眼のつけどころ

ネットとリアルの融合時代の再成長戦略
-成熟ブランドの活性化による企業革新

2017.06 代表 松田久一

01

変わる消費の空気

 消費が伸びそうな「気配」である。少なくとも底堅い。理由は、雇用情勢を反映した消費の「空気」が変わり始めたことだ。「家計調査」などの数字としては、明確にはでていない。所定内収入も増えていない。夏のボーナスもマイナス予想が多い。

 しかし、非就業者だった女性や高齢層の就業が増加し、雇用者数と雇用所得が増え、就業が保証される安心感から「財布の紐」が緩み始めたようだ。自動車(登録車)の販売は対前年でプラスとなった。また、外食なども数年ぶりにプラスへと転じた。

 消費のプラスへの転換期、つまり市場成長期の戦略は、ライバルに先駆けて、新製品・新ブランド・新規事業開発をすることであり、設備投資の拡大を図ることだ。市場が成長しているので、失敗のリスクが低く、成功すれば先発優位のリターンが大きい。

 他方で、消費の下振れ要因は何も変わっていないことにも着目しておく必要がある。空気の転換に備えて、代替戦略の準備も忘れてはならない。

 下方の空気への転換で注目すべきは三つである。

 ひとつ目は、消費増税による外税で8%は心理的な負担感が大きい。ふたつ目は、消費者の多数派を占める中高年のリタイヤ後の「収入の崖」への備え意識は変わらない。年代によって収入は変わる。ピークは55才あたりである。仮に、65才でリタイヤすると、年収は年金だけだとピーク時の20%以下である。貯蓄と退職金を取り崩しても、平均余命の85才までの20年は持たない。対策は、再就職、年金受給の先送りによる受給額増と節約しかない。三つ目は、預貯金志向の高さである。旅行や自動車などの選択的耐久財やサービスの消費目的の達成に、計画的な預貯金による現金購入が志向されている。デフレ意識の定着により、たとえ金利がゼロでも、実質金利は高いと思われている。

 この3点の動向を睨みながら成長期の市場拡大戦略へと転換すべきである。しかし、ここで提案したいのは、このような戦略家的な通念ではない。ネットとリアルが融合する時期には、単なる成長戦略ではなく、成熟ブランドの活性化による高収益ビジネスモデルへの転換、そして企業革新の提案である。

 導入から30年以上を経過したブランドを成熟と呼ぶと、日本の多くの企業の業績を支えているブランドは成熟ブランドや還暦ブランドばかりだ。これらのブランドは巨大な認知資産を持っている。しかし、消費者によく知られているという認知資産は、ネット時代には何の利益ももたらさない。提案したいのは、認知資産としてのブランドをものづくりして収益をあげるビジネスモデルから脱却し、売り手と買い手を「つなぐ機能」をもつブランドとして再生させることだ。そして、この再生を通じて、低収益化したものづくりを、高収益な新しいビジネスへと転換させることである。

 いま時代をどうフォアサイトすべきか、消費者にとってのブランドの役割はどう変わろうとしているのか、ネットで流通やコミュニケーションはどう変わろうとしているのか、そして、消費者行動の新しい事実の上で、どう成熟ブランドを再活性化し、高収益ビジネスへと転換すればよいのか。

 ネットとリアルの融合時代の市場成長期の戦略転換について提案したい。

02

インサイトよりもフォアサイト

 マスメディアでブランド確立できた時代は、とっくに終わった。新聞広告でブランド確立した最後のブランドは、1987年発売のアサヒビールの「スーパードライ」だといわれている。

 そのスーパードライも30周年を迎えている。当時、ビールのへービーユーザーへの入り口にいた30歳の断層の世代は、もう還暦だ。中間管理職だった団塊の世代は、上司のよく飲むキリンラガーに反発して、サッポロ黒ラベルだった。当時、市場はキリンラガービールが全盛だった。そこに「辛口」で登場したのがアサヒビールだ。1987年のバブル経済の時代だった。 

 東京の地価でアメリカ全土を「ふたつ買える」といわれ、株価は4万円に迫る勢いだった。時代が世代を変え、世代が時代を変える時代に、スーパードライは投入され、シェアトップに立ち、大成功を収めた。

 このブランドを確立したのは、製品特徴である味と生の訴求だった。流通は大手組織小売業であり、居酒屋チェーンであり、メディアは活字メディアであった。歴史のあとづけ理解になるが、アサヒビールは会社のすべての資源と巨大な借入で、この過渡期の変化の方向に賭けるマーケティング投資と設備投資を行い成功した。そして、発売から30年、年間で最低でも100億円のCMを投入したとして、およそ3,000億円の認知資産を持つ。そのスーパードライも現在は、サブブランディングなどで新たな革新を進めている。

 多くの企業が直面しているブランド問題もほぼ同じだ。世代と時代交代の転機に、どんなブランド再活性化策をとるべきかという悩みは大きい。

 それには、「インサイト(洞察)」よりも「フォアサイト(先見)」が重要だ。先読みをして、ブランド戦略を転換することだ。

 どんな世代交代が起こり、どんな時代になり、誰のどんなニーズが市場をリードするのか。どんな価格帯が受容されるのか。どのようなメディアや流通構造になるのか、の先読みである。1980年代のアサヒビールは経営の危機に直面しながらこの時代を「読み切った」。当時、ライバルからは「無謀」と揶揄され、長い間、借金に苦労しながら成功した。同じリスクテイクをやる時代だ。

03

ブランドは「つなぐ機能」へ

 第一に、先読みできることは、若者人口の減少で若い世代の影響力は低下するが、アベノミクス育ちの「リオ世代」が前向きで自己実現志向が強く、元気なことだ。

 このことは、毎年、採用面接をしていると世代交代を肌で感じる。1980年代生まれの買い手市場の世代は弱気だったが、1990年代後半生まれの売り手市場の世代は強気だ。バブル後世代の後ろ向き感が、嫌消費の空気を広めたように、この世代の前向き感は確実に消費の空気を変える。ただし、この世代は少数派なので、親世代の40代の団塊ジュニア世代に波及すれば、好消費の空気へと変わるはずだ。

 これからの消費の空気の特徴は、「高度化」であり、「洗練化」であろう。換言すれば、より「目的・的」になるということだ。

 何かを消費する理由を辿っていけば、その理由は無限の連鎖でできている。

 ビールを飲むのは、食事を楽しむ相手とシーンがあって、そこで食べるメニュー、食器とテーブルクロスがあり、個々のメニューのレシピがあって、アルコールが選択され、ビールの銘柄になる。つまり、連鎖する目的―手段関係のなかで、目的が優先される。

 「ひとり飲み」にも、「孤独のグルメ」のような「孤高の自由」追求という目的価値がある。価値目的のためにビールの銘柄が選ばれる。この無限で多様な目的―手段関係の連鎖のなかで、ブランドが選ばれる。

 この目的―手段関係の理解なしに、ものづくりの品質を求めても意味がない。

 花火大会や夏祭りを、市場機会ととらえるなら、楽しむための他製品との補完関係、楽しみ方や交通機関の利用情報などをつなぐ役割=市場プラットフォームを提供しなければならない。消費者が生活を楽しむという目的を実現するために、必要なすべての商品の売り手と情報コンテンツの制作者をつなぐ機能を提供しないと「消費者接近」とブランド選択の「説得」はできない。

 これは、これまで「もの売り」に徹してきたメーカーには手間で自前志向の強いメーカーには苦手意識が強い。地域販社や取引先卸の役割を変えるなり、「ウーバー(Uber)」のように別会社で展開するのも案だ。ブランドが認知資産の時代は終わった。成熟ブランドの認知資産を利用して、消費者が目的を達成するのに必要な業界の垣根を越えて消費者接近ができる「つなぐ機能」を持つ時代になった。

04

ネットとリアル流通の融合

 もうひとつ先読みできることは、もはやネットと流通の区別がなくなったことだ。ネットは情報、リアルは買場という分業は成り立っていない。

 どんどんリアル流通がネットに浸食されていくというのも通念でしかない。確かに、世界最大のウォルマートは、アマゾンにシェアを奪われている。しかし、廃れたはずの商店街は、アメリカのロサンゼルスでは新陳代謝が進み、個性派ショップの集積で生き返っている。10年前とは大違いである。

 個性派のコーヒーショップが、大手コーヒーチェインに隣接し、個性的な味でシェアを奪っている。ファッションでも大手チェーンが安売りしているなかで、個性派店は強い。食品スーパーも、「Ready to go(持ち帰り)」のサラダの品揃え競争で、大手は勝てない。

 流通進化の通念として、業種小売業から組織小売業へ、商店街から大規模店舗へ、そして、ショッピングセンターへ、さらにネット通販へと進むというものがあった。しかし、この流通進化の通念は間違いである。

 急成長を続けるアマゾンアリババ(中国)は、ネット通販の代表格だと思われているが違う。虚実入り交じったコメントを読む情報サイトだ。ただ、売るだけのネット通販の成長は鈍化し、真偽が分からないが、コメントの多いサイトが伸びている。ひとつの価値観で情報を集約し、まとめた「キュレーションサイト」が伸びているのもこうした理由だ。ネット通販サイトが、情報源になっている。

 大手組織小売業も「オムニチャネル」化を進めたり、ネット通販へ参入したりしている。こうした動きは、必ずしも成功とは言えない。しかし、ネットとリアルの区別は確実になくなっている。他方で、品揃えで優位であるはずのリアル家電量販店がネットに負けている。アジア製の3万円前後の4Kモニターなどの部品系は「アマゾンプレイス」などでしか入手できない。東京の流通市場を席巻するコンビニエンス業態もシェアを奪われ始めた。サラダ食化についていけなくなっている。サラダ専門の外食が増え、「ウーバーイーツ」などの宅配業者が増えると、鮮度、品揃えやブランド力でも劣るコンビニでは勝てない。

 ネットとリアル流通で起こっていることは、成長する覇者がいなくなり、両者の融合が進んでいることである。そして、製造から消費の現場までの商流(商品の流れ)、情流(情報の流れ)、物流(物の移動)という三つの機能の再編が起こっている。

05

消費者の情報経路のピンボール化と発火

 成熟ブランドの再活性化は、世代交代によって変わる消費の空気を捉えて、ブランドに「つなぐ機能」を持たせることと、ネットとリアル流通が融合するなかで、どう自社ブランドの選択をして頂くかの仕組みづくりである。

 この答えは、ネット時代の消費者の「情報経路と発火」という捉え方がヒントになる。

 昭和のゲームセンターには懐かしい「ピンボール」というゲームがあった。鉄玉をはじき、転げ落ちる鉄玉をうまくはじき返して、穴に入れて得点をあげるというゲームだ。今ならスマホでもできる。現代の消費者の情報入手と購入の意思決定はこのピンボールに似ている。消費者のブランド選択のための情報経路は、多くの情報接点を自由に動き回っているようなものだ。何が本当かわからない「ポスト真実性」の時代だからだ。ただ、一度はじけば、鉄球はなかなか下には落ちてこない。情報が過多で点数が上がったり、下がったりするだけである。つまり、決められない。

 1980年代は、新聞やテレビの「ストレートニュース」や報道を、多くの人は真実だと思っていた。現代のアメリカではストレートニュースの60%以上は「AI」が書く。日本もコスト面からそうなるに違いない。日本の大手紙の英語記事はほとんどがAIだとわかる。事実関係をインプットすれば、過去の記事事例から適当にニュースをアウトプットしてくれる2,000~3,000万円ほどのソフトウェアがある。

 インプット情報の選択でニュースが決まる。そのニュースがネットで拡散し、読者の「いいね」獲得競争が始まり、ニュースに虚飾が加えられていき、再び、マスメディアのニュースになる。情報過多時代の情報不足が原因だ。

 従って、現代の購買は、真実性を基礎にした情報入手、認知、評価、態度形成、購入意向、購入、継続購入のような段階的なものにはなっていない。

 若い人の前で講演や話す機会があると実感する。みんなスマホで目の前で話している私の情報を、ネットで調べながら聞いている。自己紹介をしなくても「Wiki」で検索され、アマゾンで自著のコメントも読まれ、聴講者に品定めされている。そこで「ピン」ときたら本も買ってくれる。

 「別に」、本を売るために話をしている訳ではないが、本を買った「お客さま」にとっては販売員の話を聞いて、あちらこちらと情報を行ったり来たりして、情報のピンボールゲームをして、「著者」の話がきっかけで、脳の「ニューロ」の「発火連鎖」が起こって、購入意思決定への雪崩現象が起こった、と考えられる。もし、販売員が信頼できなければ、永遠に「発火」しないで、ピンボールゲームが続いていたかもしれないし、他のゲームに移行するのかもしれない。

 こんな事例と個人的な体験をふたつあげる。

 コーヒーメーカーが欲しくて、アマゾンで調べても、よくわからないので家電量販店に行って販売員に話を聞いたら、ある商品を薦められた。他方で、別の販売店に行ったら、「マンションでお住まいなら音が大きいのでご考慮ください。もう少し待てば、××社から音の静かな新商品が発売されます」と言われた。信頼できたのは後者の販売員だった。それから家電製品はその販売員の推奨を受け入れている。

 あるドラマを見ていて、コーヒーに「みかんの蜂蜜」を入れて飲んだら美味しいと知り、飲みたくなった。欲望の本質とは模倣だとよく言ったものだ。専門店に行って聞いたら「やめられた方がよい。アーモンドなどの方がいいですよ」と言われた。しかし、どうしても柑橘系の蜂蜜をドラマのように飲みたかったのでふたつとも買った。家に買って飲んだら指摘されたように、紅茶ならまだしもコーヒーと柑橘系はまったく合わなかった。この場合は、ドラマが発火点になり、販売員の説得を受け入れなかったのが失敗だった。

 ネットの時代、消費者は多種多様な情報接点を持って、錯綜しながら情報を入手し、発火点に出会った時にブランドを決定している。現実をこのようにモデル化するのが自然だ。

06

再活性化の六つの鍵

 弊社で行った、質的研究による商品購入事例の「経路分析」の結論である(図表)。

図表 消費者の情報経路と発火点モデル
図表

 消費者は、自分にとっての「真実」を求めて、ネット情報やリアル店舗を駆使して、情報探索を続けている。もちろん、家族や友人や知人の口コミの影響も含む。

 このような多くの情報源を持つ消費者には、意思決定に繋がる多種多様な「接点」と「発火点」を持っている。それを見つけることである。

 つまり、ブランド再活性化は、(1)市場の先読み(フォアサイト)、(2)ブランドの「つながり機能」への再定義、(3)ブランドの認知資産を活用した市場プラットフォームづくり、(4)ネットとリアル流通の接点の洗い出し、(5)それぞれの接点の役割の再定義、そして、(6)発火点の鍵を見つけることの六つが成功の鍵である。

 こういった取り組みが低収益化したものづくりビジネスを、高収益ビジネスへと転換させることにつながる。これは、既存組織を越えた企業革新の運動である。

書籍イメージ

2016.12 発行
版形:A4版カラー
本体9,260円+税

中流生活の成熟と再生

発刊以来14年間の知見とデータから「今」を鋭く分析し、「半歩先」を提案
オリジナルの時系列調査から現在の消費者の実像に迫る
中長期だけでなく、短期のマーケティング戦略を構築するための基本データが満載