多元価値時代の経営哲学-現代経営哲学序論

1994.06 代表 松田久一

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哲学なき経営

 経営に哲学という言葉を使うべきではない、とずっと思ってきた。哲学という言葉が、どうしても形而上的なもの、空疎空論を連想させてしまうからである。事業には、経営技術としての知識とその知識のもとになる考えが必要である。

 この事業は何のために存立しているのか。誰のために存立しているのか。何を提供しているのか。事業についての一連の本質的な問い、が経営哲学であり、「実業の思想」(1)と呼ばれるものである。哲学としての知識の有り様は、科学的な知識とはその構造を異にする。それは、属人的な性格をもつとともに、固有の事業体験に根ざしている。この意味で、専門哲学のめざす普遍的性格とは異なるが、本質的な問いへの答え、という意味において、何ら遜色はない(2)

【附 注】

(1) > 「実業の思想」という概念は、長幸男「実業の思想」、現代日本思想体系11、1964で展開されている。

(2) > これとは異なった見方がある。例えぱ、加護野忠雄氏「組織認識論」では、哲学と経営哲学という見方を区別している。しかし、その根拠は明確でない。哲学の専門家が展開したものが哲学であり、それ以外は日常の思想というような区別。