眼のつけどころ

ネットとリアルの融合時代の再成長戦略
-成熟ブランドの活性化による企業革新

2017.06.16 代表取締役社長 松田久一

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変わる消費の空気

 消費が伸びそうな「気配」である。少なくとも底堅い。理由は、雇用情勢を反映した消費の「空気」が変わり始めたことだ。「家計調査」などの数字としては、明確にはでていない。所定内収入も増えていない。夏のボーナスもマイナス予想が多い。

 しかし、非就業者だった女性や高齢層の就業が増加し、雇用者数と雇用所得が増え、就業が保証される安心感から「財布の紐」が緩み始めたようだ。自動車(登録車)の販売は対前年でプラスとなった。また、外食なども数年ぶりにプラスへと転じた。

 消費のプラスへの転換期、つまり市場成長期の戦略は、ライバルに先駆けて、新製品・新ブランド・新規事業開発をすることであり、設備投資の拡大を図ることだ。市場が成長しているので、失敗のリスクが低く、成功すれば先発優位のリターンが大きい。

 他方で、消費の下振れ要因は何も変わっていないことにも着目しておく必要がある。空気の転換に備えて、代替戦略の準備も忘れてはならない。

 下方の空気への転換で注目すべきは三つである。

 ひとつ目は、消費増税による外税で8%は心理的な負担感が大きい。ふたつ目は、消費者の多数派を占める中高年のリタイヤ後の「収入の崖」への備え意識は変わらない。年代によって収入は変わる。ピークは55才あたりである。仮に、65才でリタイヤすると、年収は年金だけだとピーク時の20%以下である。貯蓄と退職金を取り崩しても、平均余命の85才までの20年は持たない。対策は、再就職、年金受給の先送りによる受給額増と節約しかない。三つ目は、預貯金志向の高さである。旅行や自動車などの選択的耐久財やサービスの消費目的の達成に、計画的な預貯金による現金購入が志向されている。デフレ意識の定着により、たとえ金利がゼロでも、実質金利は高いと思われている。

 この3点の動向を睨みながら成長期の市場拡大戦略へと転換すべきである。しかし、ここで提案したいのは、このような戦略家的な通念ではない。ネットとリアルが融合する時期には、単なる成長戦略ではなく、成熟ブランドの活性化による高収益ビジネスモデルへの転換、そして企業革新の提案である。

 導入から30年以上を経過したブランドを成熟と呼ぶと、日本の多くの企業の業績を支えているブランドは成熟ブランドや還暦ブランドばかりだ。これらのブランドは巨大な認知資産を持っている。しかし、消費者によく知られているという認知資産は、ネット時代には何の利益ももたらさない。提案したいのは、認知資産としてのブランドをものづくりして収益をあげるビジネスモデルから脱却し、売り手と買い手を「つなぐ機能」をもつブランドとして再生させることだ。そして、この再生を通じて、低収益化したものづくりを、高収益な新しいビジネスへと転換させることである。

 いま時代をどうフォアサイトすべきか、消費者にとってのブランドの役割はどう変わろうとしているのか、ネットで流通やコミュニケーションはどう変わろうとしているのか、そして、消費者行動の新しい事実の上で、どう成熟ブランドを再活性化し、高収益ビジネスへと転換すればよいのか。

 ネットとリアルの融合時代の市場成長期の戦略転換について提案したい。

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インサイトよりもフォアサイト

 マスメディアでブランド確立できた時代は、とっくに終わった。新聞広告でブランド確立した最後のブランドは、1987年発売のアサヒビールの「スーパードライ」だといわれている。