II. 現代の戦略とマーケティング

2.マーケティングの切り口

小売を変える「嫌消費」世代の攻略法

2010.08 代表 松田久一

本稿は、2010年7月7日に行われた商業界研究セミナー【「嫌消費」現象の背景と攻略法】の講演原稿です。

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はじめに

 ただいまご紹介にあずかった、松田でございます。「売り」の消費の現場でご活躍されていらっしゃる皆さんに、ぜひ少しでもお役に立てるお話をしたいと思っております。

 皆さんにご提案させていただきたいのは、世代的な観点からお客さまを見ると、もっと違う見え方がするのではないか。つまり、目の前にいらっしゃるお客さまとは違う、大きなひとつの流れとしてのお客さまというものをとらえてみたらどうだろうか、ということです。題しまして、「小売を変える『嫌消費』世代の攻略法」ということで、できるだけお役に立てればというふうに思っております。

 お話は四つに分けて参ります。ひとつは「嫌消費の時代」、やはり消費というものは、どんどん消費すればいいという時代ではどうもなくなっているようです。あまり消費は好きではないというような気分の時代になってきているというお話をしてみたいと思っております。それを担っているのは、25歳から30歳までの世代です。世代というのは同年代生まれということでございますが、「クルマ買うなんてバカじゃないの?」と言っている人たちが出てきたというお話です。

 2番目に、この人たちはどういう人なのか。モノを売っていくということは、お客さんを知るということですので、お客さんを知るという観点から、この世代をどう理解したらいいかということをお話します。われわれの世代とは違う感覚を持った世代というのをどう理解すればいいのかということです。おそらくこの感覚、感性というふうなものが理解できると、売れていくのだと思います。売り方が見つかっていくのではないかということです。

 ひょっとしたら、この世代にうまくフィットするような売り方ということをやっている先行事例というものがあるのではないか、というのが3番目のお話でございます。4期連続増収増益されている小売業が存在します。リーマンショック後も伸びている、そういう会社に少し学んでみよう、ということです。

 4番目にこの世代をどう攻略するかということです。結論は五つでございます。この世代のことを理解しようということが、この世代と対話するという意味であります。それからこの世代はわれわれの若い時代と違った関心の領域を持っているわけですが、まずその関心の領域を知ろうということです。それから買い物満足を追求するというマーケティングを展開してはどうだろうかということです。そして、この世代というのは、別の、今までとは違うビジネスモデルを考えていかなければダメなんじゃないかということで、プラットフォームというお話です。それから、多世代で対応していく、チームです。その五つの問題が結局この世代の攻略方法なのではないかというお話を、少々お時間をちょうだいして皆さんにご提案させていただければと思っております。

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嫌消費の時代

 今まで、いろいろな人とお話してきました。その人たちの関心というのは、「なぜ売れないのか」ということです。それに対して、この本(「嫌消費」世代の研究 東洋経済新報社)はどう答えたかというと、カネがないから買わないんじゃない、収入が減っているから買わないんじゃないということを申し上げたかったわけです。それが多分いろいろなかたちで取り上げていただいた理由だと思います。そういう背景を少しずつ押さえていきたいと思います。

 最初は、なぜわれわれが取り組んでおります事業、ビジネス、販売と消費が伸びないのかということを少し話していきたいと思います。現在、消費支出の名目も実質もどんどん下がってきている状況です。ところが、よく見ていきますと、物価も下がっておりますので、消費数量という観点では現状維持をキープしていますが、それにしても消費低迷というのが長く続いています。これが直撃しているのが小売業ということになります。小売業全体では若干プラスになっておりますが、主力のスーパー、百貨店、コンビニエンスストアというところは対前年のマイナスを続けてきています。小売業で伸びていっている部分というのは何かというと、ネット売りということになります。このネットの売りが、約6兆6,000億円といわれています。百貨店の売上が6兆5,000億円ですので、百貨店の売上を超えたということになります。

 リアル店舗を持った業態では売上低迷が続いています。コンビニエンスストア、スーパー、百貨店などの主要業態では大変苦しい状況が続いています。メーカーは新興国に逃げることができますが、国内需要を担っている小売業というのは逃げることはできません。これが小売業に課されている大きな課題です。

 消費が縮小している背景は何かについて申し上げたいと思います。消費支出金額というのは現在、月31万8,853円です。実収入が51万8,595円で。この時系列数字を85年からずっと見ていただくとわかりますように、消費支出金額と実収入の差がリンクしています。つまり、収入の減少というものがあります。しかし、それだけではこの消費の縮小というのはうまく説明できません。収入から消費に回る分のことを「消費性向」といいますが、この消費性向の推移を見てみますと決して上がっていません。収入がどんどん少なくなり、消費支出がそのままだと消費性向は上がっていくわけです。しかし、収入が減少して消費が減少していると同時に、収入の中で使われる支出の額も下がっていますので、消費が下がっているという二重の構造になっているということです。

 収入が減少していっているという要因の他に、物価が下落しているという問題と消費性向は上がっていない要因があります。このことは、所得だけで消費の減少を十分に説明することはできないということです。

 若い時代は借金してでもモノを買うということが経済学のモデルになっています。ところが、この借金をしてモノを買うといわれる若い世代が、現在、嫌消費世代と呼んでいるバブル後世代、つまり1980年代生まれになっています。そういう人たちのこういう発言が次々と出てきています。「クルマ買うなんて、バカじゃないの?」。それから「大型テレビなんていらない。ケータイのワンセグで十分」。「海外旅行は疲れるんで行きたくない」、「クーポンがないとカラオケやレストランにはいかない」。それから「化粧水に1,000円以上出すなんて考えられない」と言うわけです。私たちの世代になりますと「化粧品=資生堂」というのは当たり前のことですが、今は「化粧水あるいは化粧品=DHC」なっており、「化粧水に1,000円以上出すなんて考えられない」という発言が出てきています。それから、最近の若者は親のためにやって、人前で恥をかいて、430万円払う「結婚式なんて意味わかんない」と言っています。とにかく「30才までに1,000万円を貯めればなんとかなる」というふうに思われている。最近の若い人たちの貯蓄率というのは、一般的に想定されているのよりも非常に高いです。入社して、2、3年たてば、みんな300~500万の貯金は持っているということです。お金がないわけじゃない、ということです。

 嫌消費というのは「消費嫌い」というネーミングなんですが、これは定義をさせていただきますと、収入に見合った支出をしないというふうに定義しております。何らかの理由によって、本来収入に見合った支出をしていない人たちのことを「嫌消費」というふうに言っています。これが25~30歳ぐらいまでの特有の年代で起こっています。

 実はこの次の世代は「少子化世代」といっております。20歳~24歳ぐらいの世代ですが、この世代はまた違っています。いま消費というのは、5歳刻みぐらいの世代でコロコロと変わっていきますので、この見極めが非常に難しいです。それぐらい世代交代によって、どんどん消費は変わっていくということです。なぜかというと、価値観とか価値意識というのがどんどん速く変わっていきますので、それに対応するかたちで世代が変わっていくということです。

 消費性向を見ると、そのことがハッキリします。25歳~30歳に該当する世代というのは、本来ここではもっと消費性向が高くていいのですが、高くなっていません。比較的低いかたちになっています。他の世代に比べてそんなに高くありません。日本の消費というのは高齢層で維持されているということになっています。日本の消費は60歳以上の人たちが一生懸命お金を使っていただいておりまして、若い人たちはお金を使っていない、これがいまの日本の消費の現状です。

 あまり消費をしない世代がどんどんこれから出てきます。仮に旺盛に消費している年代を25歳~60歳までとりまして、5年前の2005年と現在の2010年、それから将来の2015年ということで予測しますと、この世代の比率がどんどん高まっていきます。それが消費を変えていく、小売りを変えていくことになっています。

 こういうふうに、目の前のお客さまとは少し違った観点から、世代という観点から大きなお客さまの流れをとらえていきますと、この世代に対してどう対応していくかということが非常に重要な課題となります。嫌消費世代が台頭してくることによって、業態でいろいろなチャンスと脅威が出てきたということです。パソコンでのインターネットショッピングは利用頻度意向の純増率が圧倒的に高くなっています。ネットへの対応というのは不可欠ということになっています。それからもうひとつは、明らかにコンビニは大変厳しくなってきているということです。20代後半の世代のコンビニ離れというのがかなり顕著になってきています。

 一方で、彼らに注目されている業態というのがスーパー業態です。したがって、コンビニエンスストア業態から別の業態にどんどん流れていくという流れが、おそらくこの世代が本格的に結婚して、家庭を形成して、消費の日常出費の中心になってきますと、加速化していくと思われます。

 これまでの話をまとめますと、消費がシュリンクしているのはカネがないんじゃないんだということです。ある特定の世代が消費に対してポジティブじゃない。クルマはいらない。それから家電はいらない。大型のAV家電や液晶のような大型テレビはいらない。それから海外旅行は行かない。今まで私どもの世代が豊かさの象徴だと思ってきたものが、彼らにとってはあまりそうではない。逆に、そういうことで考えていきますと、ローンとかに縛られない現金を持った世代が登場しているという意味になるわけです。これは、小売業にとっては非常にチャンスだと思います。そのチャンスと脅威、どちら側のスタンスに立っていくかということが、重要になると思います。

書籍イメージ

2009.11 東洋経済新報社 発行
定価 1,500円+税

「嫌消費」世代の研究

独自の大規模調査をもとに、若者の「買わない心理」の深層に迫る。

「クルマ買うなんてバカじゃないの?」
若者の消費が変化している。若者はなぜ、物を買わなくなっているのか。そこには巷間ささやかれている「低収入」「格差」「非正規雇用の増加」以上に深刻な、彼ら独特の心理=「劣等感」が強く影響している。本書では「収入が十分あっても消費しない」傾向を「嫌消費」と名付け、大規模な統計調査とインタビュー調査をもとに、「嫌消費」を担う世代=20代後半の「買わない心理」の原因と深層に鋭く迫る。 「世代」という観点から市場を捉え、世代論の手法で将来を遠望した一冊。