| 積水ハウス | ||
| 「5本の樹」計画にみるCSRのマーケティング | ||
「5本の樹」計画は、「3本は鳥のために、2本は蝶のために。地域に合わせた日本の在来樹種を」というスローガンのもと2001年に開始され、2006年にはグッドデザイン賞<新領域デザイン部門>を受賞するなど、対外的に高い評価を得ているだけでなく、同社の造園事業成長の原動力としても貢献している。 また、同社は、国内21企業が中心となっている「企業と生物多様性イニシアティブ」(2009年1月時点)へ参加、またドイツで開催された国連の「生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)」において、生物多様性の保全に積極的に取り組む「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」で「リーダーシップ宣言」を行うなど、生態系の保全や生物多様性に高い関心を示してきた。 「生物多様性」とは、「生物学的多様性 (biological diversity)」を意味する造語で、生態系・生物群系または地球全体に、多様な生物が存在していることを指す。生物多様性が崩壊すると、生態系の安定性が低下し、農水産物や森林など生物資源に重大な脅威となりうるといわれている。一般の関心は地球温暖化や省エネルギーなどに比べてまだやや低いものの、「生物多様性基本法案」が2008年5月に可決され、日本経済団体連合会(経団連)も2009年3月には「日本経団連生物多様性宣言」を発表するなど、環境問題の焦点のひとつとして注目されてきている。 国内の企業でも、鹿島建設が「ミツバチプロジェクト」と銘打ったミツバチの行動範囲、集まる花等のデータを収集、生態系に配慮した不動産の開発・設計やコゲラが休息できる緑地の確保などに取り組んでいるほか、リコーはWWFと連携してボルネオ島のオランウータン生息域回復を推進する「森林生態系保全プロジェクト」を展開、台所用洗剤を製造・販売するサラヤがヤシノミを原料とした洗剤の売上の一部をボルネオ島の野生生物の保全に充てる、などの取り組みが知られている。 積水ハウスでは、本業に即して最も環境への貢献度の高い活動のひとつとして生態系に配慮した造園緑化を行っており、積水ハウス本社のある大阪・新梅田シティの一画の庭園を、季節毎に入替を行う園芸種で構成した「花野」を、雑木林、竹林、棚田、野菜畑、茶畑などを設けて里山をイメージした約8,000m2の「新・里山」につくりかえたのもその一環である。
この実現のために同社は、住宅購入者やNPO法人育種業者など、さまざまな働きかけを行っている。 住宅購入者への提案としては、樹木の一覧や生物との関わりを多数の写真でみせる「庭木セレクトブック」や、生物との共存のストーリーを絵本のようにみせるパンフレットなどのツールを充実させると同時に、2007年10月からは、樹木や鳥・蝶についての情報を簡単に入手できる「5本の樹・野鳥ケータイ図鑑」という携帯用の自然観察サイト(http://5honnoki.jp)を開設し、啓蒙活動にも力を入れている。 また、生物の多く集まる在来種中心の植栽は、生態系のバランスが保たれることにより結果的に特定の病害虫の被害が少なくなり、管理が楽になるだけでなく、庭や街並みに豊富な緑があることでより資産価値が高まるなども住宅購入者へのメリットとしてあげられる。 庭園の管理や楽しみ方などについては、積水ハウスの社員が行っているが、その社員向けの研修や、顧客向けの自然観察会などの実施はNPOとの協働関係を通じて実施されており、NPOと企業の優れたパートナーシップ事例に与えられる第6回パートナーシップ大賞(パートナーシップ・サポートセンター)を受賞している。 育種業者とのネットワークも強化された。これまで育種業者は公共工事に要求されるような一定の規格のものを一度に大量に納品するための栽培を行ってきたが、「5本の樹」計画では多様な種類、成長段階の植物を提供するため、多様性に配慮した育成や安定した経営、適正な納入が可能となったからである。 本業への貢献についてみると、同社の造園事業は日本最大で、2007年の売上は519億円に達しているが、住宅1棟あたりの樹木数は2000年比2倍へと成長した。このうち約5割が「5本の樹」計画によるものである。 「5本の樹」計画の成功にならい、競合他社も同様の取り組みを開始してきているが、住宅購入者や育種業者など多様なネットワークに支えられた同社の強みは、やはり一日の長があるといえるだろう。 「5本の樹」計画は、「環境保全」「市民社会への貢献」など多くの企業がCSR活動に掲げている目標だけでなく、「顧客への提供価値向上」「本業への貢献」を同時に追求し、成功をおさめている。グッドデザイン賞の受賞理由でもある『21世紀の住宅メーカーのあり方をうらなう先進的なミッションのある提案』として注目される事例である。 (2009.08)
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