共感共苦の新しい企業原理の模索-ポスト資本主義社会の企業

1993.01 代表 松田久一

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日本の企業論争の焦点

 日本企業についての論争が、盛田氏の提言(「日本型経営が危ない」文芸春秋 92年2月号)から再燃した。環境問題、社会貢献問題、日米貿易摩擦、日本企業を取り巻く非経済的問題を日本の経営スタイルから論じたものだった。この議論は、日本の実務経営者、経済学者を含む広範な日本企業をめぐる論争に発展したようにみえたが、不況感がより一層明確になるなかで、結論をみずに終息しつつあるようにみえる。

 「いいものを安く」という論理で日本企業は、低賃金長時間労働、株主配当も少なく、社会に対する貢献費用も、環境費用も支払わないで世界の産業を支配しようとしている。こうした論理は、世界の資本主義のルールに違反した経営であって、「いいものは高く」という論理こそ世界に受け入れてもらえる経営スタイルだ、という主張だった。この提言に対して、多くの反論や賛意の表明の論文が発表されながら、論争が拡大発展したというのが日本企業をめぐる論争だった(図表1参照)。

 この論争は、何を問題とし、何が議論され、何が議論されなかったのか。論争を手がかりにしながら、市場、マーケティング、企業、戦略論、戦略論を超えるものを、まとめてみたい。

図表1 代表的な近年の日本的経営に関する論文
図表