小売業はどう進化するか-現代流通論
第1回 流通とは

2014.01 代表 松田久一

本稿は、2013年12月11日に行われました社内講義を元に作成しております。

 印刷用PDF(有料会員サービス)

01

流通とは何か

 本日は、現代流通論について講義をします。購入のネット化が進み、伝統的な業種小売業が衰退し、流通は大激変の時代を迎えています。21世紀も2010年代に入り、今後、流通はどうなっていくのでしょうか。その見通しを少しでも具体的に持つために、流通の話をしたいと思います。

 私どもは、マーケティングの実務家です。私どもから見て、流通というのは、まず、マーケティングの原点みたいなもので、流通を語ることはマーケティングを語ることにもなります。R.バーテルズというマーケティング史の研究者によれば、マーケティングの歴史は20世紀初頭、つまり1900年代頃のアメリカで始まりました。特に、ミシガン湖周辺で、船の物流機能を使って商売をしていた商人たちの言葉が「マーケティング(Market+ing)」の語源だと言われています。ミシガン湖周辺は工業発達の地、産業発生の地で知られ、大都市ではシカゴがあります。自動車産業も誕生した場所です。その後、オハイオ州立大学で「マーケティング」という講座が開設されたのが1920年代頃です。このように商人、物流などの、現代で言うところの流通の担い手や機能からマーケティングは生まれました。

 従って、マーケティング活動として最初に行われたのは何かといいますと、調査です。最初の調査は「流通調査」だったことが知られています。流通業者が取扱リストを作成するようなものだったようです。

 このようにマーケティングと流通には切っても切れない縁があることがわかります。流通論=マーケティング論と言ってもいいでしょう。また、戦前の日本の大学には「マーケティング論」という授業はなかったのですが、代わりに配給論、あるいは流通論という授業がありました。研究史からみても流通というのはマーケティングの中心なのだと言えます。

 流通論というのは、今まであまり語られてきていない分野です。その理由は幾つかあります。まず、背景に個々の国の歴史的な問題が絡んでいるということです。従って、学問として普遍的に論じることは難しいという事情があります。また、生産者や消費者などの立場によって、流通の見方、視点は大きく変わってきます。さらに、流通は経済現象ですが、生活スタイルなどの文化的な問題とも密接に関わっています。このように流通論は、個別性が強く、歴史的で、複雑な現象であるので論じ方が難しいのです。従って、論じているのは一部の限られた専門家しかいないと思います。そして、これから流通がどう進化するのか、という問題は誰にも見通せないのではと思います。

 本日の講義では、こういった問題を理解しつつ、実際に私がマーケティングに携わってきた中で感じた流通論とその進化の見通しを説明していきたいと思います。