服部セイコーの「時計のファッショングッズ化」戦略

-「時間を知る」以外の新しい使用局面の開発

1984.03 代表 松田久一

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時計からファッショングッズヘの市場変化

 「僕は時計をふたつ持っている。ひとつは、デジタル、もうひとつは、アナログ。時間をすぐ見たいときはデジタル、見栄はるときはアナログをする。アナログは、女物がいい。女物のほうがスリムで僕にはあう」。ある大学2年生の時計(ウォッチ)についての発言である。時計はもはや時計ではなくなっている。

 時計はワクワクするハイテックなファッショングッズになり、従来の一生モノ、品質としての時計は影が薄くなっている。この変化は、消費者自身がもたらしたものであり、同時に、メーカー自身がボーリングした地平でもある。

 ここでは、時計へのニーズの変化に敏感に反応し、新しいニーズを掘り起した服部セイコーのケースをとりあげてみる。品質と信頼で築いたトップメーカーがいかに新しいニーズに対応し、新しい地平を拓いたのか。

図表1 時計生産推移
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 時計の市場は用途別には、クロック(置掛時計)とウォッチ(腕時計)がある。この2区分でみた生産の推移は図表1のとおりである。アナログ、デジタル、ぜんまいの三つのタイプで推移を見ると図表2のとおりである。順調に2ケタの成長を遂げてきている。しかし金額ベースで見ると、生産数量では19.9%の伸びをしめしているのに対し、生産金額では8.9%の伸びにとどまっている(昭和56年度時点)。これは、図表2のように、デジタルタイプのウォッチの生産増加による低価格化がその主因である。これは、図表3からも明らかである。

 他方、普及率という点からウォッチをみると、図表4のとおりである。昭和54年度時点で、91.7%である。この数字は、53年、オイルショック以降、調査誤差の範囲内で推移している。

 つまり、昭和48年以降で整理してみると、ウォッチ市場は、エレクトロニクス技術の発展と普及率の限界というふたつの大きな環境変化に直面していたといえる。

図表2 タイプ別ウォッチ生産推移
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図表3 価格ランク別ウォッチ販売に占めるデジタル構成比(男持ちのみ)
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図表4 ウォッチ普及率推移
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