松田久一・編著「マーケティングの経済学」序章
マーケティングの経済学とその方法論

2007.06 代表 松田久一

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 「マーケティングの経済学(Economics of Marketing)」とは、現代の市場競争の理論と原則を明らかにし、戦略経営及びマーケティング、すなわち戦略的マーケティングの政策の有効性を検証する方法論と体系である。

 企業の戦略経営及びマーケティングの実務者は、様々な複雑で現実的な問題に直面する。その度に、自分の体験や勘に依存した対応策ですませるだけでなく、「ほんとう(真)」の答えを探索し戦略的な問題解決を組織的に図りたいと感じる。その際に、企業の経営に関する問題解決に資する諸科学には、主に、マーケティング及び経営学、経済学、統計学などがある。しかし、マーケティング及び経営学は、企業の実践について多くの先進事例やヒントを与えてくれるが、主として、事例研究の整理や分類に終始する傾向があり、帰納的に導き出された原理や原則も仮説の域を出ない。ミクロ経済学及び産業組織論などの経済学は、前提とする公理や仮定から仮説演繹的な方法で導かれた推論によって、多くの厳密な原理や原則を教えてくれるが、企業の市場競争についてはあまり有益な示唆やヒントを得ることは少ない。また、統計学は、様々な統計モデルを前提に、主として調査を通じて得られたデータを活用して確率論的な仮説検証を行うことができるが、その有効性は仮説に依存する。つまり、現在のマーケティング及び経営学、経済学、統計学は、市場競争を実践している企業の政策担当者にとっては一長一短と言わざるを得ない。

 こうした問題の実践的な解決策として目指しているのが、マーケティングの経済学の構築とその方法論の確立である。既存の社会諸科学の知識体系を生かし、普遍的な真理を追究しながら、経済学、マーケティング及び統計的方法を統合して、体系化と実践ノウハウの蓄積を志向し、市場競争の現場で必要とされる問題解決に有効な原則を明らかにしようとするものである。このことはマーケティング及び経営学、経済学、統計学のそれぞれの強みと弱みを相互に補完することによって可能である。しかし、三つの知識体系はその依拠する科学的方法論が異なる。戦略経営及びマーケティングは事例研究などの経験主義的な方法が、経済学は主として数学に基づく仮説演繹的な方法が、統計学も主として仮説演繹的な確率モデルが用いられている。従って、異なる方法論の知識体系を統一することは困難であるが、実践的には次のように統合することができる。

 まず、経験によって裏付けられた戦略経営及びマーケティング政策の理論や原則を参照して、問題解決に必要な原則と仮説を構築し、ゲーム理論を含めた経済学による基礎づけを踏まえて演繹的な原則を明らかにし、導かれた原則の蓋然性を統計的な方法に基づいて検証することで、原則の有効性を確認したうえで、より効果的でリスクの低い実際の政策に具体化する方法である(図表参照)。