眼のつけどころ

世界情報寡占企業からデータ提供代が貰える日
―「グーグル後の生活」と等価交換

2018.10 代表 松田久一

01

はじめに―等価交換の原理

 私たちは、日常的にグーグルなどの検索サービスを無料で利用している。事業者が無料でサービスを提供し、その対価は無料(フリーミアム)だ。無料で便利だと思っている。しかし、他方で、検索サービス提供者は我々の検索データや行動履歴を無料で利用し、主に企業向けの広告サービスを有料で提供し、差益を得て、巨大な収益をあげ、株式時価総額は約100兆円を越える。これは、冷静に考えれば等価交換ではない。

 このビジネスモデルは、市場プラットフォームモデルである。そして、「ネットワーク外部性」を利用した独占性の高いものであり、利用者の履歴情報を自社の利益に結びつけている。それにも関わらず無料で利用している点で、市場経済における「公正取引」と「等価原理」に反している。

 欧州委員会は、グーグルに50億ドルもの制裁金を課している。また、個人データの収集問題に関して、アメリカ司法省も、欧州委員会と同様に、ビッグデータは他社を競争から排除するための「巨大な資産」だとみなすようである。ビッグデータを資産とみなすと、企業合併の審査に影響を与えるとともに、ビッグデータの売却による市場化を促すことになる。

 つまり、これまでのように、個人情報保護法に抵触しない、個人が特定できないデータでも、それが資産とみなされ、課税対象となり、自社固有の資源として自由に利用することができなくなる。むしろ、収益に見合ったデータ使用料を利用者に支払わなければならなくなる。後述するAGFA(Apple, Google, Facebook, Amazon)などの収益をビッグデータに依存する巨大IT企業は、戦略転換を余儀なくされる。

 同時に、リアルな製造業や小売業も、「データ時代」のスローガンに惑わされずに、少し冷静に、ネット戦略を見直す時期に来た。

02

踊らされたことへの反省

『Life After Google』
(George Gilder 2018年)
書影

 このように欧米の規制当局が、巨大IT企業、すなわち世界情報寡占企業に規制を強化し、消費者厚生を高めようとしているだけでなく、情報寡占企業が新しい情報技術革新によって崩壊するという「預言書」が現れた。

 2018年に出版されたジョージ・ギルダー(George Gilder)の「グーグル後の生活(Life After Google)」だ。その一端と、弊社が毎年発刊している「消費社会白書2019」の最新分析結果も含めて紹介しよう。

 読んでみて、ベイズテクノロジーだ、クラウドコンピューティングだ、ビッグデータだ、AIだ、と一面だけを強調していた自分が恥ずかしく赤面した。著者のギルダーは、2000年にテレビの時代が終わることを予見し、「テレコズム」(通信ネットワーク)の時代がやってくることを未来予測した。人は彼を「予言者」と呼ぶ。

03

世界情報寡占企業による個人支配

 今年の消費社会白書の特筆すべきひとつの結果は、生活者はネット情報なしでは暮らしていけなくなっている、ということだ。商品やブランド、店舗の選択や旅行など消費行動だけでなく、あらゆる生活行動にネット情報が利用されている。ネット情報のない生活はなくなった。このことが引き起こす大変動は、「この世(リアル世界)」と「あの世(ネット世界)」の区別なく、後者に現実が包摂されるようなものだ。

 20世紀は、マスメディアが支配した。それでも、もっとも原始的な情報伝達である「口コミ(WOW)」には勝てなかった。しかし、ネット情報は、利用度や信頼度で口コミを凌駕している。つまり、現代人は、家族、友人や知人の話よりも「ネット情報」を信頼している(「消費社会白書2019」)。

 この大変動の第1段階を支配したのが、4~6社ほどの巨大IT企業だ。17世紀頃に誕生した資本主義は、金融資本主義、領土帝国主義へと段階的に発展し、21世紀は、情報資本主義の時代に向かった。それがグローバル数社による「世界情報寡占」だ。

 「GAFA(ガーファ)」あるいは「AGFA(アグファ)」と呼ばれる4社である。グーグル(G)、アマゾン(A)、インスタグラムを傘下に治めるフェイスブック(F)とアップル(A)の略称である。この4社の売上の合計が約60兆円。株式時価総額を合計すると約348兆円となる。株価の成長率は10年で約10倍である。世界の株価上昇総額シェアでも過半を占める。世界のリスクマネーがこれらの企業に集中している。これに、動画配信大手のネットフリックス(Netflix)を加えて「FANG」という言い方もある。さらに、「マイクロソフト」、そして中国の「アリババ」を加えると、「世界情報7社寡占体制」となる。

AGFA4社の業績と株式時価総額
図表

04

寡占企業の支配拡大メカニズム

 これらの企業のビジネスモデルは、私たちがネットで検索したり、購入したりした行動履歴がビッグデータとして、巨大なデータセンターに蓄積され、AI(人工知能)を利用して、関連推奨によって利用者の閲覧や「ぽちり」(購入)が増えて、広告収入が増えるという仕組みだ。この世界を覆うのは巨大な雲(クラウド)のようだ。従って、クラウドコンピューティング時代と言われる。ギルダーは、グーグルを分析してその強みをこのように集約している。

 巨大データセンター、ビッグデータ、AI、ネット利用拡大、広告など収入拡大、そして、データセンターや関連ソフトウェアへの投資である。この一連の強みの連鎖の鍵は、グーグルが消費者の行動履歴を無料で利用できることにある。他方で、消費者も検索サービスを無料で利用できる。しかし、グーグルが高い収益性を得ているのは、グーグルが無料で得ている履歴情報の価値が、消費者が無料で得ている価値よりも大きいからである。

05

知らぬ間に機械によって情報管理

 こんな経験はないだろうか?弊社の調査によれば、約30%の人が経験したことだ。

 個人的な体験を話してみる。

 ここ数年、スマホに、無料ニュースアプリや無料動画アプリをインストールし、ニュースをみていた。これらのニュースアプリを使用していて、最近、「IQ」の話題が多い、と感じ、会社の雑談で話した。すると、誰ひとりとして頷く者はいなかった!?

 そこではじめて気づいた。そのアプリが、私の行動履歴を分析して、ビッグデータの関連性分析や機械学習によって、私の興味のありそうなテーマのニュースを提供してきているのだ、と!?ニュースアプリでもっとも人気のあるキュレーションアプリも私の好みに合わせている。

 ニュースアプリ提供者から推察すると、恐らく中国のアリババの巨大データセンターにデータを蓄積し、関連性分析や閲覧行動に繋がるニュースの要素を変数化し、ニュースの閲覧率が上がる因子を分析し、より高まるように因子を入れ替えて学習させ、閲覧率を規定する因子と関連性の高いニュースやソースをリスティングしていたのだ。そうすれば、ニュースアプリの利用率は上がり、広告収入が増える。

 「あー、情報管理されていた!!」という体験である。しかも、機械学習という数学的アルゴリズムに「洗脳」されていたのだ。賢明なみなさんは、こんな愚かな事はないと思うが、私の周辺では結構多い。

 フェイスブックは、アメリカ大統領選で、個人情報をイギリスの会社に売却し、この手法で、トランプ支持層にはより好意の持てる情報を、クリントン支持層には態度変容させる情報を提供していたとされる。フェイスブックのザッカーバーグCEOは、アメリカ議会でも、EU議会でも謝罪している。「インスタ映え」ではしゃぐ日本が情けなくなる。さらにそのフェイスブックが、今春には最大8,700万人、今夏には最大約5,000万人分のアカウントが「乗っ取られた」と報道されている。

 このネット情報によるコントロール体験は、友人や知人と同じニュースアプリのタイトルの順位を比較すれば、それがまったく違うということから、すぐわかる。私も、違うスマホで、違うアカウントで比較してみたが、1週間でまったく違うニュースリストになった。

 この手法が、日本の個人情報保護法に抵触するかは微妙なところだ。私の行動履歴情報が商用利用されている。しかし、個人の匿名性が担保され、ビッグデータとして利用されているので、個人情報になるかはグレーだろう。

 実は、こんなビッグデータを活用した初歩的なアルゴリズムは簡単に書ける。そして、これらのソフトウェア環境もグーグルなどによって無料提供されている。私も、ベイズテクノロジーだ、ビッグデータだと強調し、AIで遅れていると叫びまわっているが、実はAGFAの「掌の上」にいるに過ぎない。「データサイエンス」と言えば学生が集まると思っている大学教育もそうだ。

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