I. 消費社会をどう読むか

3.時代の流れを読む

値上げをチャンスに変える

2008.07 代表 松田久一

 石油などの原料や、小麦など加工食品素材の値上がりを起点とする物価上昇が続いている。全国消費者物価指数は、2007年10月以来、対前年プラスを連続記録している。素材や原料の物価が上昇しているのは、中国やインドなどの経済成長により需要が拡大し、さらに、投機的なマネーが商品取引市場に流れ込んでいるからである。この結果、今後についても約79%の人々が「物価が上がっている」との見通しを持っている。

 このような物価上昇はどのような消費の変化をもたらすのだろうか。消費者は、物価上昇による支出増加を抑え、購入数量を減らしたり、購入単価を低くしたりするのだろうか。それとも支出増加を抑えず、預貯金を減らし、家計支出を増やすのだろうか。物価上昇による消費者の行動変化は、個々の業界や企業にとっては大きなチャンスにも脅威にもなり得る。

 昨年12月、タクシー業界では、初乗運賃の値上げ、深夜早朝割増料金の時間変更などの運賃値上げが実施された。およそ半年後の効果は、東京では大半のタクシーが客数の減少にともなう売上減少に繋がったと報道されている。他方で、飲料や素材など多くの業界では値上げが増収になり、さらに、原料の値上がりを十分に吸収できた企業は増益にも繋がった。

 値上げ効果に明暗が生まれたのは、消費者の物価上昇への対応の違いからである。値上げが始まった昨年度から、多くの消費者は、物価上昇に伴う支出増加を抑えず、家計支出を増やしている。この背景には、雇用と収入が安定していることがある。支出内訳については、食品や飲料などの日常的支出を増やし、旅行などの選択的支出を減らしたようだ。ふだんのものは、値上がりしても単価の低いものに変えたり数量を減らしたりせず、支出を増やした。代わりに、タクシー利用や海外旅行などの選択支出を節約してバランスをとったと言える。今後については、約47%の消費者が支出抑制の意向を持っている。

 単なる値上げは、同じ品質で同じ効用や効果を得るのに対価だけが増えることだ。これを納得するには、消費者は商品サービスをもう一度選び直して、自分の選択を再確認する必要がある。「やはりこれでないと」と思って頂ければ商品サービスへの期待と信頼が一段高くなる。値上げは、品質を再訴求しもう一度、再選択して頂くチャンスでもあり、選ばれない脅威でもある。

図表.物価上昇と消費支出
図表

[2008.07 日立SQUARE]