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公開日:2025年04月14日

ブランド価値ランキング - 価値実現率の低い選択的耐久財
ブランド研究チーム


1.エレクトロニクス製品や車ブランドの価値実現率は極めて低い

 これまでのブランド価値ランキングでは、お菓子・飲料・トイレタリーなどの消費財ブランドや、サービスブランドを対象に調査を実施してきた。昨今の値上げ傾向を踏まえ、各領域において日本を代表する主要ブランドを抽出し、価格上昇下におけるブランド価値の実現率を検証している。ブランドの定義や価値の捉え方については、これまでに述べた通りである。

 ・第1回:値上げほどの値打ち(価値)はない―消費者の主要30ブランド価値ランキング)
 ・第2回:消費者が示すサービスブランドの価値実現率ー価値伝達なしの生存はない

 今回は第3回として、日本の主要な選択的耐久財(エレクトロニクス製品や車など、以下「耐久財ブランド」)に属する6カテゴリー・各5ブランドの計30ブランドの価値を測定した。

 結果で確認できることはふたつである(図表1)。

 まずひとつ目は価値実現率が100%に達しているブランドはひとつもなかった。つまり、価格に見合うほどの値打ちはないという評価となった。これまでの調査と比較して、とくに耐久財ブランドでは価値実現率が著しく低い水準にとどまった。過去三回の調査における平均値と比較すると、消費財は77%、サービスブランドは83%であったのに対し、今回の耐久財ブランドは61%にとどまっている。

 ふたつ目に、カテゴリー内での価値実現率のばらつきが非常に大きかったという点である。計30ブランドで最も実現率が高かったのは、Panasonicの「コードレススティック掃除機」で88%。一方、最も低かったのは、セイコーグループの時計「グランドセイコー」で38%であり、トップと最下位のブランド間で50%もの開きがあった。

 第1回の消費財調査では、価値実現率は90%~70%(差20%)であったのに対し、第2回のサービスブランドでは110%~60%(差50%)と差が広がっていた。今回の耐久財ブランドも後者と同様に50%の差がみられたが、特に最下位ブランドの価値実現率の低さが際立っている点が特徴である。

 こうした違いはなぜ生じるのだろうか。またカテゴリーごとに共通していえることは何だろうか。


図表1 ブランド価値測定ランキング

2.耐久財ブランドの価値実現率の低い理由

 これまでの調査と比較して、耐久財ブランドにおける価値実現率は著しく低い結果となった。消費財やサービスブランドに比べ、なぜ耐久財ブランドではWTP(支払意思価格)が希望小売価格に届かず、大きな乖離が生じるのか。その理由は、以下の三つの構造的な要因に整理できる。

① 購入頻度の低さによる「相場観」の欠如

 耐久財ブランドは購入頻度が極めて低く、買い回り性が高い。そのため、消費者は価格の妥当性を判断するための「相場観」を持ちづらい。日常的に比較や経験を重ねられる消費財とは異なり、「この価格が高いのか、妥当なのか」がわからず、WTPが抑制されやすい構造になっている。

② 高価格ゆえの期待水準の上昇と慎重な判断

 耐久財ブランドは単価が高いため、消費者は購入に際して慎重になる。価格が高いほど、「それに見合う価値があるかどうか」を厳しく見極めようとし、期待水準も自然と高まる。結果として、少しでも価格に対する納得感が得られなければ、WTPが希望小売価格に届かない。値上げ下における状況ではなお、リスクが高くなっている。

③ 情報の非対称性による価値理解の困難さ

 耐久財ブランドは、製品の構造やスペック、使用感が複雑であり、消費者が事前に十分な情報を得ることが難しい。加えて、購入前に実際に使ってみることができない製品も多く、販売者と消費者の間に「情報の非対称性」が生じやすい。その結果、価値の全体像が伝わりづらくなり、消費者は過小評価する傾向に陥りやすい。

 これまでに実施した価値測定調査の対象となった全100ブランドについて、WTPおよび希望小売価格のブランド別平均値を算出し、両者の関係を散布図としてプロットした。あわせて、全体の傾向を把握するため、非線形回帰により近似曲線(回帰直線)を導出した。その結果、希望小売価格が高くなるにつれて、WTPとの乖離率が大きくなる傾向が確認された(図表2)。

 過去の調査をおさらいすると、第1回の消費財では、30のすべてのブランドで価値実現率は100%を下回っており、価格上昇に対して価値が追いついていない状況が示された。ランキング上位であっても、ブラックサンダー(90%)、氷結(88%)といった水準にとどまり、価格上昇に対して価値が追いついていない現状が示された。しかし価値実現率はおおむね90%~70%の範囲に収まり価格帯に関わらず比較的安定していた。

 第2回のサービスブランドでは、価値実現率の振れ幅がさらに大きくなり、最上位のサイゼリア(110%)と最下位のドーミーイン(60%)では50%もの開きがあった。サービスという無形価値を伴う商材では、顧客の主観や体験品質による評価の揺れが大きく、WTPが安定しにくいのがこのバラつきの一因と考えられる。

 それらと比較して、今回の耐久財ブランドでは、価格帯の上昇とともに乖離率が拡大する傾向がみられた。特に高価格帯ブランドでは、希望小売価格に対してWTPが追いついていないケースが多く、ブランド価値が価格に見合っていない構造が浮かび上がった。消費財やサービスブランドでは、価格が比較的手頃であり、価値の根拠がわかりやすいことが一定のWTPに繋がっていた。しかし耐久財ブランドにおいては、価格が上がるほどに評価が厳しくなり、「その価格に見合う価値が本当にあるのか」という消費者の目線がよりシビアに反映されている。価格に対して価値が過小評価される"歪み"(プロスペクト理論などに基づく評価バイアス)が生じていることが示唆される(行動経済学ベースのマーケティングのはじめ方)。

図表2 希望小売価格とWTP予測値との関連性
図表2 希望小売価格とWTP予測値との関連性

3.カテゴリー内の実現率格差の理由

 先述したように、同じカテゴリーの中で格差が生じている。今回の調査の事例では、掃除機について、トップはPanasonicのコードレススティック掃除機で88%、最下位はDysonで56%である。カテゴリー内の差は32%となっている。なぜ同じカテゴリー内で、ここまでの格差が生じているのだろうか(図表3)。


図表3 ブランド価値測定-カテゴリー別

 このような差異は、単なる製品の「機能的属性やスペックだけでは説明しきれない」ということを裏付けている。エレキを含む選択的消費財、とくに家電製品のように性能が標準化しつつあるカテゴリーにおいては、より価値観に基づく「心理的価値」が求められているのではないかということが考えられる。そこで、当社で分析した価値スタイル別に価値実現率を確認してみた(図表4)。Panasonicのコードレススティック掃除機では、もっとも高いのは「先進感覚」で124.4%、最も低くて「質素悠々」の69.4%であった。ここでの差は55.1%となった。一方、DysonのDyson V12 Detect Slim Fluffy(SV46FF)では、「先進感覚」が72.4%で一番高く、「ひとり満喫」が45.9%で差は26.5%である。このように、同じ製品カテゴリー内でも、ブランドごとに価値実現率の水準やスタイル間の差異が大きく異なる。つまり、製品の機能やスペックといった表層的な違いだけではなく、消費者の価値観との相性やブランドに対するイメージなど、より感性的・意味的な側面が評価に大きく影響していると考えられる。


図表4 価値スタイルによる実現率の違い

4.まとめと考察

 これまでの調査結果を踏まえると、耐久財ブランドを含む選択的消費財ブランドにおいて、ブランド価値の実現率を高めていくには、従来型の製品属性に頼るだけでは不十分であることが明らかになった。とくに希望小売価格帯によって乖離が生じ、価値実現がより難しいということがわかった。

 ここでは、価値実現率の改善に向けた具体的な方策を、以下の3点に整理して提言する。

① 高価格帯ほど「価値の納得感」が求められる

 今回の調査では、希望小売価格が高くなるほど、(WTP)との乖離が拡大する傾向が確認された。これは、価格が上がるほど価値の実現率が低くなる傾向にあり、それに見合う価値の説明や納得がなければ、WTPが上がらないことを示している。つまり、高価格帯の製品では、スペックや性能の優位性を伝えるだけでなく、「なぜこの価格なのか」「どんな価値があるのか」を、感情や高次元の欲望のレベルまで掘り下げて訴求する必要がある。ブランドは、単なるスペック競争から脱却し、より深い価値コミュニケーションに転換すべき段階に来ている。

② 価値を伝えるべき顧客を明確にする

 価値実現率の高さには、消費者の価値観とのマッチングが強く影響している。実際、同じ製品でも価値スタイルによって価値実現率は大きく異なっていた。たとえば、Panasonicのコードレス掃除機は「先進感覚」層では124.4%と価値が過大評価される一方で、「質素悠々」層では69.4%にとどまった。このように、製品の価値は一様に評価されるわけではなく、ターゲットによって伝わり方が違い、どの価値観を持つ層に向けて届けるのかが極めて重要になる。今後は、年齢や性別といったデモグラフィック属性にとどまらず、「価値スタイル」でセグメントした戦略的アプローチが不可欠である。

③ 消費者の価値スタイルとの一致

 消費者が製品に支払う意思を持つ背景には、「この製品は自分の価値観(欲望)を満たしてくれる」という認識がある。ここでいう欲望とは、単なる機能的なニーズではなく、「自分らしさを表現したい」「人に認められたい」「安心して暮らしたい」といった、より深層的な動機である。たとえば、自己表現や社会的承認欲求を重視する層に対しては、その価値と製品との「連鎖性(chain)」を高めていく必要がある。特に高価格帯の製品ほど、消費者の目は厳しくなり、単なる機能や合理性では納得を得られない。したがって、価値観に基づくセグメントを構築し、製品の属性を通じて、最終的にどのような欲望に応えるのかを明確にし、それをコミュニケーションで伝えていくことが求められる。価値スタイルごとに求められる価値を明確化し、それに応じた訴求を設計することで、ブランドへの信頼とロイヤリティを築くことができる。

 以上の三つから明らかなように、選択的消費財においては、いかにして価格に見合う価値を消費者に伝え、納得してもらうかがこれまで以上に重要な課題となっている。製品のスペックや性能といった表面的な要素だけではなく、消費者の価値観や欲望に根ざした深い共感を生むことが、これからのブランドの競争力を左右する鍵となる。今後は、生活者の多様な価値観を的確に捉え、それに即したブランドの意味づけと訴求を構築することで、価値実現率を高め、持続的なブランドロイヤルティの獲得へとつなげていくことが求められる。





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30年の長いトンネルを抜けて、そこは「灼熱の真冬」だった。2024年の消費は、経済史において消費転換の年だったと明記されるかもしれない。



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