マーケティングとは何か ―はじめての「実践的マーケティング論」

2005.04 代表 松田久一

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 本コンテンツは、弊社新入社員向けの研修プログラムでの松田の講義をもとに編集したものです。

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「個別企業の市場への適応原則とノウハウ」としてのマーケティング

 皆さんがクライアントのマーケット、あるいはこの会社の戦略とかマーケティングとかを考えていくときには、まずは市場から出発する。市場がどうなっているのか、という風に出発する。その時に市場というものを認識した上で、その企業が市場に適応していくためには何が出来るか、ということが必要になってくるわけです。

 赤ちゃんは、自分とお母さんは違うんだという風に自他を区別して、自分は生きていかなければいかない。そうすると腹が減ったら、食料が欲しい。食料を得るためにはどうしたらいいかというと、本能的に泣いたりわめいたりすることによって腹が減ったということを知らせる。そうすると、誰かがご飯をくれる。(赤ちゃんにとっての)適応手段というのは、泣いたりわめいたりということになります。ところがいい大人が、腹減ったって言えなくて泣いたりわめいたりしていたら、これはバカとしか言いようがない。いつまでも自分で給料を稼がずに、腹減ったから親に金くれって言っているようでは、これも社会的にはいかがなものかと最近は言われるようになってきました。そうすると社会人になって飯を食っていくというのは、社会の中で一人前にお役に立って、そして給料もらって、その給料で自分の食べたいものを食べると、そう自覚的に認識して初めて生きながらえる。手段がどんどん高度化して、変わっていっているわけです。

 それと同じことが、マーケティングでも言えるわけです。企業が精一杯、日本を救おうとしてものを売ってきた。それだけでは適応できなくなってきて、たくさんのお客さんに適応していくためにはどうしたらいいのか、それにはどんな機能があるのか、その機能をマーケティングと呼ぼうじゃないか、という風に概念的というよりはむしろ自分のあたりまえの理屈として理解してくれればいいと思います。その適応の仕方、つまり企業がマーケットに適応するための機能というのは何なのか。人間で大人であるならば、スキルを身に付けて、就職をして、一生懸命働いて、給料をもらって、自分でレストランに行くなり外食するなり、自分で材料買って炊飯器買ってご飯炊いて食うなり、あるいは誰かに作ってもらうなり、そういうことをやればいいわけです。人間には目的を達成する手段っていうのがいっぱいありまして、それは一人一人違うわけですけども、企業が市場に適応していくための手段というのは四つしかないという風に考えたらいいのではないか、四つが何かというと、お客さんに喜んでもらえる製品とかサービスを作ろうじゃないか、お客さんが買ってもらえる価格をつけようじゃないか、それからどこで売るのかっていうのを考えようじゃないか、それからお客さんに何をどう伝えていったらいいかというのを考えようじゃないか。これが4P、プロダクト・プライス・プレイス・プロモーションという四つの機能です。

 つまり、企業が市場に適応していくためには、その四つの機能で売上を上げていくようにしようじゃないか、というのがマーケティングの考え方です。1920年代に出来た概念が、第2次世界大戦後世界に拡大していって、今や全世界を支配している。経営のひとつの有力なロジックとしてあるのがマーケティングである。そんな風にしてマーケティングは誕生してきた。マーケティングとは何かというと、AMA(アメリカマーケティング協会)とか日本マーケティング協会もマーケティングの定義を色々していますが(図4)、個別企業の市場への適応原則とノウハウと考えたらいいと思います。一般企業、一般的抽象的企業のことではなくて、個別企業の市場への適応原則とそのノウハウという風に考えたらいいのです。どうやって個別企業が市場を認識してそれを分析の対象にし、客観性を確保しながら同時に独自性を展開するかを考えていくのか、というのが非常に重要なポイントになってきます。市場の見方っていうのは独自であると同時に客観的であるということ、そういう認識を持たなければいけない。例えば資生堂という会社は、顧客とかそんな言葉ではどうも落ち着かない、「お客さま」と言っている。それから百貨店で「給料は誰からもらっているのか」と問うと、「お客さま」と答える。銀行に行って「給料は誰からもらっているのか」と問うと、「支店からもらってます」って言うわけです。この認識の差がマーケティングの差、行動の差、経営の差なのです。例えばホリエモンに「会社って何やねん」って聞いたら、おそらく「紙や」って答えるでしょう。日枝会長に「会社ってなんでっか」って聞くと、おそらく「社員のもんや」って答えるでしょう。両方ともある論理では正しいのであり、(それぞれ)どっちかを選択しているわけです。

図4.マーケティングの定義
図表

 どこまでいっても客観性の問題と主観性の問題があるわけですが、その企業にとって重要なのは正しいか間違っているかなんてロジックじゃなくて、賢明か愚かか、賢愚のロジックです。経営とかマーケティングとかは、正しいとか間違っていると言うことはない。歴史にも正しいとか間違っているということはない、あるとしたらこれは政治のレベルで判断される正義の問題です。不思議なことに、人間というのは賢愚で行動出来ない、どうしても正誤で行動したくなるわけです。正しいことはやりやすいのだけれども、賢明だけど間違っていることは人間出来ないわけです。そういうことをやっている人間が、金を儲けている。賢明で間違っていることに、ビジネスチャンスがあるわけです。だから、ホリエモンはもうかっている。

図5.マーケティングにおける市場(マーケット)の捉え方
図表

 何が言いたいかっていうと、市場というものの認識、それも出来るだけ客観的でかつ独自なものというふたつのパラドックスの中で形成される市場認識をもとに、4P、製品と価格と流通とプロモーションを通じて、企業はマーケットに適応する。では、マーケットというものをマーケティングではどういう風に考えていくのかというと、「顧客」×「ニーズ」×「製品」で考えていく(図5)。誰にどんなニーズのどんな製品を提供していくかという3次元で、マーケティングというのは市場を個別具体化して考えるわけです。誰がどんなニーズを持っていてどんな製品を欲しているのか、「顧客」×「ニーズ」×「製品」、これがマーケティングでいうところの市場です。だからマーケティングの製品開発の側面から見ると、ユーザーニーズというのはどの製品カテゴリーに落ちてくるかっていうふうに整理できる、という捉え方がここではなされています。

 一番最初に言ってきたのは、市場とは何か、市場というのは歴史的認識であるのだということです。市場という見方をベースにして、経済学とマーケティングというものは分かれていき、マーケティングは個別具体性としての市場というものを考えていく。そういう考え方が歴史的な条件のもとアメリカで誕生した。そういう風にして市場が認識されて、そしてマーケティングが誕生したわけです。マーケティングは、企業が市場に適応していくための原則とノウハウを明らかにすることである。マーケティングはそういう風に市場に適応するための技術であるとすると、それは4Pを通じて市場に適応するのだと。目的は市場適応であり、その手段というのは四つある。その四つを利用して、マーケティングを通じ企業が市場環境に適応していく。そしてマーケティング的な具体性の論理から言うと、企業の考える市場とは何かといえば、それは誰のどんなニーズをどういう製品を通じて満たすかという3次元で考える。ここまでざっと1時間かかって話してきたことが、マーケティングについての基本的な考えです。

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「競争の科学」としての競争戦略

(1)マーケティングの考え方と競争戦略の考え方の違い

 マーケティングは科学か、理念か。マーケティングはリサーチによって、市場を完全に認識するということと、客観的に認識した上で、企業の持っている目的合理的手段を発見する、という意味においては科学であると言うことが出来ます。しかしながら、1点において科学とは言えません。その1点がマーケティングの欠陥であり素晴らしいところでもあります。それは顧客のニーズを満たすことによって初めて企業は成功することが出来る、という理念をマーケティングは持っているということです(図6)。一方、経営戦略とか競争戦略とかは、お客さんが、他社よりも満足すればいいということです。他社よりも少しでもうまく出来ればいいのだ、それ以上お客さんのニーズを満たす必要はないのだ、というのが競争戦略の考え方です。

図6.欲望充足 -マーケティングの本質
図表

 例えばパソコン市場で、松下はレッツノートを作っているし、ソニーはバイオを作っている、2社寡占の状況であったとします。そうしたときにマーケティングでは、パソコンに対するお客さんのニーズを出来る限りめいっぱい満たすことで、売上や利益を得るわけです。それがマーケティングの発想です。これに対し、競争戦略の発想というのは、他社よりも少しだけうまくやればいいんだと。利益を最大化しあるいは市場シェアを最大化するためには、競争相手よりも少しだけよりよく顧客のニーズを満たして、競争優位を強固にし、持続的な競争優位を得るために、資源を集中すればいいのではないか、という風に考えている。そこがマーケティングと競争戦略的発想の大きな違いです。どちらが正しいかということはなかなか言えないことであり、理念を持っているということでマーケティングは競争戦略の考え方よりも優れているとも言えるし、劣っているとも言える。どういうことかというと、民主主義はなぜ正しいか、というのと同じぐらいに、経営っていうのは何のために存在しているのか、企業っていうのは何のために存在しているのか、という企業の価値論に関する問題であって、マーケティングというのは価値・理念を持った科学であるという風に考えていいのではないかと思います。

 大きな二番目として言いたかったのは、マーケティングとは何か。4Pで説明すればいいのだけれども、顧客満足度を最大にするために4Pの最適ミックスを求めているのがマーケティングの考えである、ということになります。

 三番目に、競争戦略とは何かというと、マーケティングは顧客満足を最大化することによって売上や利益を得る、それに対し競争戦略は競争を通じて高収益を実現するための目的手段関係を明確にすること、という風に考えておけばいい。ここで高収益というのは、ひとつは売上成長性と経常利益率など、量的な側面と、質的な経営効率という側面をもっているわけです。収益性というのは経常利益が高くかつ利益率も高いことであるならば、そういう経営を目指すにはどうしたらいいのか。

 現代社会においては、だんだん日本社会においても、商法改正により、M&Aがやりやすくなります。GEの株主時価総額が20数兆円ですから、GEは軽く松下電器もソニーも買えるわけです。松下が3兆7,000億円でソニーが3兆5,000億円ぐらい。だからGEは日本の家電業界を買おうと思えば全部買えるわけです。あるいはP&Gが時価総額12兆円だから、資生堂も花王もみんな買えるわけです、会社がただの紙だったら。でもおそらく資生堂をP&Gが買おうとしたら、みんな抵抗すると思います。売上は、P&GもGEもたいしたことはない。どこが違うかというと、GEもP&Gもみんな、利益率が15%以上ある。だからその分だけレバレッジが働いて、株式時価総額が圧倒的に違うわけです。そうすると、(日本の株式市場を前提にしているとはいえ)少なくとも10%、15%という経常利益率を狙っていける会社にならないと、そもそも経営権というか経営支配というのを達成できない、持続的な経営を行えないことになる。株主からある程度の独立性を確保した経営を行うことが出来ない、ということになってしまう。それが防衛策ということになるのですけれども、これからはそういう時代になっていくということです。

 少なくとも高収益というものをめざさないと、企業は成り立たない。競争戦略の側の論理にたてば、顧客満足度を満たせなんてバカなことを言ってしまうな、むしろ高収益、つまり利益率を高めていかないとダメなんだ、ということです(これに対し、マーケティングの側から言うと、高収益とか利益率を上げていくということを満たしていくためにも顧客満足度を上げていかなければダメなんじゃないか、という言い返し方も出来る。けれども、どちらが正しいかとは言えないという状況にある)。その高収益を達成するのが、競争戦略ということになります。


(2)「産業内における収益原則と組織活動の指針」としての競争戦略

 競争戦略というのはまさに競争の科学です。その競争の科学というものを掲げていったときに、競争戦略は、産業内における収益の原則とその組織活動の方向性を明らかにするためのもの、つまり産業内における収益原則の組織活動ということになります。それが、基本的な産業内における競争戦略の考え方という風になるわけです。産業内での戦略というものを考えていくときには、図1における横のつながりが非常に重要なことになります。これは普通、垂直的な活動といわれているものです。企業が行っているメインの活動とは何なのかというと、ものを開発して部品を作って、それを組み立てて、販売すること。パソコンの場合だと、開発して部品を作って、アセンブルして販売することです。そんな風にして川上から川下、アップストリームからダウンストリームへの一貫した流れを、主活動といっているわけです。垂直活動の垂直分業、これが通常、企業活動という風に言われています。この企業活動をどう組み立てればいいかというのを考えるのが、競争戦略ということになります。

図7.価値連鎖に基づく企業活動の表現
図表

 こういう企業活動、価値活動の上にいろんな支援活動、経営管理、調達活動、技術開発などそういうものが成り立って、初めて企業の活動となります。このメイン活動をどう組み立てるかが、競争戦略のかぎになる(図7)。この活動に対して、どこにどれだけの人間を配置しているか、どこにどれだけの設備を配置しているか、そしてどこにどれだけの投資をするか、そういうことがコストになる。一般に定義している価値というものと、それからこういうものを作っていくために必要なコスト、その差額が利益になる。つまり、売上引くこの価値活動におけるコストの差額が利益です。

 どういう風に考えて収益を最大化していくかというと、歴史的に言うならば、ここに張り付いている従業員を安い賃金で働かせることによって、売上とコストの差を大きくして利益を大きくしようっていうのが、資本主義の経営の基本的な考え方です。これは19世紀あるいは20世紀初頭の資本主義社会はこうでしたし、現代の中国人もそうです。何で中国はそういう風に出来るかと言うと、共産主義政権において賃金がコントロールされているからということと、沿海部の労働人口のバックヤードとして政府があって、政府開発っていうものがある。人口比からいくと、10:1あるいは2ぐらいの比率で西のほうが人口が多い。産業の区分として、労働者がたくさんいて、労働力の供給過剰状態があって、さらにその上に共産党が労働力を再編成して一元的に管理していますので、賃金について一切文句をいうことが出来ない。20世紀と現在の中国に見られる、出来るだけ労働者の賃金コストを安くして、基本的には利益を最大化しよう、というのが資本主義の一つの考え方であり、それは搾取と呼ばれています。これはマルクスが発見したことです。

 その搾取というものでは成り立たないと考えたのが、現在の資本主義社会の企業です。搾取というものは不可能になりましたので、出来るだけコストを小さくするのではなくて、逆に売上、価値を高めていく。消費者というのは価値に対して対価を払っているわけだから、価値を大きくすればパイがたくさんになる。価値を最大化していくためにどうしたらいいかっていうと、差を利用する。それが地域差であったり、時間差であったりということになると思います。

 地域差というのは、「日本の漫画はおもろいやないけ」と、そうするとアメリカいくと高く売れると。「アメリカのディズニーはなかなかおもろいやないか」と、それを日本にもってくると。日本のおにぎりを上海に持っていくと、「うまいじゃないか」と、高く売れる。このようにして文化的な差異、地理的な差異がもたらす価値の落差を利用することにより、出来るだけ価値を大きくしようとするわけです。

 もう一方は、時間差を利用するものです。時間差というのは、技術革新によってどんどん新しいものを作っていって、時間的な未来を提示することにより、その時間差で価値の大きさをできるだけ大きくしていくことです。DVDとHDDレコーダーで少なくとも2ch同時に録画できるハードウェアが欲しいと変わっていく。つまりビデオとHDDプレイヤーとの差は何かというと、同じ番組をみるという機能についてはほとんど変わらないにもかかわらず、DVDのほうに高く支払ってビデオのほうにはあまり支払わない。どこに差があるかというと技術的な開発のレベルの差でしかない。それは結局何かというと、時間差というわけです。つまり、時間的な差異というものが価値の差につながっていく。その価値の差が会社の差につながっていくという形で売上を大きくしていく。


(3)競争戦略のエッセンス―競争の場を選び、競争に勝つための武器を決めること

 競争戦略とは何を考えることかと言うと、基本的に必要な活動というものをどういうふうに組織化してやっていけば収益を最大化できるか、を考えることです。そのときに売上-コストであったら、売上を上げていくという考え方とコストをできるだけ下げていくという考え方がある。両方を常に追求していくというのが今の企業活動ということになってくるわけです。そのようにして、この四つの活動(企業活動)をどのようにしたらいいのだろうか、どのように売上を最大化するために差を大きくすればいいのか、あるいはコストを最小化するためにどうしたらいいのかを考えていくことが、収益をあげていくことにつながる。そのときに、収益をあげるにはふたつしかない(図8)。ひとつはいい場所、儲かる場所に行きましょう、儲かる場所を見つけましょう、ということ。これが、産業の魅力度ということです。

図8.競争戦略理論のエッセンス
図表

 儲かる場所を見つけて、その場所の中で、他の会社とは違うことをしましょう。儲かるためには、いい場所を探してそこで強くなるしかない。強くなる方法は、他の会社よりより安くものを作れるか、より魅力的なものを作ることができるか、のふたつしかない。前者をコスト優位といい、後者を差別化優位といいます。そのために企業は場所を選んで、その場所の中で差別化優位に立つ戦略を追求していくか、コスト優位に立つ戦略を追求していくしかない。差別化優位の達成のためには、この四つの活動(企業活動)をどのようにしていくかということしかない。またコスト優位達成のためにはこの四つの(企業)活動を他社とは違う形でいかにして安くできるかということしかない。

 まず、どこで競争するかの場を選ぶことです。その場を選んだら、どのようにして勝つかの武器をはっきりと決める、そのふたつしかない。競争戦略は、戦争と同じように考えればよい。戦争をどう考えればいいかといえば、基本的にはクラウゼヴィッツも言っているように、2人でけんかすることを考えればよいわけです。競争戦略はけんかと同じです。けんかする状況を考えて、どうすれば勝てるかを考える。とすれば、まず場所を選ぶ。もし日光が照り付けていれば、まぶしくないほうに場所をとらなきゃいけない。その次にげんこつで殴るなり、相手の一番弱いところ、足が痛そうであれば足を蹴飛ばす、体格を見て相手が太っていれば走り回って逃げる。簡単です。場所を探して、相手の一番弱いところをつく。こういうことを徹底的に考えるのが競争戦略である。それと同じようにどうすれば収益をあげられるかといえば、まず儲かる場所を探す。今から鉄を作ろうとすれば、儲かる場所は中国しかないだろう、というように考える。今から儲かる場所はどこだろうと考えれば、頭を使うところだ、と考える。要するに、どこの場で競争するのか産業を選ぶ。そこには多くの競争相手が群がっている。デジタルカメラは多くのメーカーが作れるけど、京セラは撤退する。魅力がなくなれば撤退する。とにかく場所を選ぶことです。産業を選ぶことです。その産業を選び、その次にどのように勝つのか武器をはっきりする。自分たちは何で戦うのかを素手か、鉄砲か、ライフルか、機関銃か、戦車に乗っていくのか、航空母艦に乗っていくのか戦い方をはっきりするということです。その力の差によって収益が決まってくる。

 競争戦略ということで、この図1が描ければよい。この図が書ければ一人前なわけです。まずマーケットがあり、産業がある。産業の区別の意識が重要です。経済産業省がいうには産業分類に従えばいいということだけれども、一般的、常識的なところを含めれば、自分がどの産業に強いのかと言う認識が必要で、どのように産業を特定すればよいかということを常々頭に入れておく必要があります。家電業界というのは、あるようでない。一番大きな業界のとらえ方ですが、実はテレビセットメーカー、テレビ業界というようにもとれるし、あるいはパソコン業界ともとれるし、いろいろな製品別のとらえ方がある。産業の定義とは、同一の代替可能な製品を提供している企業群の形成している市場、あるいは団体です。液晶パネル業界となると、部品としてのパネルという定義をはじめとして様々な定義が可能です。これは常日ごろからよく考えておかなければいけない。化粧品業界、トイレタリー業界といった大きなくくりもあるが、その化粧品業界の中で、スキンケア製品、メーキャップ、ファンデーションと三つに分けることもできる。あるいはその周辺(業界)も含めることができる。トイレタリーの中でも紙おむつを入れるのか入れないのか。必要な企業活動と産業分類、顧客の代替的なニーズを満たすかどうかといったふたつの観点から産業を考えればよい。

 競争戦略の一番ポピュラーな考え方によれは、今我々が考えねばならないことは、業界の中で収益を得られるかどうかということです。例えばシャープの立場になって考えるならば、シャープはもっと利益率をあげなければならない。いまシャープは利益率5%で業界平均は2.5%で2倍あるけれど、GEに比べれば子どものようなもの。あと3倍利益率を上げたいと。そのような時にどう考えるかが戦略ということです。そうするとシャープはテレビ業界がそもそも儲かるのかを考える。利益率15%をあげるのにふさわしい業界なのかどうか考えて、分析する。第二番目にそのような産業の中でどう戦えばいいかを考える。それが伝統的な競争戦略と呼ばれるもの。そこにマーケティングがどう関わるかというと、我々の基本業務であるリサーチとコンサルタンシーの中身というわけです。その品質が高ければ高いほど我々のシャープへの対価、提供する価値は高くなる、そういう構造になっている。テレビ業界でシャープのNo.1戦略を立てる。それは簡単にできるし実際にできる。それがまずベーシックに押さえられる。

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