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消費経済レビュー Vol.27
消費税再増税の消費へのインパクトを読む【要旨】

 2017年4月からの消費税再増税実施まで残り1年余りとなった現在時点で、節約の動きは沈静化している。ここ半年の間で、物価上昇見通しは明らかに弱まり、消費税への負担感も軽減されていくにつれて、節約姿勢も緩んできた。だが今後の、消費税再増税の影響は楽観視できない。
 現在の経済状況は、前回2014年4月の消費税増税の時よりも悪く、再増税がもたらすインパクトを乗り越えるには明らかに不利な条件にある。今回に関しては、前回よりも経済状況が悪い分だけ、再増税後の需要の反動減の規模や、再増税に伴う需要下押し圧力は、(経済状況が前回並みの場合よりも)一層大きくなるおそれがある。
 前回よりも経済状況が悪い中で、低収入層や低資産層を中心に、消費税再増税には、反対派の方が明らかに優勢である。消費税再増税に伴う税の負担感の軽減・緩和を狙いに導入される軽減税率制度に対しても、消費者は積極的な賛意は示してはおらず、消費下支えの効果にも期待を寄せてはいない。安倍政権に対する支持や信頼が失われ、政策への期待感も退潮しつつある中では、この先、軽減税率への支持も低下していくこととなろう。
 2017年4月からの消費税再増税に伴い、増税前の駆け込み需要と増税後の需要反動減が予想されてはいる。ただ、日常生活財で「消費税再増税の前にまとめ買いを予定している人」、及び、耐久財・奢侈財で「消費税再増税前に前倒しで購入を予定している人」の比率は、いずれも50%を大きく割り込み、少数派となっている。駆け込み需要の影響は、限定的とみておくのが妥当であろう。
 消費税再増税後の消費の見通しは、必ずしも良好ではない。消費税再増税により、低収入層や低・中資産層などを中心に、税の負担感は重くなることが予想される。そうなると、少なくとも再増税実施後には、支出意欲の減退という形で、消費にも悪影響が降りかかってくるであろう。また、トレーディングダウンの強まりといった形でも、消費にも悪影響を及ぼすおそれがある。
 カテゴリー別にみると、トレーディングアップとトレーディングダウン双方の動きが確認されてはいるが、トレーディングダウンの勢いの方が強い。トレーディングアップの動きが顕著な財として「化粧品」に、トレーディングダウンの動きが顕著な財として「食品・飲料(外食をのぞく)」に着目すると、トレーディングアップの動きは特に、男性シニア層や女性のミドル層、高収入層や高資産層などで強まっているのに対し、トレーディングダウンの動きは特に、男女のシニア層、低収入層や低資産層などで強まっている。
 前回2014年4月の時には、良好な経済状況の下で消費税増税に踏み込んだが、反動減からの回復にもたついた挙げ句、内外からのショックによって景気は腰折れとなってしまった。消費税増税は、耐久財や奢侈財を中心に、日本経済に深く長いダメージを与えており、2015年度に入ってからも、景気は低空飛行での回復に甘んじる結果となっている。安倍首相も含めた官邸首脳部からは、消費税再増税の見送りを匂わす観測気球が時折上げられてはいるようだが、安倍政権は今のところ、2017年4月からの消費税再増税の実施を止める手立てを持ってはいない。消費税再増税がもたらす新たなダメージにより、景気は更なる低迷・失速を招く可能性が高いとみる方が、むしろ妥当であろう。
 現状の最善手は、消費税再増税の実施を一旦停止させることである。これこそが、「名を捨てて実を取る」ことで官民のコンセンサスを得られる、数少ない一手となるはずだ。


(2016.04)

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