第12回 ネクスト戦略ワークショップ
「消費行動のネット情報依存への転回と情報的マーケティング」講演録

情報的マーケティングへの革新

2019.02 代表 松田久一

01

消費行動に大きな影響を及ぼすネット情報

 マーケティングを考える時、重要なのはその組み立て方です。現代では、データよりも読解力、生活感覚を解釈することが重要です。その際に考え方のフレームとなるのが、「情報的マーケティング(informative marketing)」です。

 我々の今回の調査によると、現代人の消費行動には、あらゆる場面でインターネット上の情報が影響しています。人々は全面的にそれを信用しているわけではありませんが、何をするにもまずはネットからというのが現代人の特徴です。

 これまでは、人間の欲望は実際の店舗などで商品に触れたときに生まれると思われてきました。しかし現代では、ネットの中で欲望が生まれています。これは普及率がここ数年で急激に上がったスマートフォンが大きな要因です。スマホは便利ですが、一方で自分の行動が監視されているということもいうことができます。人々から集めたデータでAGFA(AmazonGoogle、Facebook、Apple)は、大きな利益を上げています(参照「眼のつけどころ 世界情報寡占企業からデータ提供代が貰える日」)。利用者から収集した膨大なデータは、それほど価値のあるものなのです。

02

今の時代を定義する

 調査データから今の時代をひと言で表すと、「ストイックの時代」と定義できると思います。やりがいを求め、ストイックに自己規律し、他人に優しく自分に厳しい。そういった自己規律の意識が、強くなっています。大リーグで活躍する大谷翔平さん、ラグビーの姫野和樹さん、水泳の池江璃花子さんなどに象徴されます。

 また、価値観は多様化しているといわれますが、規律互助という意識が幅広い世代でメインの価値観になっています。規律を守りながらあたたかな家庭や社会を求め、夢や理想を追求していきたい。そういった思いを、大半の人が持っています。

 価値観の多様化ということは、必ずしも言えないようです。マズローの5段階欲望では、人間の欲望は下から上がっていって、逆戻りしないといわれてきました。しかし、エンゲル係数が近年、上昇傾向となっています。これは、収入が下がったからエンゲル係数が上がったわけではありません。人々が食に求めるものは高度なものであって、生きがいや達成感といったものに結びついているということがいえると思います。

 今回の調査結果から、人々は求めて求め得ない、生きがいを求めているといえます。この図に示したように、八つの欲望をぐるぐる周りながら、やりがいや生きがいを実現しようとしています。欲望を定義すると、「何か足りない」という欠乏意識です。欠乏意識があって、初めて「何か買おう」という気持ちが生まれます(図表1)。

図表1.生き甲斐・やり甲斐社会 ― 円環的欲望
図表

03

マズローの欲望の定義はあてはまらない

 例えばビールを考えてみると、各メーカーがCMで「おいしさ」を訴求しています。ビールは、会社や組織に所属したいという帰属欲求。1日が終わったと実感する達成欲求。そして、ビールを飲むことが、かっこいいとという自尊欲求。適度に酔いたいという秩序欲求。いろいろなビールを体験したいという知性欲求。これらの五つの欲求があるということがわかりました。

 これまでビールは、価格が安いため、みんなで飲めて、ほっと一息つけて、のどごしがいいから選ばれている。帰属欲望を中心にして、ビールの欲望は形成されているといわれてきました。

 しかし、今回の調査結果をみると、例えば「おいしさ」を訴求すると、食事に合うとか、ビールを飲んでいる人はかっこいいという自尊欲望などと結びついているのではないかと考えられます。さらにクラフトビールでは、こんなビールやあんなビールも知っているという知性欲望を満たしているのではないでしょうか。そう考えると、属性訴求よりも、価値訴求が商品開発にとって重要だといえます。