眼のつけどころ

「嫌韓」層の正体
-プロマーケターが読み解く

2019.06 代表 松田久一

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01

問題 「嫌韓」は高齢層か?

 日韓関係が悪化している。そして、日本での「嫌韓感情」の高まりは、筆者の周辺でも実感する。この高まりの理由や嫌韓層について、諸説が飛び回っている。特に、対立する見解は、若い層では「韓国」に「親しみやすさを感じる」比率が高いのに、「高齢層」は「親しみやすさを感じない」比率が高いというものだ。この論点は、年代と世代というふたつの分析視点が含まれているので、データ分析としても興味深い。統計的真実性を少し追求してみる。

02

データソースと調査のクセ

 日本における「韓国」への態度(「親しみやすさ」などの感情)の長期時系列で確認できるデータ源は、毎年、内閣府が行っている「外交に関する世論調査」である。韓国を含めた海外各国に対する「親しみやすさ」の評価は、1978年から約41年間継続して聴取されている。この調査について幾つか確認しておきたい。それは調査の「クセ」を知るためである。調査概要をみると、以下のとおりである。

母集団

全国の20歳以上の日本国籍を有する者(個人)
但し、2016年度以降は全国18歳以上の日本国籍を有する者。


サンプル数

3,000人


サンプリング方法

層化2段抽出法(等間隔抽出)


調査方法

調査員による個別面接調査法


調査主体名

「内閣府」(調査時点で提示する)
※2006年度以降、調査実施主体が「内閣府」であることを提示した上で調査を実施するようになっている。


回収数

2018年度調査では1,663人


回収率

2018年度調査では55.4%(うち、20代での回収率は37.1%)

 調査の専門家からみれば、民間企業では不可能な教科書のような調査方法がとられている。サンプルは、民間企業が閲覧不可能な住民基本台帳から等間隔抽出法によって抽出されている。しかも、調査員による面接調査法である。設計は、サンプリング理論の理想に近い。現在では、この調査方法はコスト高で拒否率も高く、民間企業では不可能である。

 その結果、問題もみられる。回収率が55.4%と低いので、サンプルに歪みが生じている可能性が高い。回収率はできれば60%以上が望ましいのであるが、特に20代の回収率が37.1%と他年代に比較して極端に低く、サンプルの歪みが懸念される。具体的には、在宅比率が高く、調査に協力的な属性をもった20代の意見が反映される可能性が高くなるということである。

 また、質問に関しては、韓国に対する態度として、

  • (ア)「親しみを感じる」
  • (イ)「どちらかと言うと親しみを感じる」
  • (ウ)「あまり親しみを感じない」
  • (エ)「親しみを感じない」
  • 「わからない」

 という五つの選択肢が提示されている。しかし、選択肢の中身を見ると、実質的には「親しみ」感情の「単極の」4段階尺度になっている。この尺度だと「親しみ」のプラス感情に振れやすい偏向(バイアス)が懸念される。また、「わからない」が、感情の中立を含む場合と、文字通り「親しみ」という感情では「わからない」という二義的な回答内容を含んでいるので解釈が難しい、あるいは不能である。

 このように、どの調査にもクセがある。データを使うには、この「クセ」をつかんでおく必要がある。特に、「外交に関する世論調査」では、先に述べたように20代データについては少々注意が必要である。加えて、2016年度以降は、母集団の定義が変更され、18歳以上となっている。そのため、年齢別集計による集計表では基本的に、最も年齢の若い層は「18-29歳」として区分されている。一方で、2016年度より前の調査では18-19歳の意見は反映されていないので、厳密な比較はできないのが実情だ。

03

「韓国への親しみ」の変化の実態

 先の調査を確認してみる。2018年度調査での韓国への親しみは、図表1のとおり。

 全体では、「親しみを感じない」小計が58.0%と過半を超えて高く、「親しみを感じる」小計が39.4%となっている。

図表1 2018年度調査
図表

 時系列でみると図表2のとおりである。ここで「韓国」への親しみやすさが2015年度調査以降、少し上昇していることがわかる。

図表2 韓国に対する親近感の時系列変化
図表

 さらに、2018年度調査のデータを、年齢別でみてみると、年代ごとに差がみられる。若い年代ほど「親しみ」が高い反面、高い年代ほど「親しみ」が低く、「親しみを感じない」が高くなる。つまり、韓国への親しみの感情には、「年代(加齢)効果」がみられる。

 これを詳しくみるために、世代効果との比較でみてみる。世代とは、生年で区分され、同一年齢で同一の社会体験をしたことによって形成される社会集団である。1980年代以降生まれの「バブル後世代」は同一経済環境のなかで就職氷河期体験をし、同質的な価値観を共有している。この世代概念は、年代とよく混同される。

 年代とは、加齢の段階であり、加齢による生理的心理的に同一の変化を共有する社会集団のことである。14-17歳の前青年期は、「大人への入り口」であり、「モラトリアム(大人への執行猶予)意識」を形成し、同一意識を持ちやすい。

 年齢別集計の結果を2008年度調査と2018年度調査とで比較してみると、簡便な世代変化をみることができる(図表3)。この場合、2008年度の時点で20代である「1979-1988年生まれ」の世代(≒バブル後世代)が、2018年度の時点では30代になるという見方ができる。つまり、1958年を起点にした10年世代区分で、世代を定義することができる。この世代区分は便宜上のものであるが、一定の意味は持つ(松田久一著「ジェネレーショノミクス」(2013)参照)。

図表3 世代の変化
図表

 この視点で、韓国への親しみやすさの10年比較をすると、以下のようになる。

図表4 親しみやすさの変化
図表

 このように10年間の変化を世代視点でみると、ほぼどの世代でも「親しみやすさ」が低下していることが確認できる。他の世代に比べ、「1979-1988年生まれ」世代の低下率が低いが、調査のクセなどの要因があり、特定できない。ちなみに、2018年時点での20代は、2008年時点では調査非対象者なため同様の分析ができないことから、ここでの分析の対象からは除外している。

 嫌韓感情の高まりを、年代効果と世代効果、そして時代効果の三つに分離してその効果をみてみる。しかし、この分析を厳密に行うには、本来であれば150年以上のデータが必要であり、事実上不可能である。

 ここでは、簡便な「トライアドメソッドによるコーホート分析」を利用する。コーホート分析とは、時系列変化は、年代効果、世代効果、時代効果(年代と世代効果以外の効果)によって起こるという仮定のもとで三つを分離する方法である(トライアドメソッドの詳細については、Reynolds and Rentz(1981)を参照)。

 分析の基となる、2008年度と2018年度での、韓国への親しみやすさの年代別の数値は、以下の通りである。

図表5 2008年度と2018年度の年代別韓国への親しみやすさ
図表

 この方法で分析してみた結果は、以下のようになる。

図表6 トライアドメソッドによるコーホート分析:各効果の分析整理結果
図表

 この結果から言えることは、嫌韓感情の高まりは、時代効果が大きく、次いで年代効果が大きい。世代効果の数値はプラスとなっているが、その大きさは時代効果や年代効果に比べれば小さいということだ。

04

「嫌韓感情」は時代変化と年代変化で高まったー世代効果は低い

 限られたデータで可能な分析をしてみた。分析結果から言えることは、嫌韓感情は、日韓関係の変化という政治情勢である時代変化によって高まり、年代効果も少し影響を与えているということだ。世代効果は小さい。

 つまり、外交目標として、嫌韓感情の改善を設定するならば、世代交代を待って、短期に、高齢層対策や若者対策を行うことではない。外交政策によって、時代変化の源泉である日韓関係を、「無関心化」することである。あるいは、嫌韓感情が改善するように、あらゆる交渉力を高めて、韓国政府の政策を変えるしかない。「力の均衡」の世界では、ソフトパワーとハードパワーを駆使するしかない。

 若い層の交流が深まっても、問題は繰り返されるだけで、世代交代の時間は解決策にはならない。確かなことは言えないが、10年後に、現在の20代が中高年になれば嫌韓感情は収まると予測するのは難しそうだ。

 このことは、年代別時系列変化の図表7にみられるように、全体の変化と年代別変化が、ほぼ同じ変動傾向を示していることからも確認できる。直近で20代と60代の形状に違いがみられるのは、年代による情報と体験の差だと思われる。

図表7 年代別の韓国に対する親近感
図表

 つまり、年代によって、個人の関心や価値観が異なり、韓国との関わり方が違う。その結果が嫌韓感情に反映しているようだ。年代の上昇に伴って、外交、国家間の関係、外交や政治などへの関心が高まり、情報を入手する機会が高まる。また、社会の秩序やルール意識も高まる。選挙の投票率にも如実に現れている。つまり、若い年代、特に20代の嫌韓感情が低いのは、世代ではなく、年代による変化であり心的な成長と成熟の差である。

 しかし、20代の意識については、「調査のクセ」があるので断定は難しい。しかし、幾つかの推測はできる。つまり、20代が韓国に親しみやすさを感じるのは、韓国コスメやK-POPなどに接する機会が多く、それが「親しみを感じる」結果に繋がっている。韓国コスメ、K-POPやジャンクフードなどのマーケティングは、中高生向けのコンビニ化粧品、デフォルメされたスタイルやダンス、少年少女のモラトリアム感情をうまくすくい取ってヒットにつなげた感がある。これは、特に日本の少女の欲望をセグメントターゲティングしてきた成果だろう。

05

「真実性以後」の統計的事実

 毎日新聞の澤田克己氏の「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか」がきっかけになり、嫌韓感情のテーマがネットで話題になった。この議論をみていると、少々分析してみたくなった。また、大渡美咲氏の「若者は「親しみ」、年配は「嫌い」・・・韓国への世代間ギャップ」(産経新聞より)という記事も出ている。不思議なことに、政治的スタンスは異なるのに、立脚するデータの解釈はほぼ同じだ。自らの政治的な思い込みが先行している。

 炎上商法は好まないが、両記事の統計的事実に異論があった。記事は、年代視点と世代視点の混同があった。この混同を意図的あるいは無意識に利用して主張の確からしさを示そうとしているように感じられた。そこで、単純な方法でデータを整理して、統計的真実性に近づく努力をしてみた。

 「真実性以後」の時代、事実よりも解釈が重要という風潮のなかで、やはり事実性、特に統計的な事実性にはこだわるべきだ。この観点から最後に言いたいことは三つある。

 第1は、すべての調査には「クセ」がある。この「クセ」を知っていないと事実認定を誤り、間違った解釈をすることになる、ということだ。「外交に関する世論調査」もそうだ。母集団の定義が変わったり、古典的な調査方法がとられたりしているので、20代についての数字は統計的には何も言えない、というのが実情だ。断定ではなく、推測としか言えない。消費動向をつかむ上で大切な「家計調査」が、その典型である。

 第2に、年代と世代の概念を区別し、用語には気をつけるべきだ。国語辞書でも、このふたつの定義は異なる。しかし、多くのコンテンツは混同がみられる。特に、年代を世代と言い換える傾向が強い。年代と世代を混同すると、異なる結論を導き出すことになる。

 20代で韓国への親しみが高いという統計的には確定できない暫定的な事実を、「若い層で嫌韓は少なく、高齢層で高い」というように拡大解釈できる。

 ここに、年代という視点に世代視点を滑り込ませると、世代交代によって嫌韓は将来少なくなり、現在の問題は高齢層の意識にある、というような結論を示唆することになる。これは、20代という年齢のグルーピングと生年のグルーピングを混同することによって生まれる「不作為」の解釈である。

 ついでに指摘すると、「シルバー世代」、「子育て世代」、「年金世代」など年代とライフステージと組み合わせた世代用例が多く、意味がつかめない。シルバーを60代の年代とするとシルバー世代は、60代の世代ということになり、毎年、世代を構成する生年が変わることになり、世代定義と矛盾することになる。言葉の誤用は「事実報告性」に反する。

 他方で、嫌韓意識は、世代ではなく、年代で違っている、とより統計的真実性に近い解釈をすると、20代も年を重ね、成熟し、関心が変わってくると、上の年代と同じように、嫌韓感情は高まると考えられる。

 結果として、同じデータを世代視点と年代視点で解釈するかで、導き出される結論と政策はまったく変わってくる。これは望ましくない。

 第3に、統計的データの作成と利用は謙虚で安定が望ましい。近頃、「データサイエンス」が声高く叫ばれながら、多くのコンテンツで基本である統計調査及び統計学への理解がないのがうかがえる。ネットで収集できるデータも、何らかの推測をする限り、統計モデルを想定せざるを得ない。その基礎が、統計調査及び統計学にある。

 「外交に関する世論調査」は、極めて貴重な時系列データを提供している。再掲示しているコンテンツも多い。しかし、その調査方法やサンプリング、回収率などの問題がどこまで理解されているかは疑問だ。

 少し前に、「統計不正問題」が騒がれたが、問題の本質は、「悉皆調査」と「サンプリング調査」の違いを、厚生労働省の職員が認識していなかったことにある。高等教育で統計学をとっていれば、この違いが決定的なことは自明である。それを厚生労働省の統計を扱う職員がわかっていなかった。これは「作為」の「隠蔽」よりも深刻で重大な「不作為の職員の質」の問題だ。統計法を運用できる能力がなかった。隠蔽の勘ぐりをするほど生やさしい問題ではなく、もっと深刻だった。隠蔽は発覚すれば解決できる。しかし、知識不足による不作為は解決できない。

 世界に冠たる貴重なデータを提供している政府機関や民間企業で、統計調査や統計の基礎を知らない「データサイエンティスト」が増加することが懸念される。「外交に関する世論調査」での母集団の定義変更で、1978年から40年間続く貴重なデータの継続性は失われた。この「安易な変更」に不安を感じざるを得ない。

【参考文献】

  • 澤田克己 「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか」 毎日新聞、2019年5月8日
  • 毎日新聞「なぜ嫌韓は高齢者に多い?」の記事に異論でまくり アゴラ、2019年5月18日
  • 澤田克己 「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか」を改めて考える WEDGE Infinity、2019年5月20日
  • 大渡美咲 「若者は「親しみ」、年配は「嫌い」・・・韓国への世代間ギャップ 産経新聞、2019年6月3日
  • 松田久一(2013)『ジェネレーショノミクス』東洋経済新報社
  • Fred D. Reynolds and Joseph O. Rentz (1981) "Cohort Analysis: An Aid to Strategic Planning" Journal of Marketing, Vol. 45, No. 3, pp. 62-70