1.
はじめに - 違和感を持つ人が多い現象
2025年の政局や総裁選報道を通じて、たびたび「高市早苗氏は自民党支持層内での支持率が他候補より低い」「自民支持層では小泉進次郎氏がトップ」といった世論調査結果が紹介されます。この数字に触れたとき、多くの読者や政治関心層が疑問を感じたことでしょう。「ネットや保守論壇では高市氏の熱心な支持が際立つのに、なぜ自民党本流の支持層で伸び悩むのか」という違和感は、きわめてもっともな感覚です。
このコンテンツでは、「なぜ自民支持層で高市氏支持が低いのか?」という疑問を構造的に紐解きます。話題となった産経・FNN世論調査のデータや現代の政党支持基盤の変化、そして支持層流動の可視化図表も踏まえ、"数字の裏"に潜むメカニズムを丁寧に解説します。それは、石破首相が自民支持層でなぜ低いのか、という疑問を解くことでもあります。
2.
世論調査の"自民支持層"とは何か
まず「自民支持層」とは、世論調査で「あなたが現在支持する政党は?」との問いに「自民党」と答えた人々です。この層は必ずしも"骨太な保守"ばかりでなく、現実志向・穏健派・伝統的自民支持者も多く含みます。一方で「高市早苗氏支持層」は保守色を色濃く持つ人や改革志向を強く持つ層が核となっています。
3.
高市氏の熱心な支持層に"自民離れ"が生じている理由
ここで、近年の日本の政党支持基盤の変動を見てみましょう。2024年~2025年にかけては参政党や国民民主党といった中堅・新興勢力が大きく台頭しました。その原動力のひとつが「既存の自民党保守層を支えてきた一部コアな有権者が、現政権の政策や党運営に失望し、支持政党を乗り換えた」ことです。
かつて高市氏を積極的に支えていた保守系有権者の一部が、内閣運営・外交・経済・防衛などで自民党に幻滅し、中道~やや保守寄りの他党や無党派に流れ続けています。この現象は支持率トレンドや参院選挙の出口調査でも明確に示されています。昨年度の衆院選の自民党支持率は32.9%でした。それが今年の参院選後の7月では、21.0%と約12%激減しています。支持率約40%を維持した安倍政権下と比べると22%減と半減です。
4.
図表が可視化する「高市支持層の分散」と"見かけ上の低下"
この分析を可視化したのが、次の図です:

出所:新聞各社の世論調査より筆者作成
この図表のポイントは以下です。
- 濃い青:自民党支持層に残る高市氏支持(18%)
- 中間ブルー:自民党支持層だが高市氏には否定的(52%)
- 淡いブルー:かつて自民党支持だったが今は他党・無党派に移行、それでも高市氏を支持(30%)
つまり、「高市支持」に一番熱心だった層が党を離れ、自民党以外で新たな受け皿(参政党・国民民主党など)を見つけつつも、個人としては高市氏を熱心に推し続けている。それが"自民党支持層で高市支持が低い"という「見かけ上の低下」を生んでいるのです。同時に、石破辞任に関する支持が低いのは、自民支持層が石破周辺支持層で半減し、さらに、その半分が「続投」を望む意見が大きく見えてしまうということでもあります。これらの検証は、データがあれば単純に検証することができますが、これまでの推理でも成り立ちます。
5.
数字の裏にある構造
この構造のもとで起きていることを整理すると──
- 自民党支持層という「測定枠」の外に、高市氏の熱心な支持が広がっている
- 統計上では、「自民党支持」と「高市氏支持」を重ねて分析すればするほど、母集団から熱心な支持層が流出した分だけ"重なり"が減る。
- 支持層の流出=自民党保守離れが、そのまま党内支持率の低下として現れる
- 党勢が安定していた時代は「自民党=高市支持」だったものの、構造が変化した今ではそう単純ではない状態。
- " 本当のコアファン"は党派より人物を支持、測定枠の再考が必要
- 本質的には高市氏の支持の「質と熱量」は変わっておらず、母集団の変化こそが数字を大きく変動させている。
6.
"外に滲み出た"支持
「自民支持層で高市氏支持が低い」と見えても、その裏では
- 高市氏の支持層が新しい支持政党(参政党など)や無党派層で力強く拡大、保守主義への熱視線が「自民党」という区切りを超えて再結集しつつある。
政治意識からは、保守の概念が変わりつつあります。現状の継続性や安定性を感情的に支持する保守思考が、新しい変化を志向しているという自己矛盾が生まれていることになります。政治社会意識のダイナミズムが進行中です。
この保守の再編現象は、世界中で生まれています。それはこれまで分析してきたように、21世紀に入って、明確になったグローバル資本主義への革新の「果実」に取り残された、あるいは、不遇にあった人々の意識が強まってきたということです。この変化を媒介しているのが、「第4の権力」であるマスメディアを監視するSNSなどのネットメディアです。
情況の戦略判断シリーズ - 連載構成
- 1.シリーズ展開にあたり 一寸先は闇での戦略判断 (2025.02.27)
- 2.減税政策は人気とりのバラマキ政策か (2025.02.27)
- 3.トランプを支えるネット世論 - 正体は「ルサンチマン」 (2025.02.27)
- 4.値上げ安堵に潜む日本ブランドの危機 (2025.03.10)
- 5.関税政策に日本企業はどう対応すべきか (2025.03.04)
- 6.なぜ、「外国人」社長が大手企業で多くなるのか - コーポレートガバナンスの罠 (2025.03.17)
- 7.中国メーカーの多様化戦略への対応 - 垂直差別化では勝てない(2025.03.24)
- 8.ポートフォリオ戦略からダイナミック・ポートフォリオ分析で統合経営へ (2025.04.21)
- 9-1.トランプ関税の正義、賢愚、そして帰結 - ポストグロ-バル経済と自由貿易体制(上編) (2025.04.21)
- 9-2.トランプ関税の正義、賢愚、そして帰結 - ポストグロ-バル経済と自由貿易体制(下編) (2025.05.23)
- 10.なぜ井上尚弥選手はダウンしたのか (2025.05.07)
- 11.トランプ関税を裏づける「購買による征服」の理論 - 安全保障の論理 (2025.05.09)
- 12.自分で火をつけ自ら消火して英雄に - トランプ関税の顛末 (2025.05.14)
- 13.寡占米市場の高い米価の行方 - 値下げ政策の賢愚 (2025.06.02)
- 14.もうひとつの日本 - 世界都市・東京と取り残された地域日本 (2025.06.23)
- 15.米価格の歪さ、都議選自民大敗北させた第2世論、そして、世界を不確実性に引き込むトリックスター大統領の性格 (2025.07.02)
- 16.トランプ関税25%は十分乗り切れるが、とばっちりの農業には手厚い支援を(2025.07.09)
- 18.参議院選挙で登場した「第3の世論」―自民大敗北を底上げした世論の正体(2025.07.23)
- 19.なぜ自民支持層で高市氏支持が低く、首相続投が相半ばするのか - 「見落としがちな理由」(2025.08.05)