本コンテンツは、2024年11月7日に開催したネクスト戦略ワークショップ Session2の講演録です。
Session1「本格消費回復への転換-価値集団の影響力拡大」
Session3「価値スタイル」で選ばれるブランド・チャネル・メディア
Session4「新しい群れ集団が生む市場ダイナミズム」はじめに、それぞれの「価値スタイル」の特徴をご紹介します。
「品格上質」は、安心規範意識が高く、充実した日々を送りたい、伝統的な考えを尊重するという特徴を持つ集団です。「先進感覚」はいろいろなことに興味を持ち、モチベーションが高い集団です。「質素悠々」は自己実現が低く競争よりも協調を重んじる集団です。「平凡充実」は一番ボリュームが大きく、今を大事にしながら前向きな生活を送る集団です。「ひとり満喫」は、ソロ志向が強く、自由気ままな生活を志向する集団です。最後に「脱力系」は現実的に生きていくための低関与な生活を特徴とする集団です。
それでは、「価値スタイル」がどんな集団なのか、日常の生活をベースにみていきます。
① 当たり前でなくなった1日3食
まず、食についてみていきます。平日の食事回数は減少傾向にあり、1日3食食べるのが当たり前ではなくなっています。2017年には3食食べる人が78.1%と大勢を占めていたのに対し、2024年では57.4%となっています。1日3食食べる人は全体の6割弱に過ぎないのです。
「価値スタイル」別にみると、どの集団でも食事回数は減少しています。なかでも、「先進感覚」「ひとり満喫」「脱力系」は3食食べている人が5割を切っています。
一部の「価値スタイル」で食事回数が減少している背景として考えられるのは、「脱力系」の食関心の低さと経済的制約、「ひとり満喫」の規範意識の低さ、そして「先進感覚」のタイムパフォーマンス意識の高さです。規範よりも自分の価値観や状況に合った食スタイルを選んでいます。

② 手作りする「品格上質」そのまま食べる「ひとり満喫」
実際に食べているものも、「価値スタイル」で異なっています。「品格上質」「質素悠々」は生鮮食材から手作りをする割合が全体よりも高く、「品格上質」は「果物、野菜などの生鮮食材をそのまま」食べることも全体より高く、生鮮食品価格の高騰が続くなかでも従来型の食生活を維持しようとしている様子がうかがえます。「先進感覚」は料理の素を使用して時短しながらも自分でひと手間加えているようです。「ひとり満喫」はインスタント食品や冷凍食品をそのまま食べる割合が全体より高くなっています。手間暇かけることを好まないうえに、経済的制約のある「ひとり満喫」の生活特徴が食生活にも表れています。

③ 食スタイルの多彩化
次に、食意識の違いについてもみていきます。「価値スタイル」の違いが大きい項目をみていくと、「品格上質」は「旬の食事を楽しみたい」「色々な食文化を楽しみたい」などの項目で高く、加えて手作り意識も高いのが特徴です。一方「自分の好きなものだけ食べたい」といった食意識は低く、規範意識の高さがうかがえます。
「先進感覚」は「色々な食文化を楽しみたい」で非常に高く、食にまつわる情報を享受し、楽しむ食スタイルといえます。また、食の重視点で「非日常感を味わえること」で高く、体験価値への期待の高さもうかがえます。しかし「好きなものだけを食べたい」「早く食べ終わることが重要」といった従来の食規範にとらわれない意識でも高くなっており、食生活の総合的なパフォーマンスの高さを志向している様子がうかがえます。「先進感覚」は胃袋というよりは頭で楽しむ食スタイルになっているといえます。
一方、「ひとり満喫」では旬や食文化を楽しもうとする意識は低く「自分の好きなものだけを食べたい」「早く食べ終わることが重要」という項目が高くなっており、自分好み、自分中心の食生活を志向しています。

④ 家事の自動化と外部化期待が強い「先進感覚」
次に、家事についてみていきます。「先進感覚」は「家事をするのは面倒だ」「家事にかける時間をもったいなく感じる」「自動化したい」「外部サービスを活用したい」という項目への賛成率が非常に高くなっています。タイムパフォーマンス意識が強く、できるだけ無駄な時間を省くために、ロボット掃除機など家電を活用した自動化、他人に任せる家事の外部化に対する期待が強くなっていると考えられます。
「ひとり満喫」でも家事時間をもったいなく感じる、面倒なのでなるべく自動化したいといった意識は高いのですが、家事の外部サービス活用への期待がそれほど高くないのが「先進感覚」との違いです。家事の外部サービスは、他人とのコミュニケーションを伴う場合があるため、「人付き合いはわずらわしい」の賛成率が高い「ひとり満喫」にとっては抵抗感があるのかもしれません。
家事の外部サービスは以前と比べ浸透している印象ですが、今回の調査でもっとも利用経験が高かったのは「料理代行サービス」の4.5%とまだまだ外部サービスの利用は進んでいない状況でした。しかし「先進感覚」の「料理代行サービス」の利用経験は17.2%と全体と比べて突出して高くなっていました。「先進感覚」は「掃除代行」「買い物代行」「洗濯代行」についても利用が進んでおり、外部サービスを積極的に活用しながら生活のパフォーマンスを高めている様子がうかがえます。

⑤ 美容サービス利用を主導する「先進感覚・品格上質」
次に、H&BC領域についてみていきます。
化粧品や美容健康サービスの1年内利用状況について、化粧品やボディケア製品など、商品のみを利用している人、商品だけでなく脱毛やネイルサロン、美容医療などのサービスを利用している人に区分してみました。ここでは女性ベースで結果をみています。
化粧品やボディケア製品など商品のみを利用している人は全体で22%、「平凡充実」では32%と高くなっています。一方、化粧品やボディケア製品だけでなく脱毛やネイルサロン、美容医療などのサービスを利用している人は全体で38%、そのうち、「先進感覚」で57%「品格上質」で48%と高くなっています。「平凡充実」がモノ中心の消費であるのに対して、「先進感覚」と「品格上質」が美容健康サービスの利用を主導している様子がうかがえます。その背景には、「人から美しく見られたい」という見た目重視の意識があります。美しく見られるためには化粧品だけでは解決できないため、さまざまな美容健康サービスの利用につながっています。「先進感覚」「品格上質」は「人から美しく見られたい」という意識が強く、また「先進感覚」の自己表現意識の高さ、加えて経済的な余裕により、H&BCにおける消費の高度化を牽引しています。

続いて、「価値スタイル」別の支出について整理します。今回の調査から、1ヶ月あたりの世帯支出金額の平均をみると、全体では19.4万円、「価値スタイル」別には「品格上質」がもっとも多く、22.9万円です。「品格上質」は人口ボリュームが17.2%と「先進感覚」よりも大きく、市場規模構成比はもっともボリュームのある「平凡充実」に次ぐ21%です。このことから、有力な集団であることが確認できます。
個別領域ごとにみると、「先進感覚」は、平日の夕食費が全体は954円なのに対して1,371円、化粧品では1ヶ月の支出金額が全体は5,285円なのに対し8,868円と高くなっています。また、家事の外部サービス利用意向についても、全体が11.2%に対して25%と非常に高く、モノだけでなくサービス化を主導していることがわかります。「先進感覚」は個別領域ごとに消費をけん引しています。
このように「先進感覚」と「品格上質」が消費リード層となっています。

次に価値スタイルの集団間のフォロー関係について分析した結果をご紹介します。
消費意識についてみると、どの項目においても「先進感覚」が突出して高くなっています。「他人に自慢できるような体験にお金をかけたい」「気にいった商品を家族や友人にすすめる」「他人がもっていないものを買いたい」「新製品や変わったものを見つけると試しに買ってみる」というように、周囲よりもいち早く、新たな商品を発掘したり価値ある体験を享受したりして、その情報を周りに発信していくことで、「先進感覚」が他の集団をリードしている様子がうかがえます。

次に、ブランド選択における集団間の関係を確認します。代表的なラグジュアリーブランド(エルメス、シャネル、ルイ・ヴィトン)の選択について「価値スタイル」別にみると、いずれも3年内の購入率は「先進感覚」がもっとも高くなっています。今後の購入意向に着目すると、「ひとり満喫」次いで「品格上質」が高くなっています。
「先進感覚」が先導してブランドを購入し「ひとり満喫」「品格上質」が後追いで購入していく、といった流れを捉えることができます。ルイ・ヴィトンについては「質素悠々」で今後の購入意向が高くなっています。
ルイ・ヴィトンは、「先進感覚」において3年内購入よりも今後の購入意向が下回っており、今後の購入意向も「ひとり満喫」「品格上質」「質素悠々」よりも低くなっています。このことから、「先進感覚」のルイ・ヴィトン離れが推測されます。
ブランド選択の面でも、「先進感覚」と「ひとり満喫」「品格上質」との間で、リード・フォロー関係の存在が示唆されます。

ここまで、食、家事、H&BCで「価値スタイル」別の特徴を確認しました。
「品格上質」は、1日3食、生鮮から手作りする食スタイル、家事はなるべく家電を頼りたい、H&BCは見た目重視でサービスの利用率が高く、従来型の規範的・伝統的消費が特徴です。
「先進感覚」は1日2食、パフォーマンス重視の食スタイル、家事は家電や代行サービスを駆使し、H&BC領域への関心も高く、美容健康サービス利用率も高いです。生活パフォーマンスの向上を重視し、製品サービスの高度化を主導しています。
「質素悠々」は1日3食、手間を省きながらも手作り志向が比較的強く、家事においても面倒と感じながらも外部化意向は低く、自分でこなしているようです。H&BCにおいてもサービス利用には低関心です。
「平凡充実」は1日2食、家事外部化への期待が低く、H&BCでは商品のみ利用するモノ寄りの消費スタイルです。
「ひとり満喫」は1日2食、インスタント食品や冷凍食品などに手を加えず、そのまま食べられるものを利用する自由奔放な食スタイルです。家事の自動化への期待は高く、H&BCでは見た目重視の意識が高くなっています。ラグジュアリーブランドの購入意向も高いものの、実際には月あたりの支出金額は低く、経済的制約のなかで自分のこだわりを追求するような消費特徴がみられます。
「脱力系」は生活全般で低関心となっており、経済的制約を背景とした消費への無関心さがうかがえます。

次に、「価値スタイル」間の相互関係をみていきます。「先進感覚」「品格上質」は消費リード層です。「先進感覚」は、パフォーマンスを重視し、高度化した製品サービスの利用を先行しています。「品格上質」は規範意識の高さから、新商品、新サービスを慎重にスクリーニングしながら取り入れていきます。もっともボリュームが大きい「平凡充実」、経済的制約のある「ひとり満喫」、および商品サービスの外部化意向が低い「質素悠々」が消費リーダーに追随している形です。

今回の分析で明らかになったのは、食やH&BC、掃除などの家事、クルマなど選択的耐久財も含め、すべての生活が年代やライフステージではなく、価値観によって再編されているということです。欲望を充当する価値を求め、商品やサービスを自らの価値観に基づいて選択しています。
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30年の長いトンネルを抜けて、そこは「灼熱の真冬」だった。2024年の消費は、経済史において消費転換の年だったと明記されるかもしれない。
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中流層の暮らしぶりは終わった。まん中がなくなって、焼け野原のような空洞感が支配している。「こころの戦後」だ。 「欲望自由主義」のもとで「個人欲望」の解放を可能にした消費社会は終わり、生きがいを求めてさまよう価値社会が始まった。
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