ヘッダーロゴ
linespace
II.現代の戦略とマーケティング
hr
2.マーケティングの切り口
家電量販店のポイントプログラムとビジネスモデル

代表 松田久一
本稿は、「月刊アスキー」2007年6月号掲載記事のオリジナル原稿です。

生き残り競争の武器

図表1.主な企業のポイント・割引カード発行枚数と
利益率
 家電流通業界は熾烈なシェア競争を繰り広げている。2005年度の家電流通市場規模は約7兆6300億円と推定され、上位10社で約64%の市場を占める。さらに、10社の顔ぶれが合併や提携によって毎年変わっている。業界2位のエディオンと同5位のビッグカメラとの提携・合併によってヤマダ電機に代わる新しい業界トップの誕生が話題になり、直後に解消されたことは記憶に新しい。このような熾烈な競争のなかでポイントプログラムが生き残り競争の武器として大きな役割を果たしてきた。ポイントプログラムがもっとも事業の収益に寄与し成功している業界である(図表1)。

ポイントプログラムによる顧客囲い込みのビジネスモデル

 家電流通業界のデファクトスタンダードとなっているのは、1989年に、値引き交渉の手間を省くために導入されたと言われているヨドバシカメラの「ゴールドポイントカード」である。このポイントプログラムも他業界と同じように、商品やサービスの購入ごとに金額に応じて一定の還元率でポイントが累積加算され、一定期間内の次回購入時に一定の比率で値引きなどの特典が得られるという仕組みである。このカードの最大の特徴はその還元率の大きさである。通常、現金購入すれば10%のポイントが還元される。預金金利の0.2%前後と比べても、また、他店や他業界の還元率が数%の域を出ないのと比べても極めて大きい。さらに、ポイントで無限回の買い物を続ければ11.1%の値引きになる。例えば、43インチの液晶テレビを約50万円で現金購入すれば5万ポイントが加算され5万円分の値引きがされる。5万円でゲーム機をポイント購入すれば5,000ポイントが加算され、次回購入時に5,000円分が値引きされる。これを繰り返せば10%の還元が11.1%になる。現在では、ヨドバシカメラの会員数は約2,031万人、ビッグカメラは約1,500万人と公表され、ヤマダは約2,000万人以上と推計されるまでに拡大している。
 このカードプログラムが事業収益に寄与していることは言うまでもない。特に、ヨドバシカメラのような都市型戦略をとる量販店には大きな競争の武器になった。家電量販店の競争手段は限られている。立地、店舗の規模、品揃え、価格、販売知識やサービス、そして、多店舗展開のオペレーションなどである。しかし、実際には立地や店舗規模は資本力に依存し、品揃えはメーカーの寡占化が進んでいるため差別化しにくく、価格競争がメインの戦いにならざるを得ない。従って、カードプログラムも、値引きサービスの一環であるが、単なる値引き以上の効果を発行企業にもたらしている。つまり、現金値引きよりもポイント還元することによって、ポイントの消化のために顧客の来店頻度を上げ、関連購買を増やし、店舗の利用満足度を高めることによって、ストアロイヤリティを上げ固定客化を図り、大型商品の買い替えや買い増し需要を獲得することができる効果である。
図表2.家電量販店のポイントプログラムの
ビジネスモデル
 このうまい善循環のシステムが作用することによって、顧客の固定客化、差別的なサービスの提供、さらに、テレビなどの大型家電製品の購入機会の囲い込みに成功している(図表2)。言い換えれば、2〜3年と買い替えサイクルが長く、年に数回しか来店して貰えず、値引き以外に競争手段がなく、固定客化を図りにくいビジネスを、週に一度は来店頂き、販売員の商品知識やサービスで差別化でき、ストアロイヤリティを形成できる仕組みに変え、顧客の囲い込みをしたのである。この善循環のシステムがよりうまく作用するのは、郊外型店よりも、サラリーマンが平日の通勤途上や帰宅時に気軽に立ち寄れる駅前立地店である。また、ポイントの消化率は約92%前後と推定され、ポイント還元の方が値引きコストを約1%節約できるメリットもある。経常利益率が約4%前後であることを考慮するとこのコスト削減は大きい。

次世代のカードプログラムへの競争

 これまでうまく機能してきたカードプログラムも新たな進化の段階を迎えている。カードの発行枚数も頭を打ち、還元率も主要企業ではほぼ横並びになり、付加的なサービスも特徴はなくなってきている。こうしたなかで新しい動きが幾つか見られる。ひとつは、ヤマダにみられるように、ポイントカードの提携企業を積極的に増やす動きである。ヤマダのポイントは、自社の店舗だけでなく、紳士服のAOKI、千趣会、さらにANAでも利用できるよう提携先を広げている。他方、ヨドバシカメラはEdyやeLIOなどとビッグカメラはSuicaなどの電子マネーや電子決済システムとの連携を深めている。これらは91%の人々がポイントカードを所有し、平均所有枚数は8.5枚、携帯所有枚数も5.3枚という過飽和状況のなかでの次世代のカードプログラムへの布石である。
 ポイントプログラムの満足度はふたつの要因で決まる。貯めやすく、魅力的な商品やサービスと交換できることである。家電量販のポイントプログラムが成功したのは、ポイントを人気のあるAVやIT関連商品の購入に利用できるからである。カードプログラム満足度は約75%前後と他業界に比べて非常に高い。従って、収益を支えてくれる固定客が多い。しかし、家電製品の購入頻度は少なくポイントが貯めにくい。カードプログラムが普及し電子化してくると、より魅力的なポイントプログラムが他を飲み込むことになる。顧客から見れば1枚のカードなどの電子メディアであらゆるカードプログラムを利用できれば管理の手間が要らず便利だからだ。
 他方、発行枚数で並ぶJALやANAは、還元率は低く、プログラム満足度で10%前後勝っているものの(当社調べ)魅力的な無料航空券との交換が人気であり、提携する利用店舗がそれぞれ75,000店、55,000店と多く貯めやすい。今後、すべての業界を巻き込む次世代カードプログラムへのコンバージェンス(収斂)競争が始まるなかで、家電量販店のプログラムも安穏としてはいられない。電子マネー、電子決済システムや他企業との提携を模索しながらより貯めやすいプログラムを模索し、他業界のポイントカードを飲み込めるプラットフォームとなれるような利用満足度の高いシステムを追及していく必要がある。
[2007.04]


【参考コンテンツ】
 MNEXT
ヤマダ VS. ヨドバシ「東京決戦」の行方 (2007年)
 提言論文
ポイントカードシステムのマーケティング>(2007年)
爆発する世界市場での日本の情報家電メーカーの生き残り戦略−サムスン攻略法 (2010年)
 戦略ケース
どこまでいくか、ヤマダ電機−家電流通市場の寡占化(2005年)
 ネット評判記
No.84 激戦!家電量販店の顧客満足度(2005年4月調査)  「家電量販店顧客満足度調査レポート」より
No.85 激戦!家電量販店PartII ヤマダ電機VS.ヨドバシカメラ   「家電量販店顧客満足度調査レポート」より

戦略家のための知的羅針盤「MNEXT」は
メンバーシップサービスでご覧ください。

この他にも豊富な企業事例や戦略分析など、実務に使えるコンテンツが満載です。
ぜひメンバーシップサービスへの入会をご検討ください。


linespace

linespaceページトップlinespace linespace閉じるlinespace