「団塊の世代」への目のつけどころ

2006.05 代表 松田久一

 「団塊の世代」が注目を浴びている。彼らが退職期を迎え、日本経済のGDPの約10%に匹敵する約45~50兆円と推計される退職金を資産として保有し、東京などの大都市を脱出すると考えられているからである。消費の爆発、資産価格の上昇、地方経済の活性化、地方分権の推進などが期待されている。

 1945年、「先の大戦」の終結により、多くの兵士が戦場から帰還し、家庭を持ち、空前のベビーブームが到来した。その結果、団塊の由来となる人口構成図(ピラミッド)に「団子の塊り」のような膨らんだ歪みが見られるようになった。1947年から1949年の3年間は毎年約270万人ずつの子供が誕生した。2004年の出生数が約110万人であることからいかに「数の多さ」を誇る世代であるかがわかる。こうして誕生した子供達が、戦後民主主義教育、受験地獄や大学紛争などのような共通体験を経て、世代固有の意識を共有し、1947-1949年生まれを核とする「団塊の世代」を形成した。彼らが未婚の独身時代には、「平凡パンチ」などの雑誌、「リーバイス505」などのジーンズ、「コカ・コーラ」などのソフトドリンク、「パイオニア」などのオーディオ、「ホンダ」の低公害エンジン車などをいち早く受け入れ、マス消費市場の形成と巨大化に寄与し、多くの大衆ブランドを確立してきた。彼らの家族が、受験、就職、結婚、出産、子育て、子手離れなどの新たな人生の節目を迎えるごとに新たな市場とブランドの形成と成長が期待されてきた。多くは期待はずれに終わったが、まさに、「数は力なり」で市場に影響を与え続ける世代である。

 その彼らが2007年から2009年にかけて次々と60才に到達し「サラリーマンの退職期」を迎えようとしている。この間、毎年、通年よりも約30%多い約15兆円の退職金が支払われると予測されている。特に、退職は単なる節目というだけでなく、ライフスタイルを大きく変え、時間とお金の使い方を大きく変える。さらに、仕事が規定していた移動の制約が外れ、地方や海外への引越しなどの人口の社会移動に繋がるインパクトを持っている。

 特に、注目されるのは次の三つの変化であり、団塊の世代の大変貌である。

 第一は、「細く長く」のサラリーマンから「運用益を狙う投資家」へ変貌するかもしれない。一般的には退職後の仕事による収入は減少し、退職金などを原資とする預貯金や株などの資産運用による運用益や利子所得が重要になる。仕事に関る経費的な支出が減少し、消費水準は下がる。支出の中身も、衣食など仕事に関連が深かった支出の比率が下がり、健康や安全を維持する医療や住宅への支出が増える。支出の減少以上に収入が減ると予想されるので、「ハゲタカファンド」や「ホリエモン」嫌いでも投資家になって利ざやを稼がざるを得ない。

 第二は、時間に追われるサラリーマンから「趣味人」へ変貌するかもしれない。仕事時間の減少によって、自由時間が増え機会コストも下がる。その分、商品やサービスの吟味に時間をかけ、享受により多くの時間を費やすことができる。その結果、より自分にあったもの、より確かな素材やより心地よいものなど趣味性の高い選択になる。ギターや憧れのピアノやトランペットに時間をかけることができる。勉強や学習ができるのでより高度な商品サービスを楽しむことができる。商品サービスの享受能力が上がるので商品サービスの価値も上がるのである。ピアノの弾けない人にピアノの使用価値はない。しかし、時間をかけてピアノの弾く学習をすればピアノの使用を享受できるようになる。

 第三に、都心で働き、郊外に寝に帰る職住分離のサラリーマンから「参勤交代の大名」へ変貌するかもしれない。人口移動と移動手段の変化である。東京大阪などで働く団塊の世代は約100万人と推計される。彼らは、持ち家、賃貸などの現在の居住条件の上で、自然などの環境に恵まれ生活コストが相対的に低い地方と情報や医療サービスなどが充実し仕事の機会も多い都市部の二者択一に2007年度から迫られることになる。可能ならば両方のメリットが生かせるように住宅の複数利用や居住が進むだろう。随意に行われる車、新幹線や飛行機を使った「参勤交代」であり、「故郷」の建設である。

 生真面目で、ケチで、地方や自然が好きで、友達夫婦の団塊の世代には、投資家、趣味人や大名暮らしは苦手かもしれない。しかし、団塊の世代が突破口になって、次の世代が新しい成熟型の次世代型のライフスタイルを創造することは確かである。団塊の世代に目をつければ次の市場が見えてくる。

図表 世代別収入と支出(月平均)
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