I. 消費社会をどう読むか

2.消費リーダーを斬る

嫌消費時代のネクストマーケティング

2010.04 代表 松田久一

本コンテンツは、2010年1月26日に行われたJMA特別セミナー「消費の地殻変動を読む」における、弊社代表松田の講演録を要約したものです。

 本日は消費の地殻変動についてお話をさせて頂きたいと思います。今の時代を嫌消費時代、消費嫌いの時代として捉えてみてはどうかというのが主題です。そのうえで、マーケティングをどのような方向で革新させて行けばいいか、についてお話できればと思います。消費の地殻変動は世代交代から説明できます。『「嫌消費」世代の研究』(東洋経済新報社 2009)は、いろいろなところで話題になっているようです。中身は真面目に書いているのですが、「クルマ買うなんてばかじゃないの?」と書いて、自動車業界のお客さまに申し訳なく思っていました。しかしながら、心ある自動車業界の方からは、「今の自動車業界は厳しいので、これくらいの意識をもってやっていかないといけないし、言ってもらった方がいい」とおっしゃって頂いた。若い人達は時間の側面から、「車を買うなんてばかじゃないの」と言います。東京の人も「車を買うなんてばかじゃないの」と言います。地方の人は、「現金でしか車を買わない」と言います。こういったことを世代から捉えて、嫌消費理論について話をさせて頂きます。

 話は大きく三つにわかれます。ひとつは「嫌消費の時代」と言うことです。市場をどうとらえるかというと禁欲時代と言えるかもしれない。マーケティングは長い間、快楽を元に、欲望をどう捉えるか、欲求にどうやって応えていくか、ニーズにどう応えていくかを考えてきました。昨今の若者をみていると、むしろ、禁欲的です。そういった禁欲的な消費という嫌消費についてお話させていただこうと思います。

 ふたつめは、「嫌消費をリードしている層がいる」ということです。バブル後世代といわれる人々で、1980年代生まれの人達です。この人達が、嫌消費をリードしていると思われます。そして時代の精神になろうとしているのではないかと思われます。

 三つめは、マーケターからすると、どうブランドを構築すればよいのかということと、流通は、価格は、という、いわゆるマーケティングの4Pが重要になります。マーケティングの4Pが消費者とどのように変わっていくのかということです。

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嫌消費の時代

 まず、事実ベースで現在の消費をみていこうと思います(図表1)。

 GDPの話になりますが、我々は消費支出は実質ではなく、名目の世界で考えます。経済学的には、リーマンショック以降ものが全く売れなくなり、物価が下がっていましたが名目ベースでは消費は維持していました。ところが、昨年11月くらいになって、名目も落ちてきました。政府統計、GDP統計の消費の実態です。

図表1.縮小する消費
図表

 この数字をべつの角度からみると、全ての小売業で消費が低迷しているということです。百貨店がだめだということは、言われ続けていたことですが、スーパーも低迷している。コンビニは店舗数は拡大していますが、タスポ効果も減り、売上も減少している。このように全業種だめというのが、現状であります。

図表2.強まる節約消費
図表

 消費全体も小売業態ベースでみても、全てでマイナスとなっている。これが我々が直面している消費の実態です。どうしてこうなったかというと、明らかに一年前と比べて節約消費が、全ての消費者に浸透してきたということです(図表2)。

 一年前と比べた節約意識をみると、「節約を心がけるようになった」は合計で67.6%。「非常に心がけるようになった」20.4%、「まあ心がけるようになった」は47.2%と、一年前と比べると、やはり消費者は節約を心がけるようになっています。消費をシュリンクさせているひとつの理由です。

 具体的な商品・サービスカテゴリーで、どのように消費を節約しているのかというと(図表3)、衣類、クリーニング、外食、弁当、化粧品、アルコール、生鮮食品などがありますが、一番、購入金額を減らしているのは、衣類です。衣類に関しては、購入金額も減らして、価格も減らして、品質も下げている。クリーニングは、金額を減らそうとしている。外食については、購入金額も単価も減らしている。レストランのランクも下げて節約している。一番単価を下げているのは、弁当・惣菜類。昨年のヒット商品は何かというと、日経MJによると、西友298円の弁当。ドンキホーテでも298円で弁当を売っている。弁当の小売は大変な低価格競争になってきました。コンビニが定価で売る時代ではなくなった。セブンイレブンでおにぎり2個、牛乳、サラダを買うことが如何にも高くなってきた。おにぎりが1個120円ですので、おにぎり2個買うと240円、牛乳が98円で300いくらになるので、いずれにしても弁当よりも高くなるということになる。コンビニで物が売れなくなり、飲料も売れなくなったという連鎖が起こっています。消費をシュリンクさせている理由として節約消費が定着してきた。それが、あらゆるカテゴリーで定着してきたということです。もうひとつは単に単価を下げるだけでなくて、消費者側からみると、品質も下げていこうという動きが見られたのが、ひとつのポイントであると言えます。

図表3.節約カテゴリー
図表

 なぜ、節約行動が拡がって来たのかその要因は、ふたつあります。ひとつは短期的な経済的問題です。不況で収入が減っていますので、当然、予算制約が厳しくなって節約に走っているといえます。もうひとつは、世代交代で消費することが悪だと感じる世代が出てきているのではないか、ということです。恐らく消費の地殻変動を感じているのは、短期的な変化と長期的な世代交代の変化が背景にあるのではないかと思っています。

 消費支出と可処分所得を見ますと、対前年同月比でずっと可処分所得は減っています。消費支出もそれに伴い減っています。世帯収入の見通し、来年度の予想は減ってるだろうという人が40%くらいいる。現在の収入は減る、来年の収入も減っている、したがって消費支出も削減せざるをえないという動きが急速に短期的に出てきている。このことが、消費がシュリンクしているひとつの理由です。

 もうひとつは、世代交代という問題です。私は会社の代表をしておりますので、毎年面接を何十人もしています。社員を育ててきた経験もあります。仕事でインタビューやマス調査もやってきています。世代交代の問題に気付いたのは、これらの総合的な結果として感じたことによります。

 「クルマ買うなんて、バカじゃないの?」と一番最初に聞いたのは、大体3、4年くらい前です。これを言ったのは当社の社員。我々の世代では車を買うということは重要なことだったわけですが、この声は当社の社員一部だけの声ではなく、実際に、グループインタビューでこの言葉がどんどん出てきて、これは冗談じゃないなと思いました。

 1950年代生まれの私にとって、テレビは大きい方がいいというのが常識で、それは欲望の対象としてできるだけ大画面で楽しみたいというのがあるからです。最近の若者の話を聞くと、大型テレビなんていらない、ワンセグで十分だという。我々と観ているものが違う。我々は大自然や歴史ドラマ、最近では「龍馬伝」とか「坂の上の雲」とかはスケール感を味わいたいわけです。我々が観るものは、大画面の方がいい。一方、若い人はそういったものは観たくない。もっと情報として観ているので、大画面は必要がない。観るコンテンツが違うので、見たいニーズも違う。そのことに気付かずに、若い人達も「欲しいものなんだ」と思い込んでいると、「大型テレビなんていらない」となるわけです。

 また、実体験としてびっくりしたことですが、「海外旅行は疲れるので行きたくない」と言う。私は初めて飛行機に乗ったときは感動しました。そんな思いは今の若い人達にあまりない。「なんで英語を話さないといけないの?」「何で疲れるために、海外へ行かなくてはならないのか」となってしまう。「海外は日本語が通じないから不便だ」となってくる。

 昔、マーケターはアメリカのクーポンをいかに普及させるかということに、すごく苦労されたと思います。逆に、今、若い人達はクーポンしか使わない。クーポンがないとビールを飲まない。更にビールは苦い、だからハイボールとなる。

 我々が化粧品というと、やはりNO.1の資生堂とイメージしがちですが、今の人達は「化粧水に1,000円以上を出すなんて信じられない」という。もったいないという。そういいながら、まつげのエクステンションに6,000円、ネールアートに7,000円を出す。「いったいどうなの?」と我々は思う。

 とにかく貯金が好きです。「30歳までに1,000万円貯めれば、何とかなる。」あるいは、自然にそのまま生きていけば、30歳までに1,000万円貯まる。使い道がないからです。

 そもそも、「欲望で消費をする時代があったのですか?」と聞かれて、ひっくり返ったことがある。コム・デ・ギャルソンが流行って、街中が真っ黒になった時代があった。六本木では、ホンダの車でなければナンパできない時代。今の時代、そういう車に乗っていたら、「どうでしょうね?」となる。「消費に夢をもった80年代、90年代があったのか?」と聞かれても、「あったんだ」としかいいようがない。

 若い人達の消費スタイルは、どうやら、世代で説明していく方がわかりやすいのではないかと思うのです。日本社会は、家族で結ばれた血縁、同じ地域に住んでいる地縁、日本社会を大きくリードしてきた社縁で成り立ってきたわけですが、今の若い人達はどれも信用していない。血縁は信用しているかもしれないが、会社を信用しているわけではない。地縁も信用しているわけでもない。何を大事にしているかというよりも、同時代の体験、精神、気持ちという世代で結ばれていると考えた方がいいのではと思います。

 平均消費性向という経済学で当たり前の消費の捉え方があります(図表4)。収入に対してどれ位支出したかというのを平均消費性向と言います。全体平均では73.2%。手取りで、35万円、そのうちの73%を使って、27%を貯蓄にまわすということです。嫌消費とは、平均消費性向に対する態度であり、収入に見合った消費をしないということです。平均73%より低いのを嫌消費と言っています。公的データで、家計調査年報がありますが、世界中でこんなディテールの調査を行っている国はありません。この調査を元に、平均消費性向を算出すると、低く推移しているふたつの年代区分があります。ひとつは25~29歳の我々が注目しているバブル後世代、もうひとつは35~39歳の区分となります。35~39歳は家を購入して、ローンを組んでいるわけです。家を買ってローンを払うと、日本の家計調査の分類では貯蓄になる。35~39歳は住宅を購入しているので、平均消費性向が低くなります。その年代を除くと、家計調査では25~29歳が平均消費性向が低いということになります。消費のシュリンクは、この世代が大きく寄与しているのではないかと思われます。

図表4.平均消費性向の世代差
図表

 もうひとつは、価値の転換が起こっているのではないかということです。

 我々が行っている消費者調査で50から60項目の価値意識項目を分析しているのですが、05年と09年で見事に価値意識の順番が逆転してしまったという現象が起こっています。05年の1位、2位、3位、4位は、09年では4位、3位、2位、1位と見事に高低が逆転している(図表5)。05年は、小泉さんが勝った時代。09年は民主党が勝った時代。5年前のことを思い出してほしいのですが、5年前の価値意識と今の我々の価値意識がまったく変わってしまった。何が起こっているかというと、自己実現なんてどうでもいいやということ。05年はこれが一番強かったが、今は一番最下位になっている。今は、他者依存志向があがってきている。

図表5.自己実現から他者依存へ
図表

 ひとつは消費が短期的にシュリンクしてきた。もうひとつは、構造的に世代交代が起こり、消費嫌いのような世代が生まれてきた。三番目に、どうも価値意識が5年間で、がらっと変わった。因子構造は変わってないけれども、順番がころっと変わった。

 これは、地殻変動のせいです。自己実現志向が一番最下位になって、他者依存志向が一番上になっている。周りを気にする。「KY」という志向性が強くなっている。これには世代が強く絡んでくる。価値意識も世代で見ると、59~63歳世代の価値観の順位とバブル後世代、少子化世代の価値観の順位とでは真逆です(図表6)。まったく別の価値意識になってしまったということ。表層的に変わる時代の中身をみると、世代的な価値意識の差がある。会社の中で、世代なんて関係ないと教育しても、そもそも若い人達は会社なんて信用していませんので、世代差は会社の中でも露骨に出てくる。

図表6.価値意識の世代格差
図表

 世代は歴史の体験の差がでてきています。

 特に注目してるのは、バブル後世代。どうも消費に関心が低い。車なんていらないと言っている世代。少子化世代、団塊ジュニア世代もそうだがブランドはいらないと言っている。自分達は無党派であると。無印良品は団塊ジュニア世代の作ったブランドと言われてますが、バブル後世代はあまり興味がない。少子化世代も興味がないと言っている。仮に25歳から60歳で市場を見たときに、少子化、バブル後世代は5年前はたった4.5%の勢力しかなかったのが、15~16%くらいのウエイトになってきて、これから、5年先、6年先になりますと、27~28%を占めていく。こういう風に考えていきますと、消費が好きではない世代が、マーケットに占める割合がどんどんあがっていく。これが、消費世代の世代交代と地殻変動です。

[2010.04 MNEXT]

書籍イメージ

2009.11 東洋経済新報社 発行
定価 1,500円+税

「嫌消費」世代の研究

独自の大規模調査をもとに、若者の「買わない心理」の深層に迫る。

「クルマ買うなんてバカじゃないの?」
若者の消費が変化している。若者はなぜ、物を買わなくなっているのか。そこには巷間ささやかれている「低収入」「格差」「非正規雇用の増加」以上に深刻な、彼ら独特の心理=「劣等感」が強く影響している。本書では「収入が十分あっても消費しない」傾向を「嫌消費」と名付け、大規模な統計調査とインタビュー調査をもとに、「嫌消費」を担う世代=20代後半の「買わない心理」の原因と深層に鋭く迫る。
「世代」という観点から市場を捉え、世代論の手法で将来を遠望した一冊。