W杯日本代表のリーグ戦敗退の戦略的読み方

2014.06 代表 松田久一

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順当な結果に泣ける

 W杯観戦から少しでも戦略思考を身近に感じて学ぼうというのがこのコンテンツの狙いである。日本はW杯のリーグ戦敗退が決定した。残念だが、これを戦略的にどう評価するか、サッカー「ド素人」のビジネス戦略の専門家としてまとめたい。

 C組の結果は、コロンビア(FIFAランキング8位)、ギリシャ(同12位)、コートジボワール(同23位)、日本(同46位)の順である。この順位は、FIFAランキング(2014年6月)の結果と同じである。つまり、何の驚きもない順当なものであった。しかし、泣ける。

 戦略とは、目的を達成するための手段を明らかにすることである。つまり、目的達成の一連の戦いの運用である。

 目的は、日本におけるサッカー振興、そして、来たるW杯優勝に向けての橋頭堡を築くことである。具体的には、サッカーファンを増やし、競技人口の増加につなげ、Jリーグの興行成果を上げ、行政府の支援を拡大することにある。この目的を実現する具体的な目標がリーグ戦突破である。さらには、2010年の南アフリカW杯のベスト16入りを越えることである。

 この目標を達成するための戦場が1次リーグ、対戦相手は、コートジボワール、ギリシャ、コロンビアである。FIFAランキングでみると、日本がリーグ戦を突破する可能性は低い。

 しかし、勝敗は、戦闘力、戦略、そして、戦いの場での様々な偶然の3つで決まる。それぞれの持つ影響力はほぼ均等に3分される。そして、戦闘力とは「物理諸力」と「精神諸力」の掛け算である。サッカーに置き換えれば、個々の選手の身体能力の合計が物理諸力であり、個々の選手の戦う意欲ややる気が精神諸力である。ザックの仕事は、ゲームの現場でも様々な偶然を制して、選手交代や戦い方の修正によって戦闘力を運用することである。

 FIFAランキングは、過去の対戦結果を反映した主に戦闘力の反映に過ぎない。従って、戦闘力の運用のうまさと偶然を味方にすれば、20位ほどのランキングの差なら十分に勝てる。しかし、FIFAランキングで10位内のチームに勝つことは相当難しいはずである。

 このような条件のなかでリーグ戦をどう突破するかがザックの戦略的課題である。

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戦略仮説と結果

 リーグ戦の始まる前に、筆者が持っていた戦略仮説は、もっとも戦力で近いコートジボワール戦に戦力を集中することである。そして、勢いにのってギリシャ戦に引き分け以上、そして、圧倒的な戦力格差のあるコロンビアには「神風」で、引き分け狙いで勝ちに行く。そして、1勝2分けで、2位でリーグ戦通過というものだった。戦い方は、ザックの掲げる高さを犠牲にした代表選抜による「攻撃サッカー」である。日本の平均身長は178㎝に対して、ギリシャ185㎝、コロンビアは181㎝、コートジボワール181㎝。日本が1番低い。最も平均身長の高いドイツの185㎝と比べると7㎝も小さい。優位に立つための原則は4つあると思っていた。[1]主導による攻勢、[2]運動量による優位置、[3]12人目のプレイヤーの引き込み、[4]組織連携のための世代間の競争的協調をあげた。(「2014年ブラジルW杯観戦で学ぶ実践戦略思考」参照)