2017年、弱含みの消費をどう攻めるか?

2016.10.11 代表取締役社長 松田久一

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 2017年の消費を読み解いて、来期のマーケティング方針を決定する。そんな季節になってきました。

 しかし、残念ながら消費は弱含みです。日本の失業率はもっとも低い水準まで低下し、給与水準も微増傾向にあるにも関わらず、消費は対前年割れが続いています。

 この失業率や賃金の上昇にも関わらず、消費が上向かない「日本経済の謎」は、中流生活の成熟によって消費欲望が減退していることに本質的な問題がある、と「消費社会白書2017」の分析では結論づけました。

 つまり、消費欲望を生む中流生活へのファンタジーが消失し、商品サービスのニーズそのものが弱くなりました。さらに、商品サービスへのニーズを生む際に、補完的な役割を果たす情報やコンテンツがミスマッチを起こしたり、欠如したりしています。

 片手の手袋は商品ですが、健全者には補完的な左手袋があってこそ役に立ちます。商品サービス間には、消費者のニーズが高次化するとこのような補完関係が重要な役割を果たします。マーケティング上の課題はこの補完関係を強めることにひとつの解決課題があります。

 このような中流生活の行き詰まり課題は、日本をはじめ、アメリカなどの先進国でもみられる現象でもあります。アメリカの経済学者、R.ゴードン の「アメリカの成長の隆盛と衰退―市民革命以来のアメリカの標準的生活」(プリンストン大学出版)は、この中流生活、つまり、標準的生活の成熟がアメリカに長期の低成長をもたらすと主張しています(MNEXT 「眼のつけどころ 低成長時代を迎える21世紀のアメリカ経済」参照)。

 したがって、典型的には、中流生活の象徴であり、20世紀に生まれたクルマなどの選択的耐久財などの所有欲の強い商品が苦しい状況にあります。クルマは、昔はガソリンが補完財でしたが、現在では、移動先の情報や体験が補完財です。もっと言えば、移動時間の楽しみ方が補完財になっています。

 他方で、食などへのニーズは、個人的な趣味や体験的性格が強く、もはや生存欲求を満たす生理的欲求の対象ではなく、自己実現欲求の手段となって比較的堅調に推移しています。ふだんの食生活のなかで、「築地市場」でお世話になっていることは滅多にありません。扱われる生鮮品が超高級品だからです。しかし、東京の台所は築地という「ファンタジー」が豊洲移転問題への関心を高めています。ゲームも、暇つぶしの手段ではなくなりました。高収入の若者層が、高額アイテムを購入し、達成感を得る生きがいの手段になりました。

 あらゆる消費財が、消費者の高次の目的である生きがいと結びつき、目的とのリンクが強い商品サービスが成長し、弱いものの成長に陰りが見えてきました。このようなあらゆる商品サービスの役割の変化の本質は、「昭和世代」が憧れ、そして、目指した豊かな中流生活へのファンタジーです。

 消費欲望の高次化は、新しい世代ミックスが生まれたことによります。将来不安の強いバブル後世代がリードする「嫌消費」時代が終焉し、世代交代による自己実現志向の強い新しい「ポジティブ世代」が青年期に入り、バブル後世代が家族形成期に、団塊ジュニアが「ミドルクライシス」や子育て負担期を迎え、そして、消費にもっともポジティブだったバブル世代である新人類世代が、退職後不安や年金不安を抱え、断層や団塊の世代は老後不安に取りつかれています。仕事や収入があっても、消費支出が増えないのは、それぞれの世代が生涯収入や資産を低く見積もり、平均余命までの支出を平準化しようとするからです。

 さらに、このような収入や資産の制約条件のもとで、中流の家族生活にファンタジーを持つ世代が少数派に転落したことによります。

 他方で、グローバルな供給サイドのイノベーションによって、極めて多様な商品を生み出すことができ、人的サービスによってカスタマイズ化を図れる条件が生まれていることもあります。中流生活に必要な財は、世界のどこででもつくれるようになりました。

 このような状況で、多様な「脱中流生活」の消費リーダーがポスト中流生活をめざし、これからの様々な商品サービス市場や地域商圏を牽引していきます。

 2017年の消費とそれぞれの市場を読み、2017年のマーケティング方針を決定する上で大切なことは五つあります。


  1. 対象市場の背景にある消費の短期と長期のトレンドをどう捉えるか
  2. 顧客をどうセグメントし、ターゲティングすべきか
  3. もっとも有効な価格戦略は何か
  4. 成長する首都圏市場をどう攻めるか
  5. ものづくりモデルから脱却して、どんな新しいビジネスモデルを構築すべきか

 ワークショップでは、「消費社会白書2017」より、これらの課題解決のお役に立つプレゼンテーションを行い、みなさんと少人数で議論させて頂きます。
 主に取り扱う事例は、マスコミでの露出が増えている「ウーバー」、「シェイクシャック」などの食品や飲料などの消費財メーカー、ベンツやBMWなど自動車や、AV、家電、設備、住宅などの選択的耐久財企業、セブン-イレブンや三菱商事傘下のローソン、ニトリ、マルエツ、ヤオコーなどの流通産業などを予定しています。
 是非ともご参加下さい。