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公開日:2025年10月01日

消費社会白書2026
- 欲望の拡張と価値マーケティングの新時代


 2026年、日本の消費社会は大きな転換点を迎えています。

 近年の物価上昇は、生活者にとって強い不満や苛立ちの要因であると同時に、消費を押し広げる新しい原動力にもなっています。価格が上がっても生活必需品は「仕方なく」購買を続けざるを得ず、その結果として消費総量は増加し、経済統計上では景気を牽引する状況が生まれています。この現象は、本白書が提示する新しい消費スタイル、「イライラ消費」を象徴しています。すなわち、値上げが必ずしも消費縮小に直結せず、人々の苛立ちや不満が購買行動を通じて噴き出し、経済を動かすという新しい構造が明確になってきたのです。

 しかし、この現象を単なる経済現象として片づけることはできません。重要なのは、その背後で進行している生活者の価値観の転換です。従来、経済やマーケティングにおける「価値」は、機能や性能といった合理的・数値的な指標に重きが置かれてきました。ところが現代では、消費者は単なる機能以上の「有用性」を求め、そこには「欲望の拡張」が認められます。

 言い換えれば、価値とは消費者の欲望に裏づけられ、商品やサービスがどのように「自己表現」や「自己進化」の手段となるかにかかっているのです。購買は生活必需の充足を超え、「自分らしさを表すこと」や「次の自己を発見すること」につながっています。

本白書では、この変化を8つの軸から読み解きます。

1. 消費者の新しい現実

  • 専業主婦からサラリーマンへ
    かつて女性は専業主婦が多数派だったが、その割合は急速に低下し、有職女性が拡大した。女性は家庭から職場へと活動の場を移し、社会の中で役割を広げている。
  • 大黒柱ではなくなった男性
    男性が「稼ぎ手」、女性が「家庭」という固定的な役割分担は崩れ、共働きが一般化している。家計を支える大黒柱は男性だけではなく、夫婦で担う形が広がっている。
  • 働く高齢者
    高齢者は定年後に隠居生活を送る存在ではなくなり、積極的に働き続ける姿が目立っている。労働力人口の一部として、社会や家庭に新しい役割を果たしている。

2. 価値観 - 協調と進化のあいだで

  • 共鳴的私人主義
    代表的な価値観は、他者との協調姿勢や安心規範を重視しながらも、その中で自由を求める意識がある。社会とのつながりと個人の自立が共存する二重性が特徴である。
  • 自己超越欲望
    従来の自己実現は、自分の能力や可能性を最大限に発揮し、自分らしく生きることを目的とした。しかし現在は、その先にある未知の自分に出会い、想像を超える新しい自己へと進化する欲望が強まっている。

3. 消費 - 不満と自己表現が駆動力

  • イライラ消費
    物価上昇や増税などに対する不満や苛立ちから、やむを得ず支出が膨らみ結果的に消費が拡大する現象。
  • 物価高越えの収入層
    実質収入増加層(物価上昇を上回る収入増加層)が、積極的な支出意向を示し、市場拡大を牽引している。
  • 我慢からワタシ主役消費
    長く続いた節約や我慢の時代を経て、消費者は「自分を抑える」のではなく「自分が主役」であることを表現するようになっている。購買は「自分らしさ」や「自己尊重」を示す手段として拡大している。

4. 耐久財・サービス - 時間と信頼の再定義

  • 時産家電とサービス
    共働きや家事コストの高い層では、高機能家電・家事代行・サブスク意向が高い。単なる時短ではなく「時間を生む」価値が重視されている。
  • メディア分断と信頼格差
    清貧・ゆとり世代はSNSを主な情報源とし、マスメディアへの信頼は低下。バブル後世代を境に、信頼の軸がマスからネットへ逆転している。
  • EVは若者の顕示欲
    先進感覚の若年層は、環境貢献よりも「自慢できる先進性」を重視してEVを選ぶ傾向が強い。

5. H&BC - 個人のブランド化と自己進化

  • 見せたい私メイク
    自己実現欲求の高い消費者はルッキズム傾向が強く、理想像を体現するための重要な投資先としてメイクを位置づけている。
  • ワタシブランディング
    美容やファッションを通じて「私はこういう人間だ」と他者に示す行動が強まり、メイクやスタイルが自己表現と自己実現を兼ねる"個人のブランド化"の手段となっている。
  • 未知の自分欲と15分の魔法
    消費者は販売員などの専門知識を通じて、想像もしなかった新しい自分に出会いたいと願望している。特に10〜15分の濃密な接客は、安心感と信頼感を生み出し購買意欲を高める。

6. 食 - 内食進化と自分時間

  • スマート美食
    食生活の中心はコスト調整しやすい内食である。その中で惣菜や冷凍食品を活用し、手間を省きながら一汁三菜を整える合理的なスタイルが広がっている。このスタイルでは「どう準備するか」よりも「どれだけ満足できるか」が重視されている。
  • 一汁三菜から一汁多菜
    高収入・高エンゲル層や先進感覚層では、一汁三菜にとどまらず、主菜2品以上、副菜2品以上。品数とメニューの多彩さによって、食の充実感を高めている。
  • 自分時間層の食関心
    子供の独立や夫婦中心の暮らしになると、自分たちのために食を楽しむ意識が高まり、健康や多彩なメニューへのこだわりが暮らしの充実につながっている。

7. ブランド - 信頼と自己表現の両義性

  • 値上げで崩れる信頼
    10%の値上げで半数がブランドスイッチをする。繰り返される値上げや増す割高感は、その信頼を損なう要因となる。
  • ブランドは指標、選択は私らしさ
    ブランドは品質や安心の指標だが、購買行動では「自分に合うか」「自分を表現できるか」が重視される。信頼の指標としてのブランドと、アイデンティティを映す選択が両立している。
  • ブランドパーソナリティと価値伝達のバイアス
    ブランドは品質や機能を超えて、人の性格のようなイメージをまとって受け止められる。その価値は商品そのものよりも、どのように伝えられるかによって大きく左右される。

8. 購買行動 - 店頭回帰と体験化

  • ネット購入率は7%で頭打ち(経済産業省調べ)
    ネット購入は拡大してきたものの、全体の7%で頭打ちとなっている。情報収集はネットで行う一方、実際の購入では品質確認や安心感を重視して店頭を選ぶ傾向が根強い。
  • 情報のカスタマージャーニー
    購入までの情報接触は、カテゴリーや価値スタイルによって違う。ロイヤリティが高い層ほど接点が広がり、多面的に情報を取り込む傾向がある。
  • 品揃えエンタメ
    豊富な品揃えは「ワクワク」や「楽しさ」を生み出し、売場をエンターテインメントの場に変えている。ただしその効果は世代や価値観で異なり、中高年層では限定的である。

結論

 2026年の日本の消費社会は、スタグフレーション下においても縮小ではなく、むしろ拡張と変容を続けています。消費は価格や機能をめぐる取引を超え、生活者が不満を解消し、自分を表現し、次の自己へと進化していく舞台へと変わりました。

 この現実は、企業に対して従来の価格競争や性能訴求からの決別を迫っています。重要なのは、生活者の苛立ちや不安を単なる購買刺激として利用することではなく、それを価値ある体験や物語へと転化し、生活者が「自己表現」と「自己進化」を実現できる環境を整えることです。

 企業に求められるのは、短期的な売上やシェアの確保にとどまらず、生活者の欲望の拡張を正面から受け止め、商品・サービスを通じて「次の自己」を可能にする存在になることです。そこにこそ、新しい競争優位があり、社会とともに持続的に成長するための基盤があります。

 今、不可欠なのは、価格や機能の次元を超え、生活者の欲望に応える視点を経営に取り込む冷静な判断と持続的な姿勢です。「消費社会白書2026」がその道筋を見定める一助となれば幸いです。


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