AIに奪われない仕事の正体

〈表出〉の経済学

2026.06.08 JMR生活総合研究所 代表取締役社長 松田久一

はじめに(要旨)

 本稿は、AIをめぐる不安を解体し、その本質を規定したうえで、企業活動への影響を分析する。第1章では、AIの暗い未来像が、失業への不安を投影した自己表出にすぎないことを、SF映画の分析から示す。映画が描く擬人化されたAI像は、来たるべき真実の予示ではなく、払拭すべき誤像である。第2章では、AIの本質を規定する。AIは表出済みのデータ(コーパス)の分布を学習する確率予測であり、表出に先立つもの――異和・発話欲望・言語化以前の感情――を原理的に持たない。それゆえAIは純粋な指示表出の知性にとどまり、自己表出も欲望も持たない。危険があるとすれば、それはAIの欲望ではなく、AIを道具として用いる人間の欲望にある。第3章では、この本質を企業の収益構造へ翻訳する。AIは指示表出=スキル資本に依存する活動と力を急速に商品化する一方、収益の源泉は固有資本=自己表出の側へと移る。超過利潤は、誰もが使えるAIにではなく、AIに代替されない独自データとドメイン知識に宿る。


参考文献

  • 吉本隆明.(1965).『言語にとって美とはなにか』.勁草書房(自己表出/指示表出の理論)
  • G. W. F. ヘーゲル.(1807/1997 樫山欽四郎訳).『精神現象学 上・下』.平凡社(自己意識と欲望、承認の弁証法)
  • A. コジェーヴ.(1980).『ヘーゲル読解入門』.GALLIMARD(欲望と承認をめぐる解釈)
  • S. フロイト.(1923).「自我とエス」(自我・無意識の構造)
  • Knight, F. H. (1921). Uncertainty and Profit(リスクと不確実性の区別、企業家的判断)
  • Levine, J. (1983). "Materialism and Qualia: The Explanatory Gap," (説明ギャップ)
  • Chalmers, D. J. (1996). The Conscious Mind, (意識のハードプロブレム)
  • Searle, J. R. (1980)."Minds, Brains, and Programs,"(中国語の部屋、統語論と意味論)
  • Becker, G. S. (1964).Human Capital, (一般的技能と企業特殊的技能)
  • Lazear, E. P. (2009).  "Firm-Specific Human Capital: A Skill-Weights Approach," (企業固有の人的資本)
  • Porter, M. E. (1980).Competitive Strategy(5 forces)
  • Porter, M. E. (1985).Competitive Advantage(価値連鎖)
  • Schmalensee, R. (1985). "Do Markets Differ Much?,"
  • Rumelt, R. P. (1991).  "How Much Does Industry Matter?,"
  • McGahan, A. M., & Porter, M. E. (1997). "How Much Does Industry Matter, Really?," (利益の分散分解)
  • J. シュンペーター.(1939).『景気循環論』(技術革新と長期波動/コンドラチェフの波)