々」層は信頼と実質を、「脱力系」層は無関心を特徴としており、同じブランドであっても、どの価値スタイルに向けて語られるかによって、その意味は変わる。したがって、ブランドをどのようにみせ、どの側面を強調するかは、価値スタイルごとに設計される必要がある。この前提を踏まえたとき、次で扱う「ブランドパーソナリティ」という概念が、なぜ重要になるのかが明確になる。
ここでは、ブランドが消費者からどのような「性格イメージ」として認識されているのかを確認する。
代表的なブランドの性格イメージをみると、この傾向は明確である。たとえば、シャネルは「ロマンチスト」、Netflixは「気まぐれクリエイター」といった性格像がもっとも多く選ばれている。これらのブランドは、製品やサービスの内容以前に、「こういう人のような存在だ」という共通理解を消費者のなかに形成している。
こうした性格イメージの明確さを数量的に示したものが、「イメージ集中度」である。集中度とは、特定の性格イメージがどの程度ひとつに集約されているかを示す指標である。分析結果をみると、シャネルは15.9%、Netflixは14.9%と、いずれも高い集中度を示している。これらのブランドは、多くの人が似た性格像を思い浮かべており、ブランドとしての性格が明確であることがわかる。
一方で、日清食品やロッテといった生活に密着したブランドでは、この集中度が相対的に低い。これらのブランドは認知度が高く、利用者層も広いため、人々が抱くイメージがひとつに集まりにくい。親しみやすさや日常性を獲得する一方で、「このブランドはこういう性格だ」という共通像は分散しやすくなっている。
さらに、イメージ集中度と認知浸透度の関係を整理すると、両者の間には明確な負の相関が確認できる。横軸に認知浸透度、縦軸に性格イメージの集中度をとると、相関係数は-0.68となり、認知が広がるほどブランドの性格イメージはぼやける傾向が示されている。つまり、多くの人に知られるブランドほど、「こういうブランドだ」という印象が人によって異なりやすくなるのである。
この関係は、シャネルやNetflixと、パナソニックやソニーとを比較すると理解しやすい。前者は、明確な性格イメージを持つ一方で、認知の範囲は相対的に限定されている。後者は、社会全体に広く浸透したブランドであるがゆえに、機能、信頼、品質など、さまざまな評価軸が重なり合い、性格像が一義的に定まりにくい。認知の拡大は、同時にブランド個性の希薄化を伴うのである。
マーケティングの視点からみると、ここに重要な課題が浮かび上がる。ブランドを広げれば広げるほど、「ブランドアイデンティティの明確さ」をいかに保つかが問われる。単に認知を高めるだけでは不十分であり、「どのような性格を持つブランドなのか」を一貫して伝え続ける必要がある。
ブランドパーソナリティとは、単なるイメージ戦略ではなく、価値を持続させるための基盤なのである。

ここでは、価値スタイルごとに、店頭においてどのようなコミュニケーションが有効であるのかを整理する。生活者の価値観が異なれば、同じ商品であっても、その見え方や意味づけは大きく変わる。したがって、売場づくりや情報発信においては、「何を伝えるか」だけでなく、「どのように伝えるか」を事前に設計することが不可欠となる。
まず「先進感覚」層は、日常的に接している情報源がネット中心であり、購買チャネルとしてはECや専門店を積極的に活用する傾向が強い。品揃えに対しても、単なる多さではなく、「新しい発見」や「ワクワクする体験」を求めている。この層に対して有効なのは、ポジティブフレームによるメッセージである。「新しい」「まだ誰も知らない」といった表現は、未知との出会いを想起させ、ブランドや商品を自分らしさの表現手段として位置づけることに寄与する。
次に「品格上質」層は、情報源としてマスメディアへの信頼が高く、ECや専門店を通じて品質や背景を丁寧に確認しながら選択を行う。この層に響くのは、機能フレームを基調とした表現であり、「確かな品質」「信頼できるブランド」といった、本物志向に寄り添うメッセージである。新しさよりも、積み重ねられてきた価値や社会的正統性を感じさせる語り口が、購買の後押しとなる。
三つ目の「ひとり満喫」層は、ネットやカジュアルチェーンといった軽やかなチャネルを利用し、時間や手間をかけず、自分のペースで選びたいという意識が強い。この層には、機能・具体的フレームが有効であり、「もっと自由に」「気軽に選べる」といった、負担の少なさを強調する表現が適している。また、「失敗しない」「迷わなくていい」といったネガティブカバーフレーム、すなわち不安要素を取り除く安心の提示も、購買行動を促すうえで効果を発揮する。
「質素悠々」層は、マスメディアとの親和性が高く、落ち着いた気分で商品を選ぶ傾向がある。楽しさや刺激よりも、「信頼」と「安定」が重視されるため、ここでも基本となるのは機能・具体的フレームである。「心ゆたかに、長く寄り添う安心」といった表現を通じて、生活に無理なく溶け込む存在であることを伝えることが重要となる。
最後に「平凡充実」層である。この層も情報源はマスメディアが中心であり、ECや専門店を併用しながら、家計のなかで無理のない範囲で買い物を行う。ここでもっとも効果的なのは機能フレームであり、「日常をちょっと楽しく」「手間をかけずに満足できる」といった、小さな楽しさや安心感を伝えるメッセージが響く。大きな理想や強い主張よりも、日常生活を静かに支える提案が受け入れられやすい。
このように整理すると、価値スタイルごとに有効な言葉や体験のトーンは明確に異なる。「先進感覚」には新しさ、「品格上質」には確かさ、「ひとり満喫」には自由、「質素悠々」には安心、「平凡充実」にはちょっと楽しい。同じ商品であっても、どの価値スタイルに向けて語るかによって、店頭でのみせ方や伝え方は変わらなければならない。価値スタイルを起点にコミュニケーションを設計することこそが、現代の売場づくりにおける成功の鍵となるのである。
ここでは、商品の「品揃えの多さ」が、購買体験にどのような影響を与え、さらに再利用意向、すなわちストアロイヤリティへどのようにつながっているのかを検討する。品揃えは従来、選択肢の多さや利便性といった機能的価値として語られることが多かった。しかし、実際にはそれ以上に、消費者の感情や気分を動かす重要な体験要素として機能していることが明らかになっている。
まず、アイス売場における豊富な品揃えをみた際の消費者の反応を確認すると、「選びやすい」と感じた人は全体の70.6%、「ワクワクした」と感じた人は67.0%に達している。さらに、「新しい発見があった」と答えた人は44.6%、「買い物が楽しくなった」と答えた人は59.3%にのぼる。これらの結果から、品揃えの多さは単に商品を探しやすくするだけでなく、購買体験そのものの楽しさや高揚感を生み出していることがわかる。
この効果を価値スタイル別にみると、その差はさらに明確になる。「ワクワクした」と感じた割合がもっとも高いのは「先進感覚」層で、80.4%と突出している。同様に、「買い物が楽しくなった」と答えた割合も80.4%に達しており、新しさや発見を重視するこの層にとって、豊富な品揃えが強い刺激となっていることが示されている。品揃えは、「先進感覚」層にとって自己表現や探索行動を促す場として機能しているのである。
次いで高い反応を示しているのが「品格上質」層である。この層でも、「ワクワクした」が75.3%、「買い物が楽しくなった」が68.8%と高い水準にある。「品格上質」層は、単なる目新しさではなく、多様な選択肢のなかから「自分にふさわしいもの」を選び取る過程そのものに満足感を見出している。品揃えの多さは、この層にとって納得感や選択の正当性を支える要素となっている。
一方で、「質素悠々」「平凡充実」「ひとり満喫」といった層では、「ワクワクした」「楽しくなった」と感じた割合は6割前後にとどまる。これらの層では、楽しさや高揚感以上に、安心して選べるかどうかが重視されていると考えられる。品揃えの多さそのものが強い刺激になるわけではなく、選択肢が整理されているか、信頼できるかといった点が重要になる。
次に、購買時の気分がその後の行動に与える影響をみてみると、その効果は非常に大きい。「気分がワクワクした」と答えた人のうち、94.8%が「また同じチャネルを利用したい」と回答している。また、「買い物が楽しくなった」と感じた人においても、94.1%が再利用意向を示している。購買体験におけるポジティブな感情が、チャネルロイヤリティを強く高めていることが明確に示されている。
この結果は、ストアロイヤリティが単なる利便性や価格によって形成されるものではないことを示唆している。「選びやすい」「便利である」といった要素は必要条件ではあるが、それだけでは再利用にはつながりにくい。そこに、「ちょっとワクワクする」「少し楽しい」と感じられる瞬間が加わることで、初めて記憶に残る購買体験となり、次の来店や利用へと結びついていく。
したがって、品揃えは単なる陳列や在庫の問題ではない。それは、消費者の感情を動かし、購買体験を設計するための重要な要素である。どの価値スタイルに対して、どの程度の刺激や安心感を提供するのか。その設計次第で、同じ品揃えでも、ロイヤリティを生む体験にも、単なる通過点にもなり得る。品揃えとは、消費者との関係性を形づくる体験装置のひとつなのである。
ここでは、体験を軸にした売場づくりの具体的な事例を通じて、現代の店舗が果たす役割の変化を確認する。
まず挙げられるのが、「Maison KOSE 銀座」である。この店舗は、化粧品を試す場にとどまらず、美という価値を多層的に体感できるコンセプトストアとして設計されている。プロジェクションマッピングを用いたパーソナルカラー診断では、自分自身を知る体験が提供され、来店者は単なる顧客ではなく、体験の当事者となる。また、使い終えた化粧品をアート素材として再利用するワークショップでは、美と社会とのつながりが可視化され、ブランドの価値観が行動を通じて共有される。
次に、「IKEA」は、体験売場の代表的な事例として位置づけられる。デジタルとリアルを融合した没入型ショールームでは、ARを活用して空間を自由にデザインすることができ、顧客自身が投稿できる仕組みもある。来店者は家具を選ぶ立場から、自分の暮らしを構想する主体へと変わる。
三つ目の事例である「OLIVE YOUNG」は、ビューティー領域において体験価値を前面に押し出した店舗展開を行っている。メイクを学べるスタジオや、テーマ別のイベントブースを通じて、来店者は商品を試すだけでなく、知識や技術を身につける体験を得ることができる。買い物は目的行動ではなく、「遊び」や「学び」を伴う時間へと変換され、店舗は自然と滞在したくなる空間となっている。
これらの事例に共通しているのは、ブランドの世界観を言葉や広告ではなく、「体験」として伝えている点である。体験は感情を伴い、記憶に残りやすい。そのため、単発の購買ではなく、「また来たい」という感覚を生み出し、結果としてブランドロイヤリティを高めていく。体験売場とは、商品理解の場ではなく、ブランドとの関係性を深める場なのである。
このように、体験を軸にした売場づくりは、価値スタイルが多様化した社会において、極めて有効なアプローチとなっている。機能や価格だけでは差別化が難しいなかで、体験はブランドの性格や価値観を直感的に伝える手段となる。
本セッションでは、「価値スタイルが形づくる消費」をテーマに、これからの消費を読み解くための視点を検討してきた。これまでみてきたように、現代の消費は、年齢や所得、家族構成といった従来の属性だけでは十分に説明できない段階に入っている。消費行動を方向づけているのは、外形的な条件ではなく、人々がどのような価値観を持ち、どのように生きたいと考えているかという内面的な軸である。
価値スタイルとは、「自分はどう生きたいか」「何を大切にしたいか」という生活者の意思が、日常の選択として表出したものである。本セッションでは、各価値スタイルを通じて、消費がどのように生まれ、広がり、定着し、あるいは届かずにとどまるのかという構造を明らかにしてきた。そこからみえてきたのは、消費が一方向に進むものではなく、価値観ごとに異なるリズムと意味を持って展開しているという現実である。
また、ブランドの役割も大きく変化している。ブランドはもはや、機能や価格を伝える存在にとどまらない。消費者が共感し、体験し、さらには自分の言葉で語りたくなるような価値を体現する存在へと進化している。ブランドパーソナリティ、店頭コミュニケーション、体験売場、品揃えによる感情喚起とロイヤリティ形成といった議論は、いずれも「価値をどう伝え、どう体験させるか」という問いに集約される。
その出発点となるのが、価値スタイルの理解である。誰に向けて、どの価値観に語りかけているのかを見誤れば、どれほど優れた商品や施策であっても、意味を持たない。逆に、価値スタイルに適合したメッセージと体験は、消費者との関係性を深め、市場のなかで持続的な力を持つ。
本セッションで提示した視点が、皆さまの戦略を考えるうえでの新たな起点となり、「高消費時代」を読み解き、切り拓いていくための一助となれば幸いである。
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26年2月の「乗用車販売台数」は8ヶ月連続のマイナス
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