創造的組織力の開発

1993.10 代表 松田久一

 どうしたら「動ける組織」が創造できるのかを提案したい。

 マーケティングは組織の問題を無視しつづけてきた。経営組織論は「社内政治」を無視しつづけてきた。サラリーマン小説は社内政治をマンガにしてしまった。ビジネス誌は組織問題を英雄史にすり替えてしまった。そして、コンサルティング会社は組織を「建築物というモノ」にしてしまった。

 動ける組織をどう開発するか、考えられるだけ考えて提案したい。

01

実行力の問題

(1)「組織が動かない」という仮説

 「不況なんてたいしたものではない。少し、市場均衡が調整過程に入っているだけだ」という認識をしめしたのはシュンペーターである。それよりももっと大事なことは、企業の「利潤率」が低下していることにある。問題は、利潤率の低下を打ち破る「創造的破壊」(イノベーション)が生まれるか、どうかにある。この創造的破壊が起こらなければ、資本主義は死んだも同然である。シュンペーターのこうした卓見は、計画経済に勝利した自由経済の現在を貫通している。

図表1 採用した戦略
図表

 多くの日本企業は、80年代から、企業革新、リストラクチュアリングに取り組んだ。言うまでもなく、シュンペーターの、より高い利潤率をめざしたイノベーションである。92年度、営業利益上位50社を対象に各社がどんな革新に取り組んだか、を財務諸表等を中心に分析した。対外的にリストラクチュアリングを公表した上位50社だから、優秀な企業に違いない。そこから何か学べないか。狙いは、数字上の結果からみて、どんな戦略がとられたか、そしてそのパフォーマンスはどうだったかを明らかにすることにあった。そして、何が革新の障害になったのかを明らかにするためである。データは、85年度と92年度の比較である。

 では、どんな戦略がとられたのか。結果からみてみる(図表1)。

  • 事業革新(事業構造に変化があった企業)   34社(68%)
  • 合理化(製造原価率が減少した企業)     29社(58%)
  • グローバル化(海外法人等が増加した企業)  43社(86%)
図表2 リストラクチュアリングのパフォーマンス
図表

 つぎに、どんなパフォーマンスを示したのかをみてみる(図表2)。

  • 業界成長以上の売上高伸び率を示した企業   25社(50%)
  • 業界成長以上の営業利益伸び率を示した企業  27社(54%)
図表3 事業構造の革新の内訳
図表

 事業構造の革新を細部に分けてみてみることにする(図表3)。

  • 「中核事業」を転換した  8社(16%)
  • 「中核事業」を深耕した  9社(18%)
  • 多角化事業を育成した   11社(22%)
  • 非関連多角化をした    6社(12%)
  • 変化しなかった      16社(32%)
図表4 業界水準以上の成長を果たした企業の割合(戦略別)
図表

 この戦略のパフォーマンスを業界平均以上の成長が、この7年間で達成できたか、できなかったかでみてみる(図表4)。

  • 中核事業を転換した   8社中6社(75%)
  • 中核事業を深耕した   9社中4社(44%)
  • 多角化事業を育成した  11社中5社(45%)
  • 非関連多角化をした   6社中2社(33%)
  • 変化しなかった     16社中8社(50%)
図表5 事業革新への取り組みと成果
図表

 多くの企業が革新に取り組んだ。その結果の成功率は日本の優秀企業50社のケースで約50%とみてよい。事業革新は必ずしも成功に結びついていない。

 事業革新した企業としなかった企業の業績の差はほとんど同じだと言ってよい。もっと言うと、革新に成功すればより高い成果があげられるが、失敗すれば何もしない方がましだ、ということになっている。しかし、これは正鵠ではない。強調したいのは、いかに革新を行動に移し成果をあげることが難しいかである。  この数字を高いとみるか、低いとみるかは主観的判断に委ねられる。全体にもどしてみると、こうなる(図表5)。

  • 事業革新が必要だった     50社(100%)
  • 事業革新をめざした      47社( 94%)
  • 事業構造が変化した      34社( 68%)
  • よい経営成果がでた(7年)  17社( 34%)

 問題はふたつになる。

  • 革新をめざして事業構造が変化しなかった ※A     13社(26%)
  • 事業変化にもかかわらず成果が出なかった        17社(34%)

 前者は、革新をめざす戦略が実行できなかったことをしめすものである。組織が動かなかったと考えてよい。そして、後者については、その原因を、戦略とその実行という観点から分けて考えることができる。この三つを判定することはたいへん難しいが、敢えて「専門家」として分析してみる。

  • 実行した戦略が間違っていた              4社(8%)
  • 戦略どおりに実行できなかった ※B          7社(14%)
  • 成果がでるまでもっと時間がかかる(スピード) ※C  6社(12%)

 この結果は何をしめしているのだろうか。

 実行の難しさとスピードが大切だ、ということだ。実行とそのスピードに関わる問題で革新が成果に結びつかなかった比率が、52%、50社中26社に上る。(※A+※B+※C 編集部注)この数字ですべてを論じようとは思わない。私たちの仮説の力を数字で傍証したかったに過ぎない。私たちの仮説は、「組織が動かない」ということである。戦略構築の方から言うと、実行できる戦略、スピードのでる戦略が要求されるということになる。

 恐らく、最大の問題は、組織が動かないことにあるのだ。