眼のつけどころ

次の時代のマーケティング戦略を考える
(2)ネットが変えるプロモーション、流通チャネル政策

2019.05 代表 松田久一


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メディアの相互作用を利用した顧客説得のプロモーションづくり

 これまで、テレビCMの投入を中核としてきたプロモーションは大きく変わっている。マスメディアの役割を果たしてきた新聞やテレビが、もはや「大量宣伝」の機能を果たせなくなってきたからだ。消費者の情報選択行動と情報技術革新の結果だ。特に、スマホなどの携帯端末の普及は決定的だった。

 売手にとって、このような情報伝達手段の変化は、どんなプロモーション政策の変更に繋がるのだろうか。

 それは、プロモーションの鍵が、テレビへ大量広告の投入することから、メディアの相互作用の利用に移ったことだ。商品サービスの品質情報を伝えるメディアを、信頼性と1日当たりの接点数で簡単に比較してみる。

  • 口コミ     高信頼  10万人ほど(1日の拡散人数 弊社調査結果より)
  • 店頭      中信頼  438万人ほど(有力チェーンの1日1品目当り来店客数)
  • マスメディア  中信頼  500万世帯ほど(1番組の10%視聴率)
  • SNSなど   低信頼   600万人ほど(SNSの有力フォロワー数)

 このように比較すると、もはやテレビや新聞などが1日で1,000万人以上に到達できる「大衆的」な伝達メディアではないことが確認できる。せいぜい1日500万人程度にしか到達できないメディアにクラスター化したといえる。 

 この現実を踏まえると、ネット時代のプロモーションとは異なる信頼性と異なるメディアを活用し、相互作用をうまく利用して、多くの人々と接点を持ち、売りを完結させる仕組みをつくらねばならないことになる。

 この動きは、テレビCMのタレント起用に端的に現れている。最近、CMに起用されるタレントが変わってきている。ネットで炎上してもSNSなどのフォロワー数の多いキャラクターに変わってきている。

 理由は、500万世帯にしか届かないテレビCMでも、500万のフォロワーを持つタレントを起用すればもう500万人への露出が保証されるからだ。この露出の上で、店頭をおさえ、口コミで商品やブランドの信頼性を醸成すれば、売れる状態がつくれる。つまり、口コミ、店頭、マスメディア、SNSなどのネットメディアの相互作用を活用することが、現代の売れる仕組みだ。

 従って、「目立てばいい」、「面白ければいい」というテレビCM偏重のプロモーションは終わった。新聞広告でヒットした最後の商品が、1980年代の「スーパードライ」だと言われる。恐らく、テレビCMで売れた最後の商品が、平成時代の携帯とスマホになるのではないか。メディア間、接点間の相互作用を活用した戦略プロモーションへの転換をすすめてはどうだろう。

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勝ち馬探しよりも先読み流通チャネル政策づくりが大切

 メーカーや製造業の販売チャネル政策が近視眼的になっている。大手個別流通企業やネット対応に追われ、中長期的な流通チャネル政策が見えてこない。

 1920年代のアメリカで、マーケティングは生まれた。製造業の大量生産が可能になり、製品の販路開拓のためである。つまり、マーケティング政策の基本は販路開拓であり、流通チャネル政策である。どうもそれがなくなって、現状追認に陥っているようだ。 

 流通チャネル政策とは、製造業が最終消費者に物やサービスを届けるための経路を設計し、外部の卸や小売業などと機能分担して、ネットワークを形成することである。従って、需要の地理的分布を明確にし、製品を消費者のライフスタイルに編集して提供する業種や業態を選択する必要がある。そして、それに繋がる卸などの仲介業とネットワークを組み、販売を実現するサポート機能を明確にすることが流通チャネル政策である。

 1970年代、日本の伝統的なメーカーなら商店街に立地する製造起点の業種小売業をベースに系列化をしている。その上で、自社の販売会社に問屋機能を持たせ、営業マンをリテールサポートに対応させて、系列小売との関係を維持していた。化粧品業界、家電業界、DPE業界なども同質的な流通システムを持っていた。

 この伝統的な流通システムが、消費者と提供技術の進化によって、構造変化していった。流通は、生産と消費を媒介する機能である。つまり、生産と消費が変われば大変動する。時代適応業である。

 さて、メーカーのこの自社系列システムは、1970年代の総合量販店の躍進、1980年代のコンビニエンスストアの登場、1990年代のディスカウンターなどの低価格チャネルの台頭、そして、2000年代には、ECなどのネットチャネルの広がり、そして、2010年代には、ドラッグストアの成長や様々な宅配サービスの参入によって、生産と消費を結ぶ経路は、多様化し、高度化している。

 この変化を、筋道立てて構造的に理解し、流通の未来を予測しなければならない。そうでなければ、近視眼的対応に振り回されるだけだ。

 やるべき事は、自社の企業理念を実現できる流通システムを描くことである。これは、業界や企業のチャネル基盤によって異なる。未来予測の上で、流通チャネルシステムに再構築するならば、アドバイスしたいことがいくつかある。

 流通チャネル政策が必要なのは、「ヒト、物、金」。すなわち、自社の予算、営業マンなどの人材、全国の拠点資産を再配分するためである。再配分の目的は、経営資源を効率的に運用し、自己資本利益率(ROE)などの経営指標を改善するためだ。

 概括してアドバイスしたいのは、リテールサポートを越える多元対応による東京集中と地方の寡占企業と異業種異業態対応による顧客接点の最大化であり、「選別流通システム」による小売間の低価格競争の回避と収益化である。

 市場をセグメントする軸の優先順位は、東京などの首都圏と地方地域の地理軸、成長する小売の業態などのセグメント、そして消費者への付加価値提供機能によるセグメントである。

 この三つの軸から、大雑把にまとめると次のような六つのセグメントになる。

  1. 首都圏 伸びる業種小売  地域有力専門店
  2. 首都圏 伸びる業態小売  地域有力食品スーパー、コンビニ、ドラッグ
  3. 首都圏 伸びる高度機能  ECチャネル、宅配サービス、買い物代行サービス
  4. 地方圏 寡占化する組織  地域寡占企業
  5. 地方圏 伸びる業種業態  ドラッグストア、潜在異業態
  6. 地方圏 伸びる高度機能  ECチャネル

 手順的には、それぞれのセグメントに成長性などの魅力度を評価し、セグメント内シェアなどの自社のポジションを確認して、ポートフォリオを組み、標準的な戦略を明らかにすればよい。

 問題は、自社の商品サービスを提供する価値を、どう伝達するかである。その答えは、小売の垂直統合による確実な価値伝達システムの選択にある。それは、アップルが証明している。また、自社でEC市場に参入し、自社の製品サービス範囲を超える「市場プラットフォーム」を提供するという選択もある。流通が流動化し、小売間のコンフリクトが増大するなかで、自社チャネルの自他判断は大きな戦略的判断だ。

 この判断の上で、収益セグメントを明確にし、成長セグメントへの投資を拡大し、自社基盤の弱い成長セグメントを見極めることが大事だ。なかでも、小売対応を前提とした伝統的なメーカーのリテールサポートは、もはや収益源とはならない。むしろ、増客をサポートする地域ごとの「戦略的プロモーション」機能が評価される。そして、成長する宅配や買い物代行サービスなどの組織の開拓、外食などの企業部門との連動、機能開発への投資が必要となるだろう。

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