中堅企業創出による地域経済の再生
-再成長のための戦略

2003.08 代表 松田久一

去る8月30日、当社代表が『実学の森 JABAS』フォーラムにて講演を行いました。 このフォーラムでは、第一線で活躍する実務家や研究者、また岩手県・秋田県・鳥取県の改革派3知事が、地域の「望まれる将来のあり方」について討論を繰り広げました。
当社代表の松田久一は、デフレ不況下で成長している企業事例を取り上げながら、企業育成を通じた岩手県経済の再生について幅広い視点で論じました。また、各知事を交えた全体セッションにも参加し、地域再生に向けて活発な議論を交わしています。

講演で使用した図表(全36頁)は、メンバーシップサービスでのみ公開しております。より理解を深めるために是非ご利用ください。

『JABAS』の詳細は以下の通りです。
 日時:2003年8月29~31日
 場所:岩手県立大学等

本講演の内容を詳細化し、企業戦略に特化したレポートを刊行しています。詳しくはこちらをご覧ください。

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地域経済の危機―岩手県を事例として

 今日は、厳しい地方経済、すなわち地域経済の問題はどこにあるのか、どうすれば地域経済を再生させることができるのか、ということをお話しし、みなさんのお役に少しでもたてたらと思います。地方の中小企業経営者、行政の産業政策の立案者、大手企業の支店・支社・営業所でローカルマーケティングを担当するみなさんの問題をどう解決していくかです。

低迷する岩手県経済

図表1 低迷する岩手県経済-成長のスローダウンと失われゆく雇用
図表

 地域経済はどこでも疲弊しています。岩手を例にとってみます。岩手県経済の県民総生産(いわゆるGDPの県版にあたる)をみてみますと、伸びてはいますが、90年代前半と比べると成長率は鈍化しています。2000年時点では101~102%くらいを維持しているのではないでしょうか。一方、県内就業者数は90年頃から上がってきて、96年を基点にどんどん減少しています。これが、成長がスローダウンして失われていく雇用、ということであります(図表1)。

 経済学な分析をご存知の方はおわかりだと思いますが、雇用者数が減少しているのに、GDPを維持しているというのは、雇用所得以外の所得が増えているためと考えられます。いろいろなことが考えられますが、雇用所得以外の所得の増加の内訳は、中央政府や地方行政への依存が高まっているということです。中央政府への依存が高まりながら、雇用を失っているのが現状です。

 雇用が減り、経済が維持されている。厳しい状況にありながら「ぬくぬくと」経済は維持されている。「ぬるま湯」です。つまり、一番の問題は、この「ぬるま湯」状況にあると思います。雇用は失われているのですが、一方でGDPは、県ががんばって国からお金をとって、経済はぎりぎり何とかしているという構造、それが「ぬるま湯」ということです。

 雇用の増減に関して「事業所・企業統計調査」の数字をみてみます。5年間で2万人の方が雇用を得ています。ところが、雇用減は4万人。つまり5年間で2万人の雇用がなくなりました。どこが増えて減っているかははっきりしています。従業員の減少数は、建設業が9,714人(全減少数の4分の1)を占めます。増加しているのは、社会保険・社会福祉、医療、事業サービスなどです。明らかに公共事業、かつ製造業で雇用を失いながら、社会保険・社会福祉、医療などが、高齢化や国から出る年金などを背景に伸びている。この構造が今後そのまま行ったら、中央政府への依存が強まり続けます。産業が空洞化し、雇用が失われているにも関わらず、地方政府と消費者個人も中央政府を依存を強めることによってなんとか経済を維持しているという状況です。公共事業への依存から福祉事業への転換が進んでいるだけです。中央政府の財政破綻という状況のなかでこの「共依存」関係が保障されることはありません。

 これがぬるま湯だと思います。本当は厳しい冬ですが、何とか全体として賄っている。が、実態は産業、なかでも製造業が抜けているのです。

経済状況の悪化をもたらしている要因

 このような状況をもたらしている構造的要因は、三つあります。

 ひとつは製造業の空洞化です。「岩手県の工場の新規立地件数」は減少しています。お客様に提供するサービス・価値は、川上から川下という価値創造プロセスで作られますが、この一連のプロセスが90年代以前は開発を東京でやり、製造を地方でやり、全国に販売するというものでした。現在は皆さんご存知のとおり、中国が登場しまして、その後にはインドが来つつあります。最終的にはアフリカが来ます。21世紀の人口大国は(エイズ問題を除けば)多分ナイジェリアになります。安い労働力をもつ国がどんどん移動していきます。こんな風に価値の仕組みが変わっていますので、製造業は渡り鳥のように安い賃金を求めて移っていく。そうすると、どうしても新しい工場が呼べない、製造業が空洞化していかざるを得ない、というのがひとつの要因です。

 ふたつめは、東京との比較ですが、岩手というのは市場が均一で、層が薄い。水槽に例えてみますと、水槽の中に水が入っているだけのところで生息できる魚は少ない。そこに岩や藻を入れるといろいろな魚を飼育できる。つまり環境が多様であるほど、いろんなサービス、いろんな会社が生まれるのです。岩手の年代構成をみると、20代未満と70代以上が多い。こういう市場でモノを売ろうとすると、若い人か年配の人のどちらかになる。こういう人たちは財布の紐が厳しいので、どんどん安物競争をしていくことになります。そしてジレンマに陥るということがみられます。東京は結構30~50代の子育て層がいます。実は、渋谷は若い人しかいないから儲からない街です。六本木ヒルズは3ヶ月で1200万人を呼びましたが、きちっとした30~50代の方がいらっしゃいます。市場が深いんです。発展していく街にはいろんな人がいて、そのいろんなニーズを追いかけるように、いろんなサービスや事業が成功している。それが、マーケットが小さく、層が偏っているといろいろなものを受け入れる条件もありません。そして価格競争が起きて誰も儲からないという構造が起きやすいのです。

 三つめは、経済プレーヤーとしての「岩手県」の大きさです。東京都の石原知事が何をしようが、東京ローカル経済には大きな影響を与えません。なぜかというと、それより大きい会社がたくさんあるからです。東京都をあてにして動いている会社なんて東京ローカルにはあまりないのです。一方岩手は、圧倒的に岩手県が一番で、次は盛岡市という順番です(行政は予算規模、企業は単独決算を比較)。つまり「岩手県」は、経済プレーヤーとしてすごく大きい。これは地域経済の大きな特徴です。岩手県庁の前にしか"花"が咲かないというのが、最大の問題です。またこれにプラスして、大手企業の営業所があるとなると、岩手県の地域経済って何?ということになります(しかも大手消費財メーカーの地域戦略というのは、基本的には撤退の方向です)。

図表2 ぬるま湯から破綻へのシナリオ
図表

 つまり、経済のグローバル化によって産業の空洞化が進む(図表2)、その空洞化が消費者所得を減少させて、市場の均一化を招く、市場の均一化が地域のライフスタイルの魅力をそぎ、人口減少に結びつく。また、雇用機会がないので人口流出が起きざるを得ない。人口流出が消費市場をシュリンクさせ、価格競争が厳しくなって、大手企業の支店や支社が撤退せざるを得なくなる。結局、地域経済は、地方政府がなんらかの形で財政支出を拡大しないともたない。地方政府の財政拡大のためには、中央政府に依存せざるを得ない。つまり、地域の民間経済が自立できないで地方政府に依存する、地方政府は財源不足によって中央政府に依存するという幾つもの依存関係によって悪循環の連鎖に陥っているということです。

ぬるま湯から破綻へのシナリオ

 この悪循環に陥ると、最終的に、地方政府である県は税収不足に陥って、中央政府からお金をいかに引き出すか、そして引き出してきたものをいかに支出するか、ということをうまくやらないと県経済がもたなくなります。さらに、財政拡大が税収拡大に結びつかないと、最終的には、県はいわゆる財政再建団体になってしまう。県の一番の経済プレーヤーが財政再建団体になるということは、すなわち地域経済の破綻ということです。今そこに向かってじわじわと進んでいます。それが「ぬるま湯」です。熱湯の中に蛙を入れると(市場シェアが急激に落ちると)実は生存率は高いという話があります。毎年1%ずつシェアを落としていくほうがよっぽど怖いのです。「ぬるま湯」につかっていると、途中で気持ちよくなってしまうからです。当社の経済シミュレーションによると、「若年人口流出」「"がんばるのはやめよう"というスローライフ」「産業空洞化」、いずれのシナリオを進んでいっても、10年後の経済規模は今の2割減になります。つまり収入が20%減るということです。県の設備支援、金融支援などの一本釣り企業誘致政策では、新日鉄の工場はもう戻ってきません。思い切った政策転換で中堅企業を育成していかないとこの先大変厳しいのです。

地域経済の自立化へのアプローチ

 ではどうしたら良いのでしょうか。各原因をそれぞれ叩いていっても答えは出せません。以下のアプローチで考えてみます。

  1. 悪循環の連鎖を地域政府の効率化と新しい政策創出によって断つ:メインプレーヤーである県がまず動かないといけません。
  2. ローカルな自然と文化に根ざした産業クラスターを創る:県が一本釣りでいい企業を育成してもたかが知れています。群として形成してくことが必要です。
  3. 産業空洞化を中堅企業の育成によって食い止める
  4. v市場の均一性を、グローバル市場と東京市場を利用しながら、補う

  5. 人口減少、高齢化を独自の生活スタイル創出によって転換する
  6. 誇りがもてて、多様な暮らしぶりのある美しいグローカルエリアを創造する

 大きくはこの六つのステップで考えてはどうか、というのが我々のひとつの提案です。