連載 情況の戦略判断シリーズ

中国の戦略的虚構 - 高市発言が露わにした中国の弱さ

2025.12.09 JMR生活総合研究所 代表取締役社長 松田久一

01

高まる中国の日本への圧力攻勢

 戦略経営やマーケティングの専門家が「国家」を問題とせざるを得なくなっている。ロシアのウクライナ侵略以後、市場の魅力度やサプライチェーンが大きな影響を受けるからである。高市政権誕生後は、高市首相の「存立事態」の定義発言とそれへの反応としての「野蛮」な中華人民共和国の大阪領事、薛剣領事の「斬首」発言以後、中国の日本への様々な「嫌がらせ」的な外交政策が続いている。レーザー照射も中国の軍事大国イメージを利用した脅しである。日本国民を脅し、世論を分断する試みだろう。 もう一方で、国家並みの企業の戦略経営などの事例(他者経験)が、軍事を含むパワーバランスの分析に有益な視座を提示できる可能性も持っている。

 ここでは、人口およそ14億という巨大市場とグローバルサプライチェーンの生産を担う中国、そして、社会主義国家をどう捉え、民間企業としてどう戦略的に判断するかを検討したい。これは、近年流行の地政学的分析になる。明確な統計は明らかではないが、進出企業は1万3000社、生産、販売などの拠点数は約3万、売上は約303兆円にのぼる。貿易額は約44兆円、対中輸出は19兆円、貿易赤字は約6兆円である(経済産業省、財務省貿易統計など)。中国の日本への渡航警告によって、日本への観光客が減り、1.7兆円の損失が出ると推測されている。他方で、オーバーツーリズムによる「経済外部効果」は、約2兆円とされる。損得を合算すると渡航制限は日本に3,000億円のプラス効果をもたらすことはあまりマスコミでは報道されていない。中国人が減って地域住民が暮らしやすくなり、良質な日本人観光客が増え、高騰していた宿泊代や地価が下がる。損をするのは、中国観光客に過度に依存した個人や企業だけである。

 一般的に、中国は日本の「お客さま」というイメージがあり、買い手の印象が強いが、実際は、日本が中国の「優良なお客さま」であり、日本は毎年、6兆円もの貿易赤字を計上し、それが中国の土地、株、国債などの資産になっている。しかも日本企業は、中国国内で303兆円の売上をあげているので、日本の中国への影響力は、巨大である。中国GDPの11%ほどの影響力を持ち、膨大な中国人雇用を擁している。日本政府が日本企業に渡航警告すれば、市場評価は下落し、撤退判断となり、撤退によって中国国内の膨大な雇用が失われ、政権維持は北朝鮮のような独裁国家にならない限り、困難になる。民主集中の建前を維持する習近平中国がもっとも警戒する事態である。

 しかし、日本のマスコミ報道では「お客さま」中国としてまったく正反対に捉えられ、巨大な中国と弱小日本の印象が強くもたれている。

 中国の2024年の円ベースのGDPは、2,805兆円である。しかしその信憑性は20~30%は低く、今後の成長率も地価バブル、EVバブルなど様々なバブルが崩壊途上にあり、人口減少の過程に入っているので成長率はピークアウトしている。政府や地方の経済振興策のための優遇や補助金に群がり、収益性を無視した住宅や商業ビル建設が行われ、さらに期待が膨らんで担保価値があがり、借金するというバブルが生まれ、所得の10倍を超える住宅やマンションが増え、返済ができなくなる企業が出始め、価格が暴落し、バブルとは逆の価格下落過程に入っている。日本では、バブル期の価格から90%の下落でやっと買い手が見つかり底をついた。しかし、中国では販売価格が規制され、地方によるが、購入価格を一定下回る価格では販売できない。従って、買い手がつかず、不良資産の処理ができない。バブル崩壊は先延ばしされている。このような仕組みが、太陽光パネル、EVなどでもあり、成長分野は限られ、数年で処理できる状況にはない。そこに、トランプ関税の影響がのしかかっている。

 従って、中国にとって日本は、手放せない市場であり、お客さまであり、技術供給国である。マクロでは、日本経済はどん底からの回復過程へ、中国は成熟から衰退過程に入っていく移行期である。


02

軍事大国中国の現状 - 強い中国と弱い日本は本当か?

 軍事的には、年間40兆という巨大な予算によって、兵器の量ではアメリカに追いつきつつあるが、運用、練度や人材などでは難しい。中国は、日清戦争以後、対外戦争の経験を持っていないので、海軍力をいかす運用能力を持っているかは不明である。そもそも毛沢東のゲリラ戦経験しかないので敵地攻撃戦略は他国の戦史の模倣になり、戦略が読まれやすい。

 中国の軍事的な敵はアメリカであるが、空母を3隻揃えただけでは、アメリカ本土攻撃ができる訳でもない。まして、3隻では日本攻略も難しい。中国の排水トン数では、1日1万人しか上陸できない。日本を攻略し、一定の地歩を固めるには、最低150万人の歩兵が必要になるが、現状では、150日以上を要してしまう。この間に、日本でも、同盟国アメリカでも、十分な反撃ができる時間を稼ぐことができる。つまり、戦争遂行には政治目的―戦争戦略―兵器―運用システムという一貫性が必要だが、アメリカのミーツー戦略にしかみえない。

 従って、中国の軍事力は巨大だが、ピークを迎え、運用できるかは不確実性が高い。日本は、戦前の日本の軍事経験と戦後のアメリカとの協力関係によって、極めて高い練度を持ち、海軍の軍事演習ではアメリカを凌ぐ成果をだしている。現在、中国との兵器を中心とした軍事力では、「失われた30年」の間に追い抜かれた。およそ半分程度である。しかし、残りの半分は練度と運用で補完できる可能性が高い。日本が軍事力で劣っていても圧勝した日清戦争と同じような状況だ。日本は、中国と戦争する政治目的も動機もないが、単独で日本をギリギリ防衛できる水準であると希望的な推測をする。実際には、単独紛争は非現実的であり、同盟国アメリカの支援を得ることになる。この観点から軍事力を比較すると、中国本土に接近する作戦は難しくなり、第一列島線内に封じ込めることも難しい。しかし、中国の尖閣諸島などの東アジア地域への攻撃には十分に防衛し、反撃し、撤退させる能力はある。

 このように、中国の軍事力は巨大であり、日本は弱い、という認識は現実的ではなく、中国の印象操作の結果と言えるような状況である。

 政治的には、共産党独裁から毛沢東、鄧小平に次ぐ、習近平個人の独裁化を進めている。特に、いかに個人独裁の「正統性」をつくりあげるかは重要な課題である。創業カリスマの毛沢東、市場経済化をすすめ経済的豊かさを実現した鄧小平に対して、習近平の個人独裁の「正統性」は手続き合理性しかない。習近平中国は大きな転換期を迎えている。その後は、より民主的な集団指導体制へ移行するとみられている。

 巨大な経済力と圧倒的な軍事力を持つ中国に、日本は立ち向かえない。対立を避けて共存共栄の道を探り「曖昧」に対応し、妥協するところは妥協し、協力関係を結んでいこうとする考え方が強い。特に、日中友好議連の政治家や経団連などは、中国に完全依存している企業を中心に、政治は政治、経済は経済という政経二分論が多い。

 ここでとりあげる問題は、東アジアの「力の均衡」を分析し、中国との関係をどう評価すべきかを検討する。ケースは言うまでもなく、高市発言への一連の中国の反応から読み解く、中国の「力(パワー)」である。そして、その中国のパワーを見極めた上で、中国市場とグローバルチェーンをいかに組み込むかを検討する。結論は、弱い中国を自暴自棄に追いやらずに、いかに第3次世界大戦の引き金を引かせないか、である。民間企業としては、中国市場へのローカライズと段階的な生産シフトであり、日本政府との価値観にもとづく政経一体の連携である。そして、民主中国への長期支援である。


03

未完の「内戦」としての現代

 中国共産党にとって、台湾統一問題とは単なる領土紛争ではない。それは、第2次世界大戦およびそれに続く国共内戦の「未完のプロセス」であり、これを完遂することこそが党の正統性を担保する唯一無二の悲願である。習近平指導部が掲げる「中華民族の偉大な復興」というスローガンは、アヘン戦争以来の屈辱の歴史、そして、日清戦争での敗北を清算し、台湾併合をもって大戦後の秩序形成を自国主導で完了させるという西欧中心の世界史をひっくり返す歴史的執念の表れに他ならない。

 中国はこの目的のため、武力威嚇のみならず、経済的威圧や外交的孤立化など、あらゆる手段を講じてきた。しかし、先般の国会審議において、岡田克也立憲民主党議員の質疑に端を発した高市早苗氏の発言は、長らく東アジアの安全保障を覆っていた「曖昧性」の霧を晴らし、中国が直面している冷厳な戦略的現実を白日の下に晒す結果となった。

 この発言を契機に、大阪領事の外交官にあるまじき発言から中国の日本への圧迫が始まった。極めて不穏当な領事発言にふれずに、中国の外交部は、高市発言の撤回を要求し、日本への渡航を控える措置、海産物輸入の再禁止などの「嫌がらせ」を矢継ぎ早にうち、習近平がトランプ大統領に直言し、イギリス、フランスに同意を求め、国連では死文化した「敵国条例」をもちだすなど「異常な」反応をしめしている。日本政府は、現在は「事実関係」を各国や国連に説明する対応行動をとっている。今後、どのように収束させていくかは習近平中国によるが、長く時間がかかりそうである。

 この簡単な経緯を踏まえて、なぜ中国は、特に習近平中国は発言撤回に拘り、日本の政権批判を強めているのか、そして、その背景に何があるのか、日本政府、そして企業はどう対応すべきかを検討してみたい。中国をいかに戦略的に判断し、対応するかである。戦略国家がどんな戦略判断をし、外交や内政に反映させ、企業はどう行動すべきかである。

 言うまでもなく、戦略は、まさに、戦争戦略を企業経営に応用したものである。歴史は浅く、1940年代のA.チャンドラーの「組織構造は戦略に従う」と事例研究から始まる、と考えるのが妥当だろう。軍事戦略が戦史研究から導出される賢明な原則を引き出す方法をとっているので、企業事例研究をベースとする「ハーバードビジネススクール(MBA)」が生まれた。個人的にも、企業事例だけでなく、戦争における多くの戦闘事例を収集し学んできた。中国事例分析は、まさに、戦略経営のバックボーンを改めて応用した結果である。はじめに、戦略経営やマーケティングの「戦略参謀」が地政学的問題を議論できる根拠を述べておきたい。現在のMBA出身者は、歴史知識がなく、専門化しているので無理だが、プロには、それなりの歴史知識と歴史観が「バイアス」を避けるために重要である。


04

海軍力の比較 - 中国、台湾、アメリカと日本の現実

 中国は近年、空母「福建」の進水や核戦力の増強など、軍事力の近代化、特に、海軍の増強を急速に進めている(図表)。軍事力の得点化は極めて難しい。クラウゼヴィッツによれば、戦闘力(軍事力)は、精神諸力(主に、勇気、練度や運用能力など)と物理諸力(主に、兵器など)の積になる。これは大事な法則だが、軍事オタクは、兵器がすべてを決めるなどと偏った分析をする。しかし、それは戦史では通用しない。最新鋭艦を二隻持った清に、兵器では劣る日本が勝利した。従って、リアルな戦闘力(軍事力)を整理するのは難しい。その限界の上で、兵器をもとに艦数や排水量などで整理した(図表)。

図表.4ヶ国戦力比(2024-2025年)

項目

中国

日米台連合

台湾

アメリカ

日本

主要艦艇数(隻)

730

433

102

291

104

艦艇数比率

1.0

0.59

0.14

0.40

0.14

空母(隻)

3

11

0

11

0

空母比率

1.0

3.67

0

3.67

0

大型揚陸艦(隻)

11

0

0

0

0

潜水艦(隻)

72

95

4

71

24

潜水艦比率

1.0

1.32

0.06

0.99

0.33

大型艦総排水量(万トン)

30

217

2

200

12

排水量比率

1.0

7.23

0.07

6.67

0.40

兵力輸送能力(名)

14,800

0

0

0

0

輸送能力比率

1.0

0

0

0

0

海軍人員(万名)

約40

約47

4

約35

約4.5

人員比率

1.0

1.18

0.10

0.88

0.11

国防費比率

1.0

約5.5

0.26

約5.1

0.48

図表.総合戦力比(中国=1.0)

戦力評価

中国

日米台

台湾

アメリカ

日本

量的戦力

1.0

0.6

0.14

0.4

0.14

質的戦力

1.0

4.5

0.3

3.5

0.8

技術水準

1.0

3.8

0.8

3.0

1.2

作戦経験

1.0

4.0

0.2

3.5

0.7

地域優勢度

1.0

2.8

0.4

2.0

0.6

総合戦力比

1.0

3.2

0.18

2.4

0.52



 ここから確認できることを、日本と中国について整理する。

  • ・ 戦前は世界トップの海軍力を持っていた日本は、現在では中国の半分ほどの軍事力である
  • ・ 排水量だけでなく、日本がもっていない原子力潜水艦などがあり、質的にも劣る
  • ・ 攻撃力の高い兵器がなく、米海軍の補完性が強い

 他方で中国は、丁度、日本の特徴の裏返しになる。量質ともに圧倒し、軍事力では優位にある。

 中国と台湾を比較すると、台湾は圧倒的な劣位にあり、到底勝てない。ここで少々、思考実験のために、日本と台湾が何らかの同盟関係を結ぶとすると、中国の80%弱の軍事力になり、戦前の海軍の伝統を継承する日本の練度の高さなどを踏まえると、中国の侵攻を防ぐ可能性が生まれる。これは、自由民主を求める台湾が日本に大きな期待を寄せる根拠にもなる。

 次に、中国とアメリカを比較すると、アメリカは中国の2.4倍の軍事力を擁する。これに、ロシアの海軍力(0.5)を加えると、増強されるが、それでも半分の海軍力である。アメリカの海軍力は、太平洋と大西洋で展開する。従って、太平洋向けには、橫須賀を母港とする第七艦隊を中心に、海軍力はほぼ2分化され、中国は、ロシアが加わると均衡する。しかし、練度や運用能力を考えると、急速に軍事力を高めた中国軍は、人材育成ができ、練度の高い運用ができるかとなると、実際の軍事力は低めに評価するのが合理的だろう。


05

中国の台湾侵攻

 中国が、何らかの環境変化によって、台湾侵攻を始めた際の軍事力比較はどうなるか。

 中国の軍事力を1とすると、日米台は、3.2になる。さらに運用能力を含めると、4倍程度にはなると推測できる。仮に、習近平中国が、毛沢東の持久戦論で展開される日米対の警戒が解けるスキができたと判断し、台湾侵攻を進めたとする。

 どうなるかは、アメリカの戦史研究による経験則からシミュレーションした結果がよく知られている。CSIS(Center for Strategic and International Studies)の24シナリオである。このシミュレーションでは、22回、侵攻は失敗すると予測している。

 中国側には、CSISの戦争ゲームを「空理空論」と評する論調もある。しかし、この批判は、戦争ゲームの目的を誤解している。CSISのシミュレーションは、中国が勝利するための戦術を列挙するものではなく、合理的な戦略選択を前提とした場合に、台湾侵攻がいかに困難であるかを検証するための分析装置である。

 例えば、中国にとって軍事的に合理的に見える沖縄の在日米軍基地への先制攻撃は、純軍事的には制空権や補給線を断つ有効な手段である。しかし、このオプションは戦略的には致命的な矛盾を孕む。沖縄攻撃は、日本への直接攻撃を意味し、台湾問題を「国内問題」と位置づけてきた中国自身の論理を破壊し、日本の全面参戦を不可避にするからである。

 すなわち、CSISが沖縄攻撃を想定していないのは、分析の欠落ではなく、中国が合理的戦略主体である限り選択できないオプションであることを示している。戦争ゲームが示しているのは、中国が「勝てない」のではなく、「勝つための戦略オプションが存在しない」という冷厳な現実なのである。

 従って、台湾統一のために日本のアメリカ軍基地を攻めるのが軍事合理的であるのに、中国は言わないで「曖昧な」表現を維持している。

 中国の軍事作戦は、演習などを装って、台湾を海軍力で包囲し、兵站を断つ。その上で、本土ミサイルを中心に、制空権を確保し、台湾の空軍を叩き、防衛の弱い南方の高雄から上陸を開始し、約2万人の歩兵を上陸させ、北の台北に向かって進軍させ、制空権支配のもとで地歩を固め台湾全土を制圧する、と推測されている。これに対しアメリカ軍は、第七艦隊を中心に西より台湾に接近し、ミサイルによって台湾包囲を解き、空母の空軍力によって、制空権を確保し、地上戦を援護して、上陸地点まで押し戻し、孤立させて撤退させるという反撃である。

 この際の軍事力は、中国に対し、海軍力0.18の台湾が対応する。中国は5倍以上の兵力を有するので防戦するしかない。台湾の役割は、米海軍の到達まで持ちこたえることである。陸戦ではなんとか持ちこたえることは可能だ。そこに、アメリカが救援作戦をとり、中国海軍が、接近阻止のために潜水艦を中心に迎撃する。日本は、アメリカが攻撃されるので、集団的自衛権のもとで間接支援する。海では、潜水艦やP-3Cなどの航空機がアメリカ軍と連携する。さらに、これを見越して、中国は、沖縄にある日本のアメリカ軍基地に対し、攻撃を加える。これは明らかに日本への攻撃であり、日本は応戦する。

 この戦いが長引けば、中国と同盟に近い関係にあるロシアや北朝鮮が参戦する。日本側では、オーストラリア、インド、フィリピンなどの「インドアジア太平洋」地域の支援を要請することになる。このように参戦国が拡大すれば、もはや「第3次世界大戦」である。最大の危機は、個人的な歯止めがきかない独裁国家が追い込まれた際の自暴自棄による「核兵器」の使用である。日本、台湾やアメリカなどは迎撃システムを持つが100%打ち落とせるかは不確実性が残る。一発でも被弾すれば、30万人程度の被害を受けることになる。

 このシナリオから確認できることは三つである。

 ひとつは、中国が合理的判断をすれば、台湾侵攻の選択肢はない、ということである。コストベネフィット分析をするまでもなく、台湾侵攻は愚かな決断になる。

 第2は、アメリカは、トランプ大統領が「台湾保障実施法案」(12月2日)に署名し、施行された。米台関係からみれば、台湾侵攻の際に、台湾を防衛することは言うまでもない。しかし、CSISのシミュレーションによれば、戦死者数約3,200人、航空母艦2隻、その他の大型水上戦闘艦10~20隻の艦船の喪失、200~400機の航空機の損失、グアムの基地が壊滅的な打撃を受ける可能性などを予測している。アメリカにとっては、この犠牲を払うことを国民に納得してもらえるか、という政治的決断を抱えることになる。そして、日本が集団的自衛権を行使できるかが重要な鍵を担っている。日本の協力が得られなければ、台湾接近に時間がかかり、より遠方で時間的に余裕のある中国海軍と戦闘することになる。日本の協力は必須である。

 日本は、短期的な利益がないにもかかわらず、日米安保条約のもとで、集団的自衛権の行使として、基地使用と補給を担うことになる。最悪シナリオでは、自衛隊や基地周辺の住民に約4,700人の犠牲者がでる。アメリカが人的被害を受けるなかで、日本が協力しなければ、同盟は維持できなくなる。自力で日本を守ることになる。しかし、日本の軍事力は、アメリカの補完として装備されているので、攻撃能力を持たない。こうした戦略的判断が必要になる。


06

習近平中国は何に怒っているのか

 ネットメディアでは、習近平中国の「狂気」「怒り」「恫喝」などの言葉が飛び交っている。軍事力比較や台湾侵攻シナリオを整理してみると、この合理的とは思えない行動の根拠が見えてくる。

  • ・ 習近平の独裁者としての怒り
  • ・ 周辺が忖度して様々な攻撃をしている
  • ・ 攻撃内容が小さく、目立つものが多い
  • ・ 反日デモなどを動員していない
  • ・ レアアースなどの禁輸措置はとっていない
  • ・ 他国の支援をとろうとしている

 このようなことを踏まえると、怒りの根源は、習近平個人から発せられている可能性が高く、日本への攻撃内容は、日本が本気で反撃してきたら中国が強大な経済的損失を被るようなものをシグナリングしているようだ。つまり、高市発言の何かが、独裁化を進める習近平にとって、極めて不都合であり、周辺は忖度しているが、不況下でできるだけ損害を拡げないようにしている。

 経済状況で見る限り、日本は中国の「お客さま」であり、毎年、6兆円を稼がせて頂いており、日本企業が300兆円も寄与している現実があるからである。もし仮に、日本政府が、対応措置として、日本人や日本企業の安全性のために、帰国命令をだせば、303兆円の売上がとび、高いと言われる失業率がさらに高まる可能性がある。

 それでは、高市発言の何が、「虎」ではない「猫」の尻尾を踏むことになったのか。それは、中国が形成してきた日中国民、ひいてはアジアや世界への印象操作を壊し、独裁の正統性を無効化したからである。ポイントは三つある。

① 高市発言が、台湾有事は、日本の存立危機事態であり、台湾を援護することを表明している同盟国アメリカに、集団的自衛権をもとに、協力し、支援することを明言したこと

② 同盟国のアメリカ軍が攻撃された場合は、日本の存立危機事態であり、集団的自衛権を発動する

③ 日本の世論が高市発言支持でほぼ一枚岩であること(支持率70%超え)

 中国の認知戦と情報戦で、台湾侵攻の際の日本のアメリカ支援を「曖昧化」し、阻止し、歴代政権も敢えて明言しなかったのに対し、それを明確にした。さらに、それを戦争に臆病とみなす日本国民の圧倒的多数が支持している。高市発言は、日本の置かれている地政学的環境と日米安全保障条約という法的制約のもとで、当たり前のことを言ったに過ぎない。歴代政権が曖昧にしてきたのは、中国の情報戦が成功したか、中国への忖度である。

 その結果、発言によって「曖昧性」は消えて、日本がアメリカの同盟国であることが明確になり、次のことが明らかになった。

① 日米台が連携すれば、中国は勝てない、ロシアを巻き込んでも勝てないという現実

② 勝てないことを知りながら発言する習近平の台湾侵攻は「ブラフ」である

③ 「ブラフ」をかけているのは、習近平独裁政権の護持であり、「政治的正統性」の根拠を揺るがせる

 つまり、高市発言は、知らぬうちに習近平の軍事侵攻の不可能性を明示し、台湾侵攻は脅しにすぎず、習近平は台湾統一をできず、毛沢東と鄧小平に並ぶ指導者ではない、ということを発信したことになる。これは、台湾侵攻への強力な抑止力となった。ロシアと組んでも、北朝鮮が参戦しても統一できないことを明らかにし、年間40兆円にのぼる軍事費の有効性が問われることとなった。

① 習近平は、中国の軍事力を実際以上に大きくみせようとしている

② 軍事力劣位のもとでの台湾侵攻は「脅し」に過ぎない

③ 習近平後も含めて中国統一の可能性はない

 高市発言は日本通の外務大臣王毅の立場を危うくし、師弟関係にある薛剣領事が敏感に反応し、拙い日本語で反撃を試みて逆に問題を大きくし、かえって、王毅が「消える」可能性を高めた。習近平の前では副首相でさえ凍り付くらしい(トランプ演説)。

 習近平個人独裁の危機を突きつけたのが高市発言だろう。多くの人々が気づいているように、習近平には、人間的な度量や魅力がなく、ジャイアン的な「威圧」しかない。そもそも「中国の夢=漢民族の夢」は歴史的ウソであり、漢民族が世界帝国をつくった歴史はなく、すべて周辺民族である。毛沢東がつくりあげた神話である。また、鄧小平のような人間的な魅力に欠けている。

 歴史的愚行とは、「過剰な目標」を設定し、リアリズムを無視して突っ走ってしまうことである(『歴史と戦略』、永井陽之助)。4期目に入った習近平中国は、世界帝国であったという神話を戦略目標にし始めた。それは、習近平の独裁化によって、国内の不満を封じ込め、政権を維持するために必要なことである。

 高市発言について、自らトランプに不満を述べるまでに感情を害し、執拗に、日本の反撃を避けるように「悪手」を重ねているのは、中国の虚言を明らかにし、習近平の独裁の大きな障害となってしまったからである。従って、日本側は、発言を取り消すしか、習近平独裁の国内国外の承認は得られない。明らかになった情報は、再び曖昧にもできない。中国の威信も回復は難しい。アメリカに匹敵する軍事大国の印象も変わり、中国の庇護下に入る国も減少せざるを得ない。

 日本とアメリカの同盟関係からの発言は、習近平独裁中国への一撃となった。習近平個人のあまりに無謀な夢を打ち砕いたことが、中国の独裁者の怒りである。しかし、正義を裁断する政治家からみれば、自由と民主の価値を持つ日本からすれば、いつまでも曖昧にすることはできない。見て見ぬふりをできない高市首相の正義感が表明されたものである。


07

認知戦と情報戦への傾斜

 軍事的な正面突破が困難である現実を認識しているからこそ、中国は「戦わずして勝つ」ためのアプローチ、すなわち認知戦(Cognitive Warfare)と情報戦に注力せざるを得ない。

 これは中国人民解放軍が掲げる「三戦(輿論戦、心理戦、法律戦)」の現代的展開である。彼らは、台湾内部の世論を分断し、日米の介入意思を挫くためのプロパガンダを流布し、サイバー攻撃やフェイクニュースを用いて相手国の意思決定プロセスを混乱させようとしている。

 高市発言以前の状況下では、日米の対応における「戦略的曖昧さ」が、中国にこの認知戦を展開する余地を与えていた。「日米は本当に介入するのか」「日本は法的に動けるのか」という疑念を増幅させることで、中国は自らの軍事的劣勢を隠蔽し、心理的な優位性を保とうとしてきたのである。

 その狙いは、日米の一般人に次のような印象を形成することである。

① 中国は軍事力も経済力も巨大であり、アメリカと並ぶスーパーパワー(G1)である

② 中国の台湾統一は、中国の国内問題である

③ 中国は近代の一時期を除き歴史上常に世界帝国であった

 つまり、中国は巨大市場で軍事力も強い、という印象を植え付け、中国との戦争回避やひれ伏すことによって多くの犠牲者を出さずにすみ、朝鮮外交のように利益を得られる、と思わせるためである。


08

毛沢東の亡霊

 中国は一党独裁の国家である。中国共産党を動かしている思想とは何か。それは、マルクス、エンゲルス、レーニンやスターリンの写真を掲げ、多くの影響があるように思われるが、すべては中国共産党を生んだ毛沢東思想による。毛沢東は、マルクスやエンゲルスを読んだ形跡はない(興梠一郎、「毛沢東」)。せいぜいレーニンであるが、これも怪しい。

 従って、現代中国の政治や戦略論に影響を与えている哲学や思想は皆無である。孔子を掲げても儒教でも、朱子学でもない。まして、戦後の自由主義論や保守思想などの現代思想の影響は皆無である。寧ろ、「ブルジョア」的なイデオロギーとて宗教と同様に否定している。田舎の文学青年が、日本経由で学んだ共産主義思想の耳学問にすぎない。

 マルクスにもっとも影響を与えたヘーゲルなどの18世紀の「ドイツ観念論哲学」には直接間接にも触れてもいない。レーニンが、「唯物論と経験論批判」で評価した哲学思想の評価が絶対真理として「教条的に」受け入れられている。

 この論文は、アインシュタインの相対性理論に先んじ、影響を与えたと推測されているマッハ哲学の批判となっているが、当時の哲学をすべて批判し斬り捨てたものだ。切り捨ての論理は、すべての研究は、マルクス・エンゲルスの唯物論に依拠することのみが正しい、人間の認識は写真機のような物質的客観の「反映」に過ぎないとするものだ。左翼系の批判スタイルがここでほぼ確立された。この思想哲学は唯物論に立脚していない。階級的視点がない。故に、宗教と同様に「アヘン」である。廃棄すべき、というスタイルが確立された。

 毛沢東思想は、このスタイルを批判に取り入れ「中国的」発展を試みた。自由主義社会で影響を持つ、例えば、戦後のサルトルの実存主義なども、読まなくても、唯物論に立脚していない、階級的視点がない。故に、害である、と言える。

 毛沢東思想は、日中戦争で蒋介石の国民党軍(後の台湾)が優勢になると、多くの党員や農民を引き連れて、江西省から陝西省延安へ移動した「長征」(1934-1936年)、あるいは「大西遷」のなかで生まれたものである。1万2,500㎞の徒歩移動のため多大な犠牲者をだしたが、この「戦い」で共産主義思想が血肉化されたとする。実際は、党の毛沢東独裁に結びつき、逃げただけであり、国民党軍や日本軍とは戦ってもいない。日本の無条件降伏後は、国民党軍と戦い、台湾に追いやっている。

 この長征には、『持久戦論(1938年)』による。当時の毛沢東軍は、強大な日本軍に対し、真正面から戦えば、さらに、眼の前の国民党軍との戦いでも敗北必至の「弱小」の立場にあった。毛沢東は、これまでの戦略論では前提とされていた地理的空間と戦争継続という時間を武器にし、敵を疲弊させ、国際情勢の変化を待って反転攻勢に出るという、ゲリラ戦を展開するという持久戦略を採用した。この持久戦論は、弱者の戦う方法である。戦争は、政治的目的のための手段であり、相手の戦闘力を無力化することである。戦闘力とは、精神的諸力と物理的諸力の積である。従って、精神諸力をゼロにすれば戦闘力は無力化する。弱者の立場からすれば、武器や兵力が弱くても、戦闘意志を失わなければ戦いを維持できる。ひたすら相手が精神的物理的に消耗するのを待てばいい。アメリカに唯一戦争で勝利したベトナムの戦い方である。

 持久戦に象徴される毛沢東の思想は、認識論としての「矛盾論」、行動論としての「実践論」、認識と実践の統一としての「持久戦論」と集約できる。この思想に一貫しているのは、「革命家」の実践の論理であり、戦争戦略論を政治的内戦に適応し、「敵と味方」を峻別し殲滅するレーニン主義である。そして、そのための一党独裁である。

 認識論的には、すべては「物事」に解体され、対象が内包する「矛盾」が万物流転を支配する。これを現実に応用すれば、戦争が起こる世界を動かすのは矛盾であり、その矛盾は、主要矛盾と副次的な矛盾に分けることができる。これを、魔の前の国民党軍や日本軍との戦いに応用できる。矛盾論は、世界の変化の根源を矛盾として捉え、その矛盾の主要矛盾を特定し、戦いの本質を理解し、対処せよ、という認識論である。実際にはいくつかの抽象化されたケースがあげられているが、実際は、毛沢東が好きだった架空の「水滸伝」や「三国志演義」などから学んだものだ。

 さらに、毛沢東思想に流れている軍事思想は「孫子の兵法」である。「孫子の兵法」は、地形などは現代では理解しがたく、極めて短い文章で構成されているが、結論は単純である。

 「兵法」の冒頭や副題の「兵は詭道(きどう)なり」であるに尽きる。兵とは戦いであり、詭道とは「騙し」である。

 従って、戦いとは、敵を騙すことであり、戦わずして勝つのが最善である。この戦略的原則は現代においてますます重要性を高めている。

 高度に発達した情報技術によって、敵の個人はすべて盗聴監視されている。衛星を使って、個人の会話を傍受できるとも言われている。中東のイスラエルの戦いは例証している。精神諸力を挫くには、敵の指導者の居場所をつきとめ、個人的弱みをついて脅し、斬首すればいい。戦いは有利になる。この戦いを原則化しているのが孫子の兵法である。

 この原則を踏まえ、詭道を駆使し、相手を騙し、戦略的な目的を追求するのが、毛沢東の戦略論だ。

 相手のなかに矛盾をみつけ、主要矛盾を特定し、自らの目的を設定し、いかにして相手の反撃意志を挫くかである。相手は強大であり、我が方は弱小である、と状况設定する。そして、必ず勝つという意志を強く持つ。戦いの本質は精神的意志であり、戦いの意志を継続する。そして、相手が物理的に消耗し、精神的に疲弊するまで、極論すれば、逃げつづければいいのである。

 鄧小平は、この戦略を、力を蓄えるまで堅持しようとした。しかし、習近平は、経済成長の恩恵で軍事的拡大に成功し、軍事的優位に立ち、さらに、精神的に相手の意志を砕いて、敵を無力化し、世界帝国になるという「習近平個人」の「夢」を達成しようとしている。自らの社会承認のための独裁である。もはや、中国は近代国家ではなく、個人独裁国家への道を歩んでいる。

 習近平体制の独裁化は、スローガンや印象ではなく、最高中枢の人事構造、党と国家の制度関係、規律・治安・軍の運用、情報・社会統治の統制、後継ルールの不在、という観察可能な指標で確認できる。とりわけ2022年の党大会以後、指導部構成と政策決定の党内集権が同時に進み、2023年には国家機構の再編を通じて党の優位が制度化された。終身国家主席への道が開かれた。

 さらに、反腐敗・規律摘発の大規模継続は、統治能力の誇示であると同時に、党内エリート競争の抑制装置として機能し得る。こうした制度・人事・強制装置・情報環境の同時収斂は、比較政治学的にみて「個人中心の権威主義」への移行、すなわち独裁化の進行を示す。

 現代中国には、思想哲学のレベルで欧米などの西洋思想の影響があるとは認められない。従って、独裁化のモデルになっているのが、毛沢東であり、毛沢東思想である。

 毛沢東思想は、驚くほどの「弁証法的唯物論」の単純化だが、中国の社会主義革命を起こした人物であり、文学的抽象化のヴェールに覆われているので、批判が難しい。何よりも、教条的なので利用価値が高い。習近平にとっては、教条的に読めるので、利用価値が高い。

 漢民族の世界帝国の夢は現実的には難しい。そもそも漢民族が皇帝になった期間は長くない。常に、モンゴルなどの周辺民族である。さらに、中国が軍事的彼我でアメリカを超えることは21世紀にはあり得ない。成長がピークアウトしているので、軍事国家になり、巨額の軍事費を投入することも難しい。強行すれば、民衆の不満が爆発する。ソ連崩壊の二の舞になる。

 現状では、軍拡をかろうじて維持し、重点化されつつあるのが、情報戦による印象操作だ。現実は違えども、中国に有利な印象を世界の人々に植え付けていく。人間は、客観的現実ではなく、現実の印象で行動することはよく知られている。従って、中国が有利な行動をとれるように、他国の大衆、特にマスメディアが依拠している大衆の印象操作を試みている。欧米では、中国のスパイ活動が注目され、摘発を受けている。その狙いは、機密情報を得るだけでなく、教育やマスメディア組織への工作による印象操作である。後述するように、実際の経済力や軍事力よりも過大評価させ、中国への反対や抵抗意識を挫かせること、そして、同盟関係を分断することである。そのために、「恥も外聞もない」手段をとり、成功せずに、自ら悪循環に陥っている。

 世界第2位の経済大国となり、AI大国を自認する国は、決して弱い立場ではない。それにも関わらず、党公認の毛沢東思想という弱者の戦略をとりつづけている。特に、習近平の4期目は、「毛沢東思想」が根本的な思考様式として機能している。その結果、中国の虚構があらゆる面で暴かれはじめている。


09

戦略的明晰さが暴いた虚構

 岡田克也議員による誘導があったにせよ、あるいはそれ故にこそ、今回の高市発言は、これまで日中間に横たわっていた欺瞞のベールを剥ぎ取ったという点で歴史的意義を持つ。

 発言を通じて、日本政府(あるいは有力な指導者層)が、中国の軍事的脅威の本質を見抜き、日米台の連携による対処を現実的なオプションとして想定していることが明確になった。これは、中国が最も恐れていた事態である。なぜなら、日米の介入が「曖昧」ではなく「確実」なものとして認識された瞬間、中国の「武力統一」というカードは、単なるブラフ(こけおどし)であることが露呈してしまうからだ。

 中国が演じてきた「強大な軍事力による統一の不可避性」というナラティブは、日米台の強固なスクラムの前では虚構に過ぎない。高市発言は、中国に対し「我々は君たちの手の内(軍事的劣勢と持久戦頼み)を見透かしている」という強烈なシグナルを送ったのである。これにより、中国の国際的な威信、いわゆる「面子」は大きく傷つき、その世界的地位を自ら低下させる結果を招いた。


11

幻想に生きる中国との付き合い方

 軍事的なリアリティの上で、日本政府はどうすべきか、そして、企業はどうすべきか。

 日本政府は、事実を発信しつづけ、国益をもとに中国との外交関係を展開する必要がある。まず、習近平独裁政権が、台湾を武力統一し、日本を中国共産党の「敵」あるいはアメリカの「従属国」と見なす限り、国内過激派と同じ敵性をもっているので、妥協もみせかけの融和も必要はない。現在の貿易関係では、総合的に見れば、日本は「損」であり、赤字が継続すればするほど日本の資産は買われつづけることになり、「目に見えない侵略」(戦略判断論文)参照)をうけることになる。今後、10年で約60兆円の資産が中国によって「獲得」される。アメリカはもっと巨大だ。あらゆる日本の資産防衛やスパイ防止法などを整備し、習近平政権を睨んで「後手」戦略でいけばよい。

 民間企業にとっては、習近平政権下では、スパイ容疑での逮捕など極めてリスクが高いので、撤退が選択肢である。習近平独裁が短くても10年と想定すると、10年、10%以上のリスクプレミアムに耐えうる市場魅力度はない。当面は優遇策がない限り、市場は捨てるしかない。中国に生産の主力を置いたグローバルチェーンをもつ企業は、新たに再構築すべく、段階的な撤退を進めるしかない。様々な経済団体は、政経分離ではなく、事業は市民社会に依存するという価値観を明確にし、価値観のことなる企業への進出へのガイドラインを設け、中国政府と交渉して撤退しやすい環境を整備すべきである。

 わたし個人にとっては、やはり、中国の歴史を見直すことが重要であり、市井の日本人には理解できない行動の歴史背景を学び直す必要がある。戦前戦後と日本の中国研究者は、中国を過剰評価してきた。内藤湖南、宮﨑市定などの業績が大きい。特に、史記などの中国24書を統一的に解釈し、一国史として読む近代の方法は日本人の読み方であり、それにより中国史は形成された。戦前、中国のことは「宮﨑」に聞け、と言われたほどの標準的な漢民族中心の通史である。これに、NHKなどの「シルクロード」や歴史ドラマが中国の印象を形成してきた。しかし、実際は、漢民族の王朝はほとんどなく、周辺民族国家であることが明らかになっている(『皇帝たちの中国』など『岡田英弘著作集』所収)。

 中国は古代から巨大な世界帝国であり、近代化につまずき再び世界帝国へと飛躍しようとしているなどの印象はまったくの嘘である。

 中国共産党の創立に加わったメンバーの多くが日本の留学生であった、現代漢字のなかには多くの日本語漢字が含まれ、現代でも毎年多くの日本語が組み込まれ、創造は中国だが応用は日本というのが漢字の実体である。そして、日本と同じように、80年代以降生まれ(バブル後世代)やZ世代(21世紀生まれ)は、コンビニで買い物し、アニメをみて育ち、日本製ゲームで遊ぶ世代なので親日層が多いなどの事実も再認識されるべきである。

 長期的視座として、人々は自国の歴史を読み込んで、次の歴史を刻んでいく。中国が自国の歴史を学び、毛沢東が描いた中国史にもとづく「中国の夢」という「過剰な目標」を見直し、現実主義にもどることを期待したい。日本は、中国が隣人である以上共存共栄を追求することが宿命づけられる。しかし、その長期の目的のためには、自由と民主という価値観を否定する隣人とは対立するしかない。現在の中国が独裁政権と力による変更をめざす以上、犠牲を払っても日本は対応していくしかない。もはや、「曖昧」がベスト戦略である時代ではない。


主な参考文献

 このコンテンツで使用されている兵器などの軍事力は、主にイギリスなどのジェーン年鑑などにもとずき、著者が独自に推定したものである。特に、中国の兵器は量が多く、メンテされていないものも含まれ、実際は運用できない無力兵器も含まれる。海軍力には訓練された人員が必要で、急速に拡大し、陸戦中心の人民解放軍は75年の歴史しかなく、実際に現在の3艦隊に再編されたのは2019年で、近代化された艦で編成運用をはじめたのは、6年ほどしかなく、短期間で人員教育を含めて高い練度があり、運用能力があるとは推測しにくい。

 6年で中国初の空母の運用能力をあげることは、未経験なので困難である。演習をすると怪我人が続出し、国内的は英雄視されるが、海外の軍事専門家からみれば、練度が相当低いので演習ではでないはずの怪我人がでていると捉えられている。ここでは、こうした側面を捨象し、解放軍海軍の軍事力を過大に評価している面もある。

 一般に、中国は、人民を守る役割を果たしているとするバイアスをかける傾向があり、日本は、防衛予算を獲得するために弱めに過小評価する傾向があることに留意すべきである。

情況の戦略判断シリーズ - 連載構成