眼のつけどころ

世界情報寡占企業からデータ提供代が貰える日
―「グーグル後の生活」と等価交換

2018.10 代表 松田久一

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世界情報寡占企業などにデータ提供代を要求できるか?―日本人ひとり年間24万円

 ジャーナリストのジリアン・テット氏は、「アマゾンとグーグルは我々のデータ代を支払うべきか?」(フィナンシャルタイムス紙)で、インスタグラムの親会社であるフェイスブックは、消費者の行動履歴情報をもとに、成人アメリカ人からひとり26,400円(240US$)の利益を得ているとし、アメリカでの消費者の行動履歴データの無料使用を問題視する政治的動きを紹介している。

 ここから概算すると、我々がネットを利用して、無名データとして利用されているビッグデータは、グーグルで約7万円、アマゾンで約12万円になる。アップルは、スマホなどの「企画販売モデル」が中心だが、我々のデータを無料で使ってあげている利益は約3万円程度と推測される。

 この大雑把な概算で、消費者は年間24万円の行動履歴情報を無料で提供していることになる。およそ成人日本人の行動履歴情報は約14兆円となる。つまり、日本の消費者は、約14兆円の情報価値をAGFAに無料で提供している。消費税で約5%弱である。

 AGFAは、約14兆円の個人の行動履歴情報を無料で占有し、ビッグデータを用いたAIなどで、ネット広告などの市場で独占的な地位を築いている。

 問題は、特定のアプリやサービスを利用した個人の履歴情報が「等価交換」されていないことだ。つまり、市場化されていないことにある。捨てた紙のゴミを再生紙として利用しても再生業者に対価を要求できない。なぜならゴミは所有権を放棄したものだからだ。しかし、個人の履歴情報は、ビッグデータ化され、匿名化されているとは言え、少なくとも本人の利用承認を必要とする。

 これに対し、独占や寡占に厳しいヨーロッパは、規制を強化している。ヨーロッパでは、主要国のグーグルの検索サービスの約70%のシェアを占める。

 2017年、EUは買い物サービスでの自社サービスの優遇で約3,200億円の制裁金、2018年7月には、スマホ向けOSと自社アプリの「抱き合わせ販売」で約5,700億円の制裁金をグーグルに課している。さらに、EU個人情報保護規則を打ち出した「一般データ保護規則」(GDPR)を導入した。これにより、個人情報の利用に同意していないターゲティング広告はできなくなるだろう。これに違反すれば、年間売上高の4%相当を罰金として支払うことになる。

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グーグルのビジネスモデルの何が問題か?

 グーグルのビジネスモデルは、市場プラットフォームモデルであり、二面市場である。無料で消費者に検索サービスを提供する市場と企業にネット広告を有料で販売する市場を持っている。そして、一面市場で獲得した消費者に、企業からターゲティング広告として有料広告枠を販売している。消費者が増えれば、広告主も増えるという「ネットワーク外部性」が働いている。

 問題はふたつある。ひとつは、このモデルでは、消費者が検索した行動履歴が、消費者の承認なしに、無料で広告枠販売に利用されていることである。個人の行動履歴であるビッグデータは、グーグルの「私有財」ではなく、公園のような「公共財」である。それを独占的利用している。

 もうひとつは、消費者はスマホなどで、無料検索サービスの効用を得ることができるが、限られた画面に広告が表示されることが、消費者の効用があがるかである。ネットワーク外部性が、双方向ではなく、一方向だということである。

 さらに、ベイズテクノロジーだ、クラウドコンピューティングだ、ビッグデータだ、AIだ。日本は出遅れて、中国に負けている。ビッグデータがない。これらを言えば言うほど、グーグルを中心としたAGFAに依存してしまうことになる。

 グーグルのメインプログラム言語であるPythonを学び、グーグルの開発したTensorFlowで「機械学習」を勉強し、グーグルのクラウドを利用し、「グーグルアナリティクス」でサイトを分析し、ネット広告を出稿する。これらはすべてグーグルによって「無料」で提供されている。実際、私が勉強し、使っているのは、これらのツールと統計分析のフリーソフト「R」である。従って、グーグルには、大変お世話になっている。

 しかし、グーグルが「無料」で提供しているように見えるサービスの対価は、約12兆円の売上、1.4兆円の利益、11%の利益率である。これは、「自由・平等・博愛」を原則とする対等な立場での等価原理にもとづく取引ではない。しかも、グーグルの社員の性別、人種、学歴などは極めて偏重していることが知られている。これは、2018年に、ジャーナリストのエミリー・チャンの著作「BROTOPIA」で明らかにされていることである。AGFAが、倫理の専門家をリクルートしはじめたのも強まる社会的批判に対応するためだ。

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グーグル以後の生活―AGFA帝国の崩壊

 ギルダーは、AGFAの「個人の行動履歴がビッグデータとして、巨大なデータセンターに蓄積され、AIを利用して、関連推奨によって利用者の閲覧や「ぽちり」(購入)が増えて、広告収入が増えるという循環システムの強みは終わるという。

 終わる理由は主に四つだ。

 ひとつめは、データセンターが限界だ、ということだ。巨大な電力、独自のスレージや半導体開発をしても1社ではデータがビッグになりすぎるということだ。

 ふたつ目は、消費者が広告を見たがらないので、広告を見ないで済むアプリや個人情報を盗まれないアプリ、ブラウザやVPNなどのサービスが増えるだろうということだ。

 三つ目は、消費者がスマホなどの情報端末の広告を拒否するようになる。AGFAの一角であるが、アップルはスマホでの広告を表示できないようにしようとしている。これは、消費者のニーズでもあり、少なくとも選択できる権利を消費者が持つようになる。すると、AGFAモデルは成立条件を失う。もっとも影響が少ないのは、スマホなどの企画小売モデルの色彩の濃いアップルだ。

 四つ目は、スマホなどの情報端末の処理能力が飛躍的に拡大し、通常使用での処理能力に余裕が生まれ、仮想通貨などで利用されている「ブロックチェーン(分散型台帳技術)」の技術が利用され、巨大データセンターが意味を持たなくなるといわれているからだ。世界のPCやスマホを含む情報端末台数とAGFAのデータセンターを処理能力で比べれば例え巨大IT企業でも勝てないのは明らかだ。

 ブロックチェーン(分散型台帳技術)は、よく「共通台帳」に例えられる。匿名性が保証される通信手順で共有される「台帳」のようなものと理解している。この技術を利用すれば、世界のすべての余力のあるコンピューターの処理能力を有償で利用でき、企業固有の巨大データセンターの意味がなくなるという。

 日本でも、「LINE」がブロックチェーン(分散型台帳技術)を使った新しい事業を始める。LINEは、ブロックチェーン(分散型台帳技術)を使ったプラットフォームを提供し、アプリなどをサイトに投稿できるようにして、開発者がポイントを獲るようにすると報道されている。

 こうした条件が整備されると、ヨーロッパの規制とともに、AGFAによる情報寡占帝国は崩壊し、コンピューティングの空を覆う幾つかの雲(クラウド)が消え、「スカイコンピューティング」の時代が来る。「データ民主主義」の時代がやってくるという。

 ギルダーの予言は私には判断できない。ブロックチェーン(分散型台帳技術)が概念としてしかわからないからだ。実際に、TCP/IPのようなプロトコルにならないと実感できない。従って、テレビの次に通信の時代が来るといった約20年前の予測のように、この予言が当たるとも当たらないとも言えない。

 しかし、私たちの生活が行動履歴のビッグデータによって、機械によって、知らないうちに管理され、情報操作されていることは事実である。

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