脱大衆社会の市場と戦略

1990.01 代表 松田久一

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はじめに

 今日は、私どもが提唱させて頂いております「多次元接点」という考え方を中心に、三つのご提言をさせて頂きます。まず、お客様の側・企業の側に、どんな事態が起こっているのか、それをどう捉えるのかということ。二番目に、1990年代の企業課題は一体何なのか。それに90年代世紀末多信教という話。三番目に新しい戦略発想へのヒントについてお話させて頂きたいと思います。

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終焉-昨年から今年にかけての動き

 三つのお話をする前に、昨年から今年にかけての事件を少し整理していきます。平成元年1月、昭和天皇が崩御されました。その少し後にイランでホメイニ師が亡くなられました。6月には、天安門事件、そして参議院選。秋には東欧でいろいろな動きが出てきました。マルタ会談、またアメリカのニカラグア出兵。こう追っていきますと、この一年間の最大のキーワードは、"終焉"ではないかと思います。昭和の終焉、55年体制(保守合同)の終焉、ソ連型社会主義の終焉、ヤルタ体制の終焉......。

 それに関して、世界的に話題になった論文があります。アメリカのフランシス・フクヤマ氏が書いた"歴史の終焉"(天安門事件の前に発表。日本では月刊ASAHI 11月号掲載)という論文です。彼は、「今、大きな変動が起こっているが、一体何がどう変わっているのかという基本的な変動の軸は見えないんじゃないか」ということを書いています。

 そして、「歴史というのは自由に向かって進む」という考え方をしたヘーゲル(ドイツ、17,18C哲学者)を引用し、イデオロギー的には、自由・民主主義は勝った、これで歴史は終わってしまった、これからの時代は非常に退屈な時代というのが彼の見方です。

 平成元年というのは、"終焉"というのがキーワードになってきていると同時に、それは"始まり"ということでもあります。何が終焉し、何が始まるかを捉えることが、今必要になってきていると思います。