眼のつけどころ

次の時代のマーケティング戦略を考える
(1)GAFA、増税、キャッシュレスなどへの対応

2019.04 代表 松田久一

 印刷用PDF(有料会員サービス)

 マーケティングソリューションのアイデアを、近視眼的な見方に陥らず、遠望する眼差しで、徒然なるままに書き連ねてみる。みなさんのヒントになれば、嬉しい。

01

ネット時代のブランドはどう変わる

 ブランドとは、消費者の選択の手がかりであり、製品の品質などのリアル差によって裏付けられたものである。広く認知拡大し、マス宣伝を通じて、印象づけることがブランディングであり、営業は小売チャネルの店頭配荷率を最大化することである。これが20世紀のマスメディア時代のマーケティングの基本である。

 ネットとリアルのマスメディアが融合する時代、どうもこのブランディング手法は時代遅れになっているようだ。

 ネット世界の王者である、グーグルアマゾンアップル、フェイスブック(インスタグラム)、ネットフリックス、アリババなどを想定すると、日本を代表するトヨタソニーとまったく違うブランド、つまり消費者選択の構造であることは自明である。前者では、消費者は商品やコンテンツを提供している市場プラットフォームを選んでいる。後者は、物的な製品ブランドの品質を保証してくれる提供者の選択である。

 結果として、前者では市場プラットフォームを提供している企業名がブランド名となる。後者は、企業名よりもレクサスなどのブランド名が優先される。さらに、前者は、サービスの提供品質を保証することがブランドの基礎となるが、後者は製品の属性や機能に対する保証となる。

 日本には、多くの世界に通用する物的ブランドはあるが、生活の幅をカバーできる製品、情報、コンテンツを提供する市場プラットフォームブランドはない。トヨタもソニーも、製品ブランドを持つ企業は、市場プラットフォームブランドに革新すべきではないだろうか?

02

消費増税下の価格戦略

 景気後退が懸念される中で、値上げが相次いでいる。さらに、10月には2%の増税が加わる。約300兆円の個人消費は、需要の価格弾力性を「1」とすれば、1%の値上げ分と2%の増税分をあわせて約3%の需要減少となることが概算される。GDPの成長率に換算すれば、約1.8%のマイナス寄与となる。

 企業からみても、売上減少に跳ね返ってくることは確実である。需要減少なしに値上げや増税を乗り切る方法は、ひとつしかない。それは、品質を上げることである。需要減少をカバーできるだけの需要増加につながる品質アップだ。具体的には、提供価値への「支払い意志価格」による顧客のセグメントと、価格差別化戦略の導入である。この当たり前のことを、是非検討して欲しい。

03

地べた営業が市場プラットフォーム競争の成功の鍵

 キャッシュレス決済のサービスは、市場プラットフォーム間が争うマルチホーミング競争の様相を呈している。どんな競争になるのだろう。

 この競争の展望を知るためにはふたつをみればいい。

 ひとつは、勝者はひとつの市場プラットフォームに収斂すると言うことだ。消費者は、大勢が使っている市場プラットフォームがより便利になるので、勝ち馬に乗ろうとする。これは、経済学的には「直接的ネットワーク外部性」と呼ばれる。チャットあるいはネット通信で勝者となった「LINE」がその典型だ。

 ふたつ目は、「間接的ネットワーク外部性」を持つプラットフォ-ムが成功するということだ。「間接的ネットワーク外部性」とは、プラットフォームの売り手と買い手のような参加者間のプラスの相互作用のことだ。つまり、売り手が増えれば買い手が増えるという関係のことである。最終の勝者は、この「間接的ネットワーク外部性」を強く持つプラットフォーマーになる。この典型が「メルカリ」である。出品する売り手が増えれば、買い手が増えるという相互作用を強く持っている。

 この観点から、日本の典型的な市場プラットフォームであり、プラットフォーマーである「LINE」と「メルカリ」を比較すると面白い(弊社の調査結果)。

  •  
    • LINE
    • メルカリ
  • 直接的ネットワーク外部性
    • 強い
    • 弱い
  • 間接的ネットワーク外部性
    • 弱い
    • 強い

 つまり、LINEは現在の勝者であるが、間接的な外部性が弱いので最終的な勝者にはなれないかもしれない。メルカリは、直接的なネットワーク外部性が弱いので、ユーザーが広がらず、限定された参加者間の相互作用にとどまっているということになる。

 さて、この原則から、話題となっているキャッシュレス決済のサービスの市場プラットフォーム競争の成功の鍵を抽出すると、ふたつある。

 早期に利用者数を増やし、直接的ネットワーク外部性を利用すること。そして、利用者間の相互作用を働かせるために、有力な売り手を説得し、開拓することである。これは、昔懐かしい営業用語を使えば、「地べた営業」となる。

 アメリカのタクシー配車のプラットフォーマーの優良ドライバーの人的開拓はよく知られている。動画配信のYouTubeが勝者になったのも、視聴者を増やすために、良質コンテンツの供給者をYouTuberとして開拓したことだ。泥臭く言えば、地べた営業が市場プラットフォームビジネスの成功の鍵となる。

>> 次へ(2. ネットが変えるプロモーション、流通チャネル政策)