連載 情況の戦略判断シリーズ

中国メーカーの多様化戦略への対応―垂直差別化では勝てない

2025.03.24 代表取締役社長 松田久一




中国メーカーの多様化戦略への対応―垂直差別化では勝てない

 円安で製造業の国内回帰のための設備投資が伸びている。円高による空洞化からの転換である。特に、自動車やエレクトロニクス産業の回帰が期待されるが、製造を海外に移転すれば、人に蓄積される経験値が支配する製造技術は戻ってこない。日本の工業高校生の就職先のトップは美容師であることはよく知られている。工場を持つことより、人気美容師になるということだ。それはそうだろう、気持ちはわかる。

 製造が国内で始まり、工場があると品質競争が起こり、「新し物好き」が誕生し、形成されて、マニアックな市場が形成されていく。「ご意見番」が現れて、微差に拘る「蘊蓄」情報が拡散され、市場が形成されていく。やがて、製品が多様化し、大きく成長していく。オーディオ市場やAV市場などはそうであった。

 円安で国内生産でも利益が出せる環境になった現在、日本のメーカーは、再び、国内市場を支配できるだろうか。半導体、オーディオ、テレビなどで復活は可能か。

 結論は、可能だが、これまでとは、全く違う競争優位をつくっていかないと難しい。

 再参入条件は、前門のトラ、後門のオオカミ。トラはアメリカであって、オオカミは中国だ。軍事力では敵わない両国だが、両国のプラットフォームやメーカーに勝てる仕組みは作れる。成功の鍵は、「価値の多様性」による差別化である。ひとつひとつ紐解いていこう。

 まずは、現実の日本市場の競合状况を確認してみる。

 日本のテレビやオーディオなどのAV市場は、韓国メーカーと中国メーカーに席巻されている。「東芝」は中国メーカーが利用権をもつ製品が多々あり、テレビではパナソニックは撤退の可能性が話題になる。ソニーはかろうじて、「ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント」の映画会社イメージと独自の技術(ミニLEDなど)、そして、カメラ市場で、CCDイメージセンサ半導体の品質と量産優位でスマホに部品供給し、市場地位をなんとか確保できている、という情勢だ。

 日本のテレビ市場は、液晶は中国、有機ELパネルは韓国LGに独占支配され、さらに、中国メーカーに液晶も有機ELも移行しつつある。従って、テレビ市場は、テレビの本体であるパネルをつくらない日本メーカーしか存在しない。韓国や中国からの輸入パネルに日本用チューナーにつけて、画像エンジンなどのソフトウエアを付加して、自社ブランド名で販売しているに過ぎない。そのパネルメーカーも韓国から中国に移りつつある。オーディオでも、かっての「オーディオ御三家」(サンスイ、トリオ、パイオニア)は消滅し、DACアンプなどのデジタルオーディオ市場では「中華オーディオ」の独占場である。FIIOをはじめ、デジタルの高級オーディオは「中華ブランド」が支配する。

 1990年代、日本では、「ものづくり神話」のもとで、韓国メーカーのスマホ市場などへの参入に対し、韓国メーカーは「低価格」のローエンドを担い、日本は、「中高級」、ミドルとハイエンドをつくって、「垂直分業」でいけばいい、という議論が横行した。「でもしか」官庁のひとつである文部科学省などのロケット担当のキャリアは自信満々に豪語していた。これが単なる空理空論であったことはその後の市場が証明している。同じような垂直差別化による分業論はどの先進国でもある。国際貿易の議論にも、垂直と水平貿易という論が展開されている。理論では、「為替の影響を排除できる相対価格」で展開されるが、現実は「為替の影響を受ける絶対価格」が支配する。この違いが理解されていない。日本は、資本が有り余っているのに、固定設備の巨大な半導体、液晶パネルなどの産業は壊滅してしまった理由が説明できない。絶対価格で勝てないからだ。 1970年代、アメリカでは、日本が自動車市場に参入を始め、一定の成功を収めると、アメリカの経営層は、「小型車は日本にまかせればいい」、と言い、「デカい車」をつくり続けた。同じ垂直差別化の論理がつかれた。1990年代の日本も同じだった。そして、現在の韓国では、「低価格品は中国にまかせればいい」、といわれている。

 垂直差別化による「棲み分け」ではキャッチアップには勝てない。アメリカの自動車市場、日本のオーディオ市場がそうであり、現在、韓国のテレビ市場がそれを証明しようとしている。

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