お話でよくわかるマーケティング

2006.01 代表 松田久一

本コンテンツは、2005年末に行われた弊社社員向けの研修プログラムでの松田の講義を要約したものです。

 マーケティングについて、本質をはずさずに、具体的なイメージが描けるように話をしたいと思います。P.コトラーは、もっと難しく言っていますが、マーケティングは顧客のニーズを満たして売りを完結させる仕組み、と実務家は考えておけばいいです。あらゆる組織は対象顧客のために存立しているという理念を追求しながら、1)顧客に提供するものやサービスづくり、2)顧客づくり、3)組織づくり、の三つを活動し、完遂することです。そして、ものづくりに必要な活動が顧客とその心を捉えることです。ものづくり、顧客づくり、組織づくりの三つを作りこむことが日本の市場におけるリアルなマーケティングの実践です。このことを理解して貰うために、

  1. マーケティングの理念
  2. 顧客を捉える
  3. 心を捉える
  4. 顧客づくり
  5. 組織づくり

 の五つの順番で、喩えやストーリーを使って分かり易く話したいと思います。分かり易くというのは、何も読者に迎合するからではなくて、「頭」でなくて「腹」で理解して欲しいからです。というのは、腹で理解したものが、人が本当に実践できることだからです。腹で理解するとは、自分の体験としてわかった、あるいは感情を含んで認知したということだと思います。狙いは、実際にマーケティングを実践して欲しいからです。従って、できるだけ面白く話したいと思います。笑って貰えた、なるほど思って貰えた分だけマーケティングがわかった、と言うことです。

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マーケティングの理念

【1】アメリカと日本のトップセールス

 マーケティングは理念です。理念を知ってもらうために三つお話ししたいことがあります。はじめに、アメリカと日本のトップセールスは何をしているのか。まずは、アメリカの車のセールスナンバーワンの人の話です。そのセールスマンは、何かすごい努力をして、すごい事をやっているかというとそういうことじゃないんです。当たり前のことで、お客さまに対して挨拶をする、正々堂々と仕事を下さいという、お客さまのことを一生懸命考える、ということを実践している。ダメな営業マンというのは、自分でお客さまを見極めてしまっている、そして何もアクションを起こさない。その営業マンに聞くと、動かない理由が無限に出てくる。

図表

 アメリカのナンバーワンセールスマンは、毎朝、会社の車で高速道路を運転している。アメリカの車は日本車と違って故障する。高速道路を走っているとエンストして止まっている車がいる。そこにそのセールスマンが行って、手伝って動けるようにしてあげる。そして名前も言わずに去っていく。鞍馬天狗みたいに。これを毎日やっている。そうするとどうなるかというと、お客さまとしては、必死になって助けてくれた人を探します。自分が困っている時に助けてもらった人だから、一生懸命探して、やっと見つけて、車のセールスマンだとわかると、その人のために一生懸命お客さまを紹介してあげる。そのセールスマンは本当にお客さまの役に立ちたいと思っているから、高速道路を回っているだけなんです。

 日本のカーリース会社のナンバーワンセールスは九州にいる女性だそうです。この人は何をしているかというと、お客さまに車を渡す日に、朝早く起きて神社にお参りに行って、「お客さまがどうか事故を起こさないように」とお祈りをして、お客さまにお守りを渡す。お客さまの方は、自分のために奥さんだって、子供だって、自分のためにいちいち祈ってはくれないだろうなと思う。そしてリピートがある、お客さまからの紹介がある。

マーケティングの定義
図表
*AMA:アメリカマーケティング協会
*JMA:日本マーケティング協会

 マーケティングというのはそういうことなんです。「売る」ということじゃなくて、「お客さまの問題を解決しよう」とか、「お客さまの悩みを何とかしよう」というのが、マーケティングの基本的な理念です。それが19世紀後半のアメリカ中西部で体系化された。ダイレクトにお客さまのニーズを考えていこうという風に考えた。

 AMAのマーケティングの定義とか、JMAの定義とかあるけれども、難しいことを考える必要はなくて、アメリカと日本のトップセールスがやっていることを考えたら、マーケティングとは何か、のひとつの答えがわかるということです。


【2】京都のおじいさんとおばあさんの薬屋

図表

 二番めに、ドラッグストア競争で圧倒的に強い『マツモトキヨシ』に勝っているおじいさんとおばあさんの話です。おじいさんとおばあさんがやっている薬屋といえば、今、日本で一番売れていない業種小売業のひとつになっている。地方都市の商店街で、東京でも昔ながらの商店街で、昼間にお客さまが来ないから電気をつけていない店です。夏の炎天下の街中でそういう店に入ると目がクラクラするんだ、暗くて。『マツモトキヨシ』が関西にも出てきているが、京都のおじいさんとおばあさんがやっているその薬屋は、『マツモトキヨシ』が怖くない、という。何で勝ててるかというと、お客さまの問題解決をしている。風邪ひいたから「ルル下さい」と買いに行くと、売ってくれない。

 「買う必要ない。高いから、これを2錠飲みなさい」と渡してくれる。処方してくれて、その場で水くれて、その場で飲ませてくれて、金取らない。翌朝起きたら電話かかってくる。「おかげさまで良くなりました」と。「良かったですね」といって電話を切る。それだけなんです。それで地域ナンバー1。マツキヨは勝てない。そりゃそうでしょう。これがマツキヨなら「ルル下さい」といったら「こういうのどうですか?」って別のものをすすめてくる。むかつくよね。

 京都のおじいさんとおばあさんがやっていることというのは、本当にお客さまのことをよく考えてるんですね。


【3】『モスバーガー』のオーナーの仕事

図表
MOSには
MOUNTAIN(山のように気高く堂々と)
OCEAN(海のように深く広い心で)
SUN(太陽のように燃え尽きることのない情熱を持って)
という意味があります。
人間・自然への限りない愛情と、
このような理想の人間集団でありたい
という願いを込めて名づけました。
(同社HPより)

 もうひとつ、『モスバーガー』の話です。一時期『マクドナルド』を追い上げて、店数でも売上でも抜きそうになったんです。そのときの社長が、清水社長という方です。『モスバーガー』がなぜ『マクドナルド』を追い上げることができたか、というと、ひとつは不便な立地にあることなのです。駅降りて、すぐにあるのが『マクドナルド』、探して行かなければならないのが『モスバーガー』なんです。要するに出店する立地がなかったわけで、それでも、勝っていけるという自信があった。ひとつには、商品、『モスバーガー』というと、照り焼きチキン、『マクドナルド』とは全く違うハンバーガーを作った。もうひとつは、店主、オーナーを徹底的に教育したことです。どういうことかというと、サラリーマン根性を抜いていく。サラリーマン根性とは何かというと、自分の給料を、会社からもらっている、社長からもらっている、と考えていることです。お客さまからもらっていると考えるのを、マーケティングマインドという。売上がいかなかったら、清水社長が直接指導しに行くわけです。その指導がすごい。オーナーが「毎日一生懸命やってるんですが売上があがりません」というと、「トイレはきちっと掃除しているか?」「店内はきちっといつも掃除しているか?」といいます。「やってます」というと、「店の前は掃除しているか?」それから「駅前から店までの間を掃除しているか?」と、「わざわざ不便なところに来てもらうんだ、それができてはじめて、売上をつくる基本だぞ」と、はじめて売れる状態を作れるんだと、それが清水さんの考え方です。つまり、お客さまに徹底的に対していこうという、昔の『モスバーガー』のよさです。テリチキという新しい味と、オーナー達がお客さまに対していく、その組織力が『マクドナルド』を追い上げた。これもマーケティングの理念そのものを体現した事例です。

 マーケティングというのは、難しく考える必要はない。今言った、アメリカと日本のトップセールスのこと、京都のおじいさんとおばあさんの薬屋のこと、昔の『モスバーガー』のことでもいい、こういうことを自分の頭の中にイメージすればいいのです。企業、あるいは組織というのは、その対象顧客のニーズを満たし、対価を得ることによって成り立っている。こう考えるのがマーケティングの理念です。