連載 情況の戦略判断シリーズ

内閣支持率急上昇と「辞任しなくてよい」という「世論」は本当か?

2025.08.27 代表取締役社長 松田久一

 本稿は「内閣支持率急上昇」と「石破首相は辞任不要」という結果が、調査手法や質問設計に起因することを論証する。参院選から1ヶ月、この変化は、実際の政治的変化ではなく、政治変化と捉えるのは、統計的バイアスによる「疑似分析」である。参院選で本当に現れた構造変動は続いており、1955年体制で成立した保革対立は「保革連合」になり、この政治勢力と対立するのは、ここ数年で誕生した、新しい保守と呼べる「組換え保守」との対立に移行している。保革対立から「55年既得勢力」対「脱戦後勢力」の対立図式である。

 前者(保革連合)は自民党左派、公明、維新、立憲などで、団塊世代を基盤にマスメディアと結びつく。後者(組換え保守)は自民右派、右派系国民民主、参政党などで、バブル世代〜Z世代の若年層が中心、SNSを基盤とし、減税や自立志向で結びつく。

 既得権益で結ばれた「保革連合」と、政治イシューで流動的に結びつく「ネットワーク型保守」が対抗するという、新たな2025年体制が形成されている。世論調査の背景の統計的真実性を見極めれば、参議院選の結果に徴候的にあらわれた政治構造の変動が見えてくる。まずは、「疑似変化」を見抜くことにしよう。

二分される世論調査の評価

 8月に入って、メディア各社の直近の内閣支持率が報道されている。NHK、朝日新聞、読売新聞、サンケイ新聞とひと通り報道された。共通しているのは、内閣支持率の上昇、そして、「石破辞任」に対する否定的な意見が多いことである。

 この結果について、新聞・テレビ系マスコミ世論とSNS、動画サイトなどのネット世論は、評価が「まっ二つ」に分かれている。世論をマスコミ世論とネット世論の二元論の対抗関係として捉える方法論をとっている立場からは、久々の対立項となっている。

 マスコミ世論は、「石破支持が急上昇している」と評価し、対抗世論としてのネット世論は「マスコミ偏向報道」論で感情的な反発とともに、批判的である。「自民、公明、立民大敗」の参院選の結果と大きく異なるからだ。世論からみれば、ネット世論がマスコミ世論に勝利したのが参院選だ。さらに、この結果を機に、マスコミ報道は、「石破続投」に傾斜しつつある。

 ここでは、長年、消費者調査を企画立案管理している立場からこの結果をコメントしたい。双方に欠如しているのは、世論調査という手法についての理解である。内閣支持率は急上昇しているのか、「石破は辞任しなくてよい」が過半数を占めるのか、総じて、世論調査は信頼できるのか、ということである。


報道は調査結果の一面 - 支持率低迷、辞めるべき、はもうひとつの真実

 結論から言えば、各メディアの調査結果は、調査時期、そして、設問特性を抜きにして評価、解釈できないことだ。調査環境や特性の説明を加えずに、「ストレートに、手を加えず、客観的に」報道すると、間違った帰結を引き出すことになる。

 8月に入ってからの世論調査の結果が「意外」という印象を持つ人が特に、ネット民に多いのは、参議院選の結果と違うからだ。例えば、参院選の自民党の得票率は22.1%である。しかし、NHKの最新の6月の世論調査では、29.4%と「推定」(サンプリング調査は全数調査ではないので「推定」する)される。選挙結果との差は、7.3%である。約438万人の差がある。「意外」の一端はこれで例示される。

 この約7%の差は、どのように生じるのか。全数の比率を推定するのに、7%の差があり、約500万人(日本保守党獲得票分相当)の差が生まれるのであれば、「続投すべき」49%と「続投すべきでない」40%の意味は変わってくる。それぞれの選択肢が下振れ、上振れすれば、続投すべきは42%、「続投すべきでない」は47%となり、結果は逆転する。実際、サンプルの歪みを補正すれば、逆転する。

 NHKの調査手法は、極めて標準的である。NHK報道は不祥事から信頼感が失われているが、調査に関しては、朝日新聞などと並び定評がある。この機関の調査でさえ、調査結果が揺らぐので、他社の結果は推して計るべしである。もっとブレていることが疑われる。

 ここでは、現在の調査環境で、調査結果は、二重三重にも、配慮しなければ、ストレートな数字は使いにくくなっていることを説明し、内閣支持率の上昇と「辞任しなくてよい」をどう評価すべきかを詳らかにしたい。


図表1. 2025年参議院選挙結果



サンプル(回収層)の歪み - 10-20代が薄く、70代が厚くなる

 選挙は、全数調査であり、悉皆調査である。統計モデルを前提にした推定は必要ない。しかし、世論調査は、サンプリング理論にもとづくサンプル調査である。

 サンプリング調査は、全数を調査しなくても、全数(母集団)の比率などを一定のサンプリング誤差で推定できるという統計理論にもとづいている。このような「フィッシャー統計」は、品質管理などの比率や平均などの統計量を扱うすべての研究と分析の前提となっている。

 8月のマスコミ各社の世論調査が出揃った。その結果は、図表3の通りである。各社のサンプル数、サンプリングを含む調査手法は表のとおりである。

 各社のサンプリング手法についてはあまり公表されていない。ここでは、もっとも理論に忠実なNHKをもとに検討してみる。

 サンプリングとは、母集団を定義し、母集団から「等確率」(「無作為」)でサンプルを抽出する方法である。この手続きを踏んで、初めて賛成率などの統計量を推定できる。

 NHKでは、推定に必要な1,000サンプル以上を設定し、回収するために、調査協力依頼層(調査アタック数)を設定する。最低回収率を約50%と想定し、2,739サンプルにアタック(協力依頼と実施)している。

 その2,739サンプルを抽出するために、住民基本台帳の許可を得るのが個人情報保護法によって難しくなっている(実質不可)ので、「RDD(Random Digit Dialing)」によって、電話番号の下4ケタを乱数で発生させ、無作為抽出の電話番号を発生させて調査をしている。この方式で、サンプルの無作為性(Random)を保証している。そして、コンピューター音声によって質問し、回答を得ている。この手法が普及しているのは、調査員が不必要になるからであり、調査実施コストの大幅な削減につながることが大きい。調査員による面接調査に比べて、調査コストは十分の一、実査期間も十分の一以下になった。

 この手法は、番号の下四ケタの乱数発生によって、電話帳などの名簿も必要がなく、地点抽出をしなくても、母集団から等確率抽出をすることになっている。しかし、検証は難しく、固定電話をもたない人が増え、さらに、不明電話からの発信に応答する層も少なくなっていることから、サンプルの歪みが生じやすくなる。

 実際、10-20代、30代は、極めて回収が困難であり、追加サンプルを数回補充しないと予定目標数を得られない。他方で、60代、70代~は、就労比率も低く、固定電話所有率が高いので、回収しやすい。従って、サンプルに歪みが生じる。

 試しに、NHK世論調査と朝日新聞の世論調査の年齢人口比率と回収サンプルの関連性をみてみると、「帰無仮説」(関連がない)が99%以上の信頼水準で採択される。つまり、母集団とサンプルとは関連がなく、母集団の代表性をもっていない。

 朝日新聞の世論調査では、χ2値が、1317.49(自由度11)となり、P値は、758×10(-278)となった。つまり、回収層と人口構成比が「一致している」という「帰無仮説」は起こる確率が極めて低く、起こりえない確率であり、棄却され、調査の回収層は母集団の人口構成比と大きく異なっていることが明らかになる。

 具体的には、70代が非常に多くなっている。

 世代では、後期高齢者の「団塊の世代」の多く、その意見を反映することになる。言うまでもなく、団塊の世代とは、鳩山や菅直人などの年代であり、戦後に生まれた世代であり、戦争帰りの家父長的な父親と母親に育てられ、反抗心が強く、アメリカのGHQの指導を受けた学校教育を受けた最初の世代である。70年代には学生運動、社会人になって「モーレツ社員」になった世代である。常に、人口が多いことで、ライフステージが変更するごとに、社会の注目をあびてきた世代である(『「嫌消費」世代の研究』)。

「辞任」という言葉の強さ

 「意外」な印象を持つもうひとつの理由は、メディア各社が異なる質問と選択肢をしているからである。辞任について、各社がどのような質問をしているかは、図表3のとおりである。その結果、内閣支持率では、質問に大きな違いがなく、35%前後であるのに、「辞任」に関しては、大きな違いが出る(図表2)。

・「辞任すべき」

読売新聞  42.0%
朝日新聞  36.0

・「辞任すべきでない」

毎日新聞  43.0
共同通信  57.5


図表2. メディア各社の「辞めるべき」と辞めるべきでない」


 各社で大きく異なり、特に、「辞任すべきでない」がもっとも高いのは共同通信で57.5%に対して、毎日新聞は、43.0%であり、約16%の差がある。これでは、同じ社会の調査とは言えない。共同通信がもっともストレートに、「辞任すべき」、「辞任は必要ない」というように、辞任をストレートに、辞任すべきでない、に「必要」を挿入して、二義的(曖昧に)して、選びやすくしている。

 主な質問の仕方は以下のとおりである。

NHK

続投すべきでない
続投すべき
わからない

朝日新聞

辞任する必要がある
辞任する必要はない
その他

 因みに、もっとも石破首相に批判的な産経新聞は、選択肢は、「はい」「いいえ」とニュートラルであるが、「石破首相は辞任する必要があると思いますか」と聞き、質問文のなかに「辞任」を入れて、辞任を選択しにくくしている。

はい
いいえ
わからない

 基本的な考え方として、質問紙調査のプロとしては、「辞任」という言葉はつかいたくない、さらに、「辞任する必要」という言葉もつかいたくない。「辞任」という言葉をふだん使わないからである。

 辞任という言葉を第三者に使うのは、例え「石破は辞めるべき」だと思っていても、「辞任」は選択しにくい。少々、違和感がある。

 さらに、「辞任する必要」となると、「辞任」と「必要」のふたつの言葉があり、内容が二義的になり、解釈が難しい。個人的には「辞任」すべきだと思うが、他人のことはわからないので、「必要」はないと思う余地が十分にある。従って、「辞任の必要」が低く出る。

 「意外」な結果は、この質問と選択肢の選択にあることは言うまでもない。総じて、意図してか、意図せざるかは別にして、「辞任」を選択しにくい質問と選択肢になっている。


間違った世論誘導の帰結

 NHKを先頭に、8月の世論調査は、参院選の結果とは大きく異なるものとなった。民意をより反映しているのは、全数調査である選挙であることは言うまでもない。

 この差をもたらしたのは、選挙後の1ヶ月で、政治意識に変化が生じたからではない。調査手法によるサンプルの歪み、質問と選択肢によって、おおよそが説明できる。

 つまり、世論調査は、調査手法の結果として、昼間に電話に出やすい高齢層、特に、70代のサンプルが多くなり、本来なら再調査すべき結果である。あるいは、サンプル補正して補足、公表すべきものであった。

 加えて、メディアの報道ではふつうの「辞任」という言葉が、日常会話ではほとんど利用されず、質問や選択肢に採用すると、選択しにくくなった。従って、「辞任」を求める声は、過小評価され、「辞任すべきでない」という消極的選択が多数派を占めるという結果になり、そのまま報道されてしまった。


図表3. メディア各社の世論調査比較



統計的真実性

 これが、世論調査の違和感の顛末である。

 調査について付け加えるならば、8月という時期、10-20代が帰省や旅行で不在や多忙の日々が続くという時期の影響もあるかもしれない。参院選は、最近の若者の政治参加意欲の高まりで、投票率が高くなった。新しい政党が多くの票を獲得した背景である。世論調査は、若者が引いた結果である。

 参院選の結果と世論調査の乖離を、人々の1ヶ月の意識の変化とみる向きもあるが、これは間違った調査結果の解釈である。恐らく、参院選の政治意識の構造は変わっていない。

 統計的真実性とは、調査結果をストレートに、手を加えないことではない。サンプリング理論をもとに特定の分布を想定して推定し、確からしさを含めて、「母数」(真実の値)に近づくことである。つまり、調査のやりなおしか、サンプル補正による公表が真実性に近づくことであった。この努力をしなかった結果、間違った解釈と誤認の余地を生んだ。統計的真実性とは、幾つものバイアスをくぐり抜け到達するものである。今回の世論調査は、何も手を加えなかったことが政治的バイアスになり、石破首相と内閣を政治的に擁護するものとなったことを理解すべきだ。他方で、このような間違った解釈を残し、政治的メッセージの入る余地が入ることになり、調査の数字は、意図的に操作可能なもののように思われる印象を与えたことは残念である。若干の数字の操作の可能性は、質問のとり方で生まれるが、各社の結果を比較し、調査手法を検討すれば、意図通りの結果を出せるようなものではない。数字が動かせない。

 今回のメディアの世論調査の報道は、調査の専門家には十分わかっていた事態であり、政治記者が誤った解釈をしていることに気づいたはずである。それを等閑視した。この責任は無視できるものではない。

情況の戦略判断シリーズ - 連載構成